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シスコン姉君、進軍す  作者: 蕾々虎々
七難八苦の記念日
1/13

ご機嫌用、私です -リディ-

2020/2/17:ルビを少し調整しました

2020/2/20:ルビの癖を変えてみました

 ご機嫌用(きげんよう)(わたし)です。


 私って誰だって?失礼致しました。

 私、リディーシア・ブラウリネージュと申します。


 格式高い貴族名家、ブラウリネージュ家の次女(じじょ)として産まれて十五年。

 どこに出しても恥ずかしくない淑女(レディー)であると自負(じふ)しております。


 自負?実際はどうだって?

 余計なことに気が付く人ですね。

 あくまで自負です。他評は付いてきてません。今はまだ。


 とはいっても別に常識知らずなお転婆(てんば)令嬢という訳では御座いません。

 故あって、淑女教育(しゅくじょきょういく)に関しては人並み以上だというのは確固(かっこ)たる事実ですから。世間評(せけんひょう)はともかく、鬼教師と呼ばれる人からお墨付(すみつ)きも貰っております。


 それでも周りの評価(ひょうか)は付いてきません。何故(なぜ)かって?


 そんなことが些細(ささい)に感じるほど、周りの目を(くら)ませてしまう存在(おかた)が身近に居るからです。そう、優秀程度(ひとなみいじょう)では(かす)んでしまう、隔絶(かくぜつ)したお方が。


 自分の(はる)か先を行く(あのひと)尊敬(そんけい)はしています。していますが。

 ……それでも僅か(すこし)ばかりの劣等感(コンプレックス)(いだ)いてしまうのは、(ゆる)して(いただ)きたく存じます。

 自分が目指すべき目標(なりたいすがた)であって、手の届かない憧れ(ただのゆめ)だとは、思いたくないですから。


 少々熱く語り(いれこみ)過ぎてしまいましたね。

 ああ、何で自己紹介をしているのか、ですって?

 それは聴くも涙、語るも涙なお話で。


 ――15年前、代々貴族を継承(けいしょう)してきたブラウリネージュ家に、それはそれは可愛(あい)らしい天使(てんし)のような女の子が産まれました。

 その女の子は……。


 唐突(とうとつ)回想(かいそう)やめろですって?

 分かりました分かりました。


 出来るだけ端折って(かんけつに)説明致しますが、無関係(ただのおもいで)という訳ではないのでほんの少し語る程度は我慢(がまん)くださいな。


 ――リディーシアと名付けられた赤ん坊は、笑顔のとても可愛い女の子でした。


 リディーシアはとても可愛い女の子でしたが、一つだけ困った所がありました。

 それは、とっても泣き虫さんだったということです。


 両親に抱きかかえられても一向に泣き止まず、かといって侍女に任せてみてもその激しさは増すばかり。

 どうしたらいいのか、父母(りょうしん)は揃って途方に暮れて(こまって)しまいます。


 そんな彼女でしたが、あることをしたら瞬く間(すぐ)に泣くのを止めてしまいました。

 それどころか、そのプルプルな(ほっぺた)を緩ませてとても、とても愛らしく笑い始めたではありませんか。


 それだけではありません。


 リディーシアは覚束(おぼつか)ない手を伸ばし始めました。正確には、伸ばそうと幾度(いくど)も幾度もその紅葉のような小さな手(かわいいて)を懸命に動かし続けていました。


 周囲の人達も()ぐに気が付きます。

 彼女は抱き返そうとしているのでした。自分がそうされて嬉しいことを、返そうとしているかのように。


 そう、リディーシアが()()んだ理由。それは二歳年上の姉、リーネリーシェに抱き抱えられた、その瞬間(とき)でした。


 無邪気(むじゃき)に笑うリディーシア。


 その一方で、リーネリーシェにもある感情(おもい)芽生(めば)えていました。

 産まれて初めて出会った、自分が庇護すべき(まもるべき)妹という存在。

 この両の腕(りょうて)に伝わる確かな(ぬく)もり。そしてその(とろ)けるような笑み(えがお)を前に、リーネリーシェも釣られて(はな)()くように笑ったのでした。


 リディーシアはその後もずーっと姉にばかり(なつ)いていました。他の誰が抱き抱えても(だっこしても)駄目で、姉が駆け付ける(きてくれる)までひたすらに泣き続けました。


 そうすると姉が来てくれるのを何となく分かっていたのでしょう。むしろ以前より泣く回数が増えたほどです。


 そんな彼女の為に毎度毎度呼び出されるリーネリーシェでしたが、そのことに不満(ふまん)を覚えることはありませんでした。むしろ、(ひそ)かに(ほこ)らしく思っていました。


 自分が妹の一番(いちばん)であること。それは今までの(わず)かな人生の中で、唯一(ゆいいつ)自分だけに与えられた確かな役割(いばしょ)


