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第一話「朝の光」

 目が覚めて早速気づいた。俺の右腕が伸びていやがる。天井に向かって真っすぐに。

 夢の中の自分と同じ行動を行ったのは、多分これが初めてになるだろう。

 腕を下ろして首を動かせば、見慣れている自分の部屋の風景が目に映る。カーテンを閉めたままの窓からは、お空さまの気分が良いようで、陽の光が差し込んでいる。

 俺は枕元の電波時計を確認する。

 今日の日付は三月二十七日、時刻は午前五時二十分前。それを確認した俺は、高校への入学式までの日数を数える。

(入学式ががあるのが七日だから・・)

 残りの春休みは今日を含め十一日ということになる。まだ、休みは少しばかり続くというわけだ。

 予想外に長い春休みに最初こそは嬉々としていたものの、やることのない退屈な日常が一週間も続けば、面倒だと感じていた登校日も恋しく思ってしまうのだから不思議だ。

 俺はベッドから上半身だけを起こし、覚醒しきれていない意識のまま、今さっき見てたであろう夢のことを思い出した。

 今日見た夢は、俺が初めて光の球を見たときの夢だった。

 その夢の中で、まだ小学三年生の俺は、友人と遊ぶために自宅の近くの公園で、夏の日差し照りつけるクソ暑い中、友人を待ち続けていたこと。待っている間に初めて光の球を見たこと。光の球を捕まえるために頑張っていたこと。そして捕まえるのを諦めたこと。

 その夢での出来事は俺が実際に経験したことと全く同じだった。

 あの光の球はあの後も俺の前に稀にだが姿を現した。現れているのはいいのだが、どういう訳かこの光は俺の目玉にしか映らないということも既にわかっている。

 他人の目には映らないわけだから、俺は最初、この光が俺の霊感の鋭さのせいで見える幽霊や妖精の類かと疑っていた。

 しかし、この光がグロテスクなゾンビとかに変身するという衝撃的な光景を目の当りにしたことなどないし、今までを思い返しても、俺は幽霊といったら、どこそこの井戸から這い上がってくるあの御方のような想像上の幽霊しか見たことがない。

 そもそも、俺はその光を見た回数が未だ十回位しかないのだ。見るたびに捕まえようとしても無駄に終わるし、ある時は空高くを飛んでいる時もあるのだから奴の生態観察などできたものではない。

 光は何故現れるのか。光は一体どこに向かうのか。何故俺にだけ見えるのか。知りたいことはそれなりにある。

 いつになったら知ることができるのだろうね。別に知らなくてもよいのだろうが・・。




 

 二度寝でもしようかなと思って再びベッドの上に横になったが、あれこれ考えていたせいか眠気が吹っ飛んでしまったらしい。眠ろうとしてもお目目はパッチリしていて、俺の眠りの邪魔をしやがるのだ。

 まあいい、今日は早めに起きてみるとしようか。

 休日の寝起きにしてはいつもより随分と早いが、休日に早起きするからこそ得られる何かがあってもいいはずだ。

 俺は頭まで被っていた布団をバッ!と払いのけ、ベッドから抜け出した。

 そして、箪笥から取り出した私服に着替えてる最中に、ふと思い出したことがある。

 俺は小三の頃、夢と同じように友人と遊ぶために公園で待ち合わせしていたことがあるわけだが、その友人のクソ野郎は結局一時間以上待っても俺の眼中に現れることはなかった。

 クソ暑い中待ってやっても姿を見せなかった友人に対し、イラッとした俺は後日、当時通っていた小学校の廊下で野郎の背中にドロップキックを放ってやったことがる。ズサーッとよく滑ったのを覚えている。

 そんな当時の出来事を思い出し、着替えを終えた俺は、クスッと軽く笑ってしまったのだった。





 退屈な日常とは主にどういう生活のことを指すのか。

 その一、テレビをずっと見ている。

 

 その二、家で好きなこと(俺の場合、ゲームして遊ぶ)をする。


 その三、やることもないので横になる(寝る)。


 *これらの例はあくまで俺の感性のみで導き出したものである。

 この三つの例を俺は、一階の居間で横になってゲーム機を弄りながらテレビを見ている最中に思い立った。

 まだ早い時間なので俺の家族は未だ自分のベッドで就寝中。居間には俺以外誰もいない状況だ。そんな寂しい居間は、雨戸を開けず朝の光を差し込ませていないのでかなり暗く、そんな中電気もつけずに一人でこんなことをしている俺って一体何なのだ?

 ・・なんだか気分が急に白けてきた。

 俺はこの空しさとオサラバするためにテレビの電源を消し、ゲーム機をスリープさせ、背筋を真っ直ぐにして正座をしてみた。

(・・・・・)

 何故かな? 余計空しくなった気がするぞ。

 そもそも、今挙げた三つの例をよく考えれば空しさの理由もすぐ分かるというものだ。それは、この三つの例は基本的に一人限定で行うことが多いからである。これらの事柄は暇潰しにはなるだろうが、正直楽しいとは感じないのだ。

 こんな退屈な休みがあと十日程もあると思うと、とてもじゃないがやってられん。

 せっかく早く起きたのだ、朝の空気を吸いに散歩にでも行こうか?

そんな考えが頭をよぎった直後。

「・・兄ちゃんなにしてるの?」

 声がしたので居間の入り口に目をやると、妹の美紅がいた。相変わらず早起きな奴だ。

「こんな暗い部屋で正座してるなんて、陰気くさいよ」

 そんなに陰気くさかったか?俺。

「横になってゲーム機を弄りながらテレビを見てたら急に空しくなって、テレビの電源を消してゲーム機をスリープさせて背筋を真っ直ぐにして正座をしたのに、余計空しくなったのは何故だろうね?美紅」

「真っ暗い部屋でそんなことしてるからでしょう。雨戸ぐらい開けて光を入れ込みなさい」

 鬱陶しそうに即答されてしまった。

 美紅は居間の窓を開け、窓に覆いかぶさる雨戸を上に押し開けた。

ガラガラガラ、と雨戸の開く音が居間に響く。

 ああ・・朝の暖かい空気が差し込んでくる・・。耳を澄ませば遠くで小鳥のさえずりが聞こえてくる。

(いいね、この朝の雰囲気。マジで散歩に行きたくなったぜ)

 俺は朝の清々しい空気を吸いに行くために散歩をする決心をした。

「俺、ちょっと散歩に行ってくる」

「そう、勝手にいってらっしゃい」

 美紅の気だるそうな挨拶を聞きながら、俺は居間を後にし、玄関に向かう。そこで靴を履いた俺は玄関の扉を開け放った。

 外は若干靄がかかっており、そして朝の麗らかな陽射しが降り注いでいる。中々綺麗な光景だ。

 なんだか爽やかな気分になってきた。このまま散歩に出れば良いことの二つや三つ訪れてくれるだろう。

(さて、まずは何処に行こうか)

 

 俺は歩き出した。


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