人狩りとナノマシン
隣の部屋にあった機材なんかも手あたり次第回収してみたが、使えそうな機械はすでにパーツがくり抜かれているので殆ど鉄にしかならないそうだ。
出来れば電子部品が沢山付いているようなものが効率的にいいらしい。
「壊れていたり錆びてたりしてたけど、途中で見かけたから拾っていきましょう」
アールがそう言いながら部屋から出ようとした時だった。
通路の奥から、ヴィーンという低い音で何かが近づいてきていた。そしてその何かが見えてきて筒状のロボットであるということが分かった。
「人狩り!? こんな時に……!」
アールはサンパチの手を取り、一目散にロボットと反対方向に走り出す。
「急になんなんだ!?」
「走って!! あれは『人狩り』よ!!」
走りながらサンパチは後ろを振り返る。
『止マリナサイ。止マリナサイ』
人間の男性の言葉を機械的に発しながらこちらを追い掛けてきている。
(どう見ても施設のガードロボットだよな……?)
見たことのある姿にアールがなぜこんなにも焦っているのか、どうしてあれがガードロボットだと知っているのか。色んな疑問はあったがとりあえず一緒に走った。
「こっちで合っているのか?」
「知らないわよ! 途中で分からなくなっちゃったもの!」
てっきり出口に向かっているものだと思っていたが、追ってくるロボットを撒こうと走り回っていただけらしい。
そして案の定、行き止まりに辿りつく。
「うそでしょ!?」
「そりゃ適当に走れば行き止まりに辿りつくこともあるわな」
こちらの動きが止まったせいか追いかけてくるロボットの動きも遅くなった。
筒状だった機械から両手が生えたように伸び、こちらを捕獲しようとしている。
『抵抗セズ、投降シナサイ。抵抗セズ、投降シナサイ』
ゆっくりと、確実にこちらに向かってきている。
「捕まったら終わりよ! サンパチ、さっきみたいにあいつも回収したりできないわけ!?」
「だそうなんだけど、そんなこと出来る?」
『動いている対象の捕獲はできません。工房内で暴れる危険があります』
「あーもう使えないわね!!」
サンパチの尻にアールは思いっきり蹴りを入れた。もとはと言えばこいつのせいで時間を無駄に浪費してしまったのが悪かったんだわと悔やんでいた。
「何とか戦えないわけ?」
『破砕振動であれば可能だと判断します』
「何それ?」
『腕に超振動を起こして相手を殴ることで対象を破壊する感じらしいです。スペック上は可能ですが出来ますか?』
「なんでナビする側が俺に確認するんだよ」
右手の拳をぎゅっと握りしめ、腕に細かい振動を起こすようイメージしてみる。
ヴィィィと手が見えない速度で振動し始めたのを確認する。
「よし、これなら!」
「ちょ! サンパチ!」
アールの制止も聞かずにサンパチはガードロボットへ向かっていき、思い切り右手で殴った。
ゴチンという金属を殴った音がして、殴りつけた部分が粉々に砕け散った。
それでもまだロボットは動く。
「もういっちょう!」
壊れた部分を更に殴ると、メキメキと音を立ててロボットが崩れ落ちていった。
「おお! アール見たか! 倒せたぞ!」
「倒せたぞ! じゃないわよアンタ腕ボロボロじゃない!」
アールに言われロボットを殴った右手を見てみる。ボロボロで血まみれになっている。しかし痛みは感じない
「すごい血が出てるじゃない! すぐに手当てしないと……!」
『問題ありません。この程度であれば自己修復によってしばらくすればリペア可能と判断します。血も正確には壊れたナノマシンが流れているだけです。人間を模しているので同じような表現を行っているに過ぎません』
「そ、そうなの?」
「確かに痛みはないな。右手動かなくなっちゃってるけど」
『痛覚も再現可能ですが現在はシャットダウン状態です』
この力はメリットだけでなくデメリットも多いらしい。
腕なんか切れちゃっても治るんだろうなと楽観的にサンパチは考えていたが、アールが小さい声でキモっ、と呟いたことにちょっと傷付いた。
心の痛みは感じてしまうらしいのでまだ人間的な部分もあるんだなと感じた。