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第二話「今朝の爽やかな気分は、一体どこに行ってしまったのだろう?」

 特にあてもなく近所の住宅街をブラブラと歩いていると、あるものを見つけた。

 光の球だ。

(これで十三回目ぐらいか?・・)

 それにしても本当に唐突に現れる奴だな。相変わらず人をおちょくるような飛び方をしてやがる。

 悠々と飛ぶその姿はまるで、捕まえられるなら捕まえてみろよ、と言わんばかりだ。挑発されているみたいで気分がよくない。

 せっかくの清々しい気持ちがちょっと台無しになった気分だ。

 また俺の前に姿を現したのだから、今回も捕まえてみようかな?

 俺は光との距離を詰め、手を伸ばした。


 スカッ。


「・・・」


 スカッ、スカッ、スカッ。


「・・・」

 やっぱり駄目だな。手の中に収まるはずの光は、握った俺の拳を透き通り、再びゆっくりと何処かへと飛んでいく。

「はぁ・・・」

 俺は溜息を一つつきながら、光の球が去っていく姿を見つめた。まるで、小三の頃と同じだな。あれから六年の内に度々出会ったが、こいつに関しては分からないことが本当に多い。

 どうせ行きたい場所があるわけではないので、暇潰しにでもこいつを追いかけるのもいいかもしれない。今日こそはこの光の何かが分かるかもしれないしな。

 俺は光の球を追いかけることにした。



 

 この光は今までと変わらず、歩いて追いかけても余裕なくらい動きがノロかった。

 ゆらゆらとゆっくり飛んでいく姿を、俺は改めてシャボン玉のようだと思ったね。息でも吹きかけてやれば高く高く飛んでくれそうだ。

 そんな他愛もない事を考えている頃には、この光を追いかけてから五、六分ぐらいは経過していた。途中、その辺の家を透き通って向こう側の路地に向ってしまうという能力を何度か御披露してくれたが、今の今まで何とか見失わずにいる。

 そろそろこの光も目的地にたどり着いてくれないものかねぇ。大体これには目的地なんてあるのだろうか?ただブラブラと、今の俺のように目的もなく彷徨っているだけのようにも見える。

 何からも縛られず、こうして悠々自適な過ごし方をしていられるとは、いい御身分だ。羨ましい限りだね。

 ・・でも、中学を先日に卒業してからの春休みの俺の生活も、傍目から見たら、こいつと然程変わらないようにも思う。簡単にいえば俺も悠々自適だった。

 思えば春休みに入ってからは、俺の生活なんて家で好きなことしてあとは食って寝るという、ワンパターンで実につまらない生活だった。そんな日常が数日続いた時、俺は卒業したばかりの中学校を恋しく思っていたことに気づき、そして、そんな考えを持った自分に驚いた。「学校に登校するのなんて死ぬほど面倒臭い、つまらない」と飽きるほど思っていたこの俺が、いつしかそんな考えを持っていたのだから。

 中学での生活全てが楽しくなかったわけではないが、それでも俺の脳みそに、中学生活が良い思い出として刻まれるには至らなかった。

 対人関係でモヤモヤしたことだってあるし、思えばその色々なモヤモヤが楽しいという感情を押し潰してしまったと思えなくもない。そんな陰気くさいことなど気にせず、もう少し楽に気持ちを持っていれば良かったものを・・。そうすれば日々をもっと楽しく過ごせたかもしれないのに。今更になってちょっと後悔だ。

 物思いに耽っていた俺は、さしかかった十字路で光が左に向かったことに一瞬気がつかなかった。

「おっ・・と」

 俺は一瞬遅れて十字路を左に曲がる。

 曲がった先も特に景色は変わらず、普通な家々が並ぶ路地があるだけ。

 そんな路地を、光は俺より十歩ぐらい先でゆらゆらと飛んでいた。

 色々考えてる間に、少し距離が開いてしまったようだ。俺は小走りで光に駆け寄り、手の届く範囲にまで近寄る。

 光を歩いて追いながら、俺は先ほどまでの物思いに耽る自分を思い返した。

 ・・ちょっと、気分が暗くなってたように思う。もう少し晴れ晴れした気持でいよう。

 けれど、一度落ち込んだ気持ちは、そう簡単には直らない。

 せっかくの春休み、受験も終えてピリピリしていた気分を癒しているのに。それに、高校入学を控えた時期に何を暗くなっているのだろう、俺は。

 こんな調子で、高校生をやっていけるのだろうか?

(・・・・)

 気分がどんどん憂鬱な方向へ向かっている。

 不意に、今朝の美紅の言葉を思い出した。確か、陰気くさいよ、と言われた。その言葉は、今の俺の心境にピッタリの言葉だろう。

 いつの間にか俯いていた顔をあげ、視界に光を捉える。

 そういえばと、ふと思う。


 今朝の爽やかな気分は、一体どこに行ってしまったのだろう?





 

 鬱陶しい気分を従えながら光を追っていると、あることを思い出した。

 確か、この辺に友人の家があったはずだ。その友人というのは、過去に俺が背中にドロップキックをお見舞いしてやった相手でもある。そいつとは小一からの付き合いなので、幼馴染ということにもなるだろう。入った中学も同じで、二年と三年では同じクラスになった。そういえば入学する高校も俺と同じだったな。なんだか腐れ縁を感じずにはいられない。

 俯きがちに友人のことを考えていたせいだろう。

「あれ?」

 俺は光が移動速度を増していたことに気がつかなかった。気づいた時には、光は俺より十数メートルぐらい先を飛んでいた。

「チッ・・」

 この光は蠅や蚊とは違い無音で飛ぶので、近くにいるのか、遠ざかっているのか分からない。しっかりと姿を確認していないと見失いそうだ。

 それにしても初めて見るな、動きが速くなるのは。

 自転車が走るぐらいの速さとなった光は、当然ながら先ほどよりも追いかけるのが困難になった。

 道の上を飛んでくれるなら追いかけていられるが、さっきのようにそこらの家を透き通って行ってしまうと、この速さでは追いつくのが難しい。

 案の定、光は今にも、目の前の家を透き通ろうとしている。

 俺は光の進行方向を予想し、隣の路地へ向かうために急いで引き返した。



 そして、案の定光を見失った。

 いきなり速度をあげるとは、流石に意表をつかれたよ。

 俺は住宅街の路地で、一人でポツンと立ち尽くしていた。 

 この後どうしよう?見失った光を探すか、それとも諦めてこのまま帰るか?

(・・・・)

 どちらも癪に障ると思った。

 せっかく友人の家の近くにいるのだ、暇になってしまったのだからそこにお邪魔してしまおうか?ここからなら友人の家へは、歩いてもそんなに時間はかからないはずだ。

(よし、行ってしまおう)

 俺は何秒か迷ったのち、友人の家へ出向くことにした。このまま自宅に引き返してもやることなど無いし、それならば友人とテレビゲームでもして、暇を潰すほうがよほどマシだ。

 俺は友人の家へ向かうため、歩きだした。

 歩き出したのはいいが、道中、東の空から差し込む陽射しが目に入っておもいだした。

(まだ朝っぱらじゃない・・)

 

 友人が起きてくれていれば助かるのだが・・。


 

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