AIと人間辞めかけてる男
数十秒抱きしめられたところで我に返り、思い切りサンパチの頬にバチーンとビンタした。
「いきなり何すんのよ変態! わ、私のファーストキスがこんなわけ分からないサンパチなんかに……。屈辱だわ!! 返しなさいよ!!!」
袖口で唇をゴシゴシと拭う。
ビンタの衝撃で後ろにこけたサンパチが何事もなかったかのように起き上がる。
「痛いじゃないか」
「いきなり乙女にハレンチなことするからよ!」
「だってナビがそうしろって……」
『その通りです。血液や皮膚移植での行動がとれませんでしたので、粘膜からナノマシン接種していただきました。他にも時間はかかりますが男女間での性行……』
「それ以上は良いわ! ちゃんと声が聞こえるから大丈夫よ!!」
「どうしたアール。顔が赤いぞ」
何だかムカついてもう一度サンパチの頬にビンタを喰らわせた。
『この壁ですが、コンクリートの塊です。量は大したことありませんが、工房に入れてしまうのが早いかと思われます』
「工房?」
二人の声が重なった。
『マスターの体内にある工房です。今は資源リサイクル用の小さな工場のみ稼働させることが可能です』
「それが俺の中に? 今はってことは他にも色々あるんだよな?」
『その通りです。ですが大量の資源が必要になります。一ヵ所稼働させるに数トン、更に動かすならもう数トンの資源が必要になるでしょう。細かい条件は私にも分かりません』
「燃費悪いなー。しかもナビなのに分からないってどうなの……」
その答えにナビは生まれたばかりですからとしか答えなかった。
とりあえず今は進むしかなさそうだった。
『対象の物質に手を当ててください。そのまま工房にいれるイメージをすれば入ります。工房に入った後はこちらで自動運用しますのでお任せください』
「えーと、こんな感じかな?」
目の前の瓦礫を触り、自分の中にぼんやりあるのが分かる工房とやらにいれるイメージをしてみると、シュンとまるで手の中に吸い込まれる様に消え去った。
「おぉ、便利だなこれ。なんか体の中に入っていく感じで気持ち悪いけど」
「便利だけど、このナビってやつといい、アンタも本当に人間なの? 普通にありえないでしょこんなの……? これもエグザイル特有なのかしら」
目の前で起きた光景を信じられなかった。自分の頭の中に知らない声が聞こえてくるのでパニックにならないのに必死なのに、この男は人間より大きなサイズの瓦礫を消してしまったのだ。あり得ない。自分の何かがあり得ないと言っている。
『マスターは正しくは元人間であると記録されています。現在は体組織の殆どが自己増殖型ナノマシンによる構成です。人間辞めかけちゃってる状態であると判断します』
「それって機械ってことなんじゃないの? それにアンタ、意外とフランクな部分もあるのね。もっと機械的な奴だと思っていたわ」
『学習型AIですので』
「ま、言ってることの殆どは何話してんのか分からないけど、サンパチはかなり変人で人間辞めかけてるってことは分かったわ」
「その表現酷くない?」
瓦礫を次々と回収しながら後ろの会話を聞いていた。
そうして埋まっていた瓦礫を全て片付け終える。
「ふぅ、こんなもんかな。結構集まったんじゃない?」
『ぶっちゃけ全然足りません。1パーセントにもなりません』
「マジかー……」
数百キロもありそうだった瓦礫を取り込んでもまだまだ足りないらしい。