 その役割を与えてくれる。いや、それほどに自分を、自分だけを求めてくれる妹のことを、彼女は心から愛していました。


 月日が経ち、自由に歩き回り多少なりとも言葉を(かい)するようになったリディーシアは流石に無闇矢鱈(むやみやたら)と泣き出すことはしませんでした。


 その代わりに、彼女はいつも姉と一緒に居たがりました。ご飯も、遊びも、お出かけも、お風呂も、お布団も。

 未熟(みじゅく)なりにその手を、その口を最大限に活用し、ひたすら姉にせがみました。

 そんな彼女の我儘(わがまま)を、リーネリーシェは拒絶する(こばむ)ことはしませんでした。


 ですが、ある時を(さかい)にリーネリーシェは妹を避けるようになりました。

 声を()けてもそのまま行ってしまうし、抱き締めてもくれません。


 リディーシアは悲しみました。何故かを考えますが答えは出ません。

 それでも悲しんで悲しんで悲しんだ後、考えて考えて考えました。

 姉はただただ甘え続ける自分に嫌気(いやけ)がさしたのだと。


 幼心(おさなごころ)に自分の幼稚さ(おさなさ)を自覚してしまうと、途端(とたん)に姉への申し訳なさを覚えました。それでも、そこで諦めることは出来ませんでした。


 今までずっと姉の愛情を一身(いっしん)に受けてきた彼女は、姉のことをとてもとてもとても大好きだったのです。

 それを、仕方ないからと消化出来て(わすれて)しまう諦めの良さを、生まれ持っていなかったのです。


 姉に(ほこ)れる自分になりたい。姉に()かれる自分になりたい。そうすれば……。


 それから彼女は変わりました。甘えることをやめたのです。


 今まで姉と一緒、あるいはお願いしていた着替えも、ご飯も、お風呂も、お布団も、全て一人きりで頑張りました。

 最初は右も左も分からず(まるでわからず)最後には侍女が全てやってくれていましたが、毎日毎日諦めず(あきることなく)挑戦を続けて、ついにこれなら手を貸さなくても安心とお墨付(すみつ)きを貰いました。


 次に両親に相談し、教育係(きょういくがかり)を付けて貰いました。

 まだ早いと言われもしましたが、一向に諦めの見えない意思の固さ(かたくなさ)観念(かんねん)したようです。


 勿論辛い時もありましたし、泣いた回数なんて数え切れません。

 それでも、投げ出すことは一切しませんでした。


 全ては、もう一度姉の笑顔を受け取る為……。


 ――そして時は流れ、そして今に至ると。


 なげぇ!!!って?

 本当でしたら一幕三時間の三部構成で劇的(ダイナミック)にお送りしたい所を、断腸(だんちょう)の思いで愛情溢れ(やさしく)気品高く麗しい(すてきな)リリ姉様の魅力(みりょく)一割程(あらすじレベル)しかお伝え出来ない程度まで削減して(けずって)お送りしたのですけど。


 一人称の枠をはみ出した所まで描写され(かかれ)てるぞ、ですって?

 ……それは、火事場(かじば)馬鹿力(ばかぢから)という奴です。


 さて、(あらためて)めまして、何で自己紹介をしているのか、でしたか。


 何故かというとこれは……。

 走 馬 灯(そうまとう) だから、です!!!


 目の前に迫るのは何というか淑女(レディー)として口に出してはいけないような形相(かお)をしている二頭の馬。その馬には金属製(きんぞくせい)の引き手が取り付けられていて、その後ろで牽引(けんいん)されているのは現在一般的に流通している木材(もくざい)原料(もと)にした馬車だろう。家というには流石に小さいけれど、倉庫としては十分成立しそうなサイズだ。

 石畳(どうろ)を踏み砕かんばかりに騒々しく蹄鉄(ていてつ)を踏み鳴らしながら鼻息(はないき)荒くお互いに我先(われさき)にと言わんばかりの勢いで疾走して(はしって)いるお馬さん達。まず通常(ふつう)の馬の速度であれば危機的だった(あぶなかった)が、彼(彼女?)等は馬車(おもり)を引いている。

 本来なら早めに気付けば()けれる程度の速度であっただろう。しかし、現行で運行している馬車は基本的に魔法(まほう)強化(きょうか)するのが主流だ。というか、今時それ以外の馬車は淘汰(とうた)されている。道路は共用だから速度をある程度揃えないとスムーズな移動が出来ないから、不文律(マナー)として。

 話題が横道(よこ)に逸れたけど、そう、馬本来(もと)の能力を(はる)かに超える速度を出すことが可能なのだ。しかも、そこそこ優秀な(できる)人が掛けた魔法でもって、興奮(こうふん)により限界以上の能力を発揮(はっき)している。

 つまりどういうことかというと、気付いた一秒後には目の前に迫っていて一体どうしろと。


 とまぁそういうわけで、どうにもならない死を前にして人間の潜在能力(せんざいのうりょく)現実逃避(げんじつとうひ)浪費(まわ)された結果が、先程の小噺(こばなし)でした。

 語り口が違うのは、如何にもなご令嬢をアピールしてみたかったから。こちらが本来()です。


 冷静(れいせい)に聴こえたかもしれないけど、(わず)かでも可能性(かのうせい)があるんだったら確実にそれにしがみついている。

 (あきら)めの悪さだけで言えば、リリ姉様にだって負けないだろう。

 でも、どうにもならないのであればせめて、今までの人生(すべて)を掛けて目指した淑女(レディー)として振る舞いたい。


 叶わなかった夢だけど、その夢に至るまでの道程(みちのり)は確かに(あゆ)んでいたのだと。志半(こころざしなか)ばで倒れるとしても、今まで歩んできたことは無駄(むだ)では無かったのだと。そう信じる為に。

 それが、生死の尊厳(そんげん)を踏み(にじ)られかけている私の、せめてもの抵抗(いじ)


 ただ、(ねが)わくば。


 もう一度だけあの頃(むかし)のように、何も考えずリリ姉様に抱き着いて。


 頭を()でられながら名前を呼んで(もら)って。


 今まで頑張ったね、流石私の妹だって。


 認めて(ほめて)貰いたかった(ほしかった)……。


 ズゴオオオオオオォォォォォォォォォォォン!!!

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