ズキュゥゥン
「それじゃ、サンパチ動ける? ここは電力も通ってるけど、それはそれでヤバいのよね」
「うん。身体は問題なく動くみたいだな。で、何がヤバいんだ?」
「電気が通っているような場所は『人狩り』がいることが多いの」
人狩りという単語に頭の片隅で過去の世界の歴史が引き出しを開けるように出てくる。どうしてこういう知識はあるのに自分の記憶がないのだろうかと考えつつ、質問を投げかけた。
「歴史の教科書で出てくるような奴隷を目的とした商人の話か?」
「何それ? 私勉強はしてないから知らないけど、奴隷商人は別にいるわ」
「そんなバカな。大昔の法律で禁止になったはずだ……」
「自分の事は分からないくせにそれ以外の知識は覚えているわけ?」
「……。どうもそうらしい」
自分の事に関しては記憶が曖昧だ。けれども歴史や知識に関してはちゃんと思い出せる。
通路を歩きながら、アールから『人狩り』とは機械人形の事だと聞いた。
人の形を模した物、ボールのように転がる物、鳥みたいに飛ぶ物、中には大型のロボットまで存在しているらしい。理由は分からないが一定の範囲内でしか襲ってこないが、人を捉えてどこかに連れ去っていく。そしてその者は二度と戻ってこられない。反抗して攻撃をしようものならロボットの方も銃を撃ってくるタイプもいるらしい。
「話を聞く限りだと、ガードロボ、メンテナンス用ロボ、ドローン型、大型ってことは工事用か軍事用だと思うけど、撃ってくる奴らは警察タイプか軍タイプじゃないかな?」
「何言ってるのかさっぱり分からないわ。エグザイル語ってやつなのかしらね。面倒だし出てきたらちゃんと教えて」
サンパチから聞いたこともない単語がスラスラ飛び出してくるので、アールは頭がこんがらがりそうだった。それでも、自分が知らない単語や知識が彼の口から出てくるたびにエグザイルであることの確証が強まっていく。
そんな会話をしながら歩いていった通路の先、アールが通り向けてきた場所だ。
変わらず無数の瓦礫が通せんぼしている。
「アタシは通れるけど、この隙間じゃサンパチは無理ねぇ……。どうしたもんか」
「あー、なんか困ったらナビに聞けって言われてたんだったな」
「え? ナビ? エグザイル語使わないでよ分からないんだから」
「なんかあったときに頼れって言われたのは覚えてる」
自分の中にあるナビというものを起動させてみる。軌道のさせ方もどうして自分は知っているのだろう? 分からない……。
『お呼びですかマスター』
「おぉなんか聞こえた! これがナビか!?」
「ちょ何!? 何にも聞こえないんだけど?」
アールが辺りをキョロキョロ見渡しながらナビと呼ばれた何かを探し回っている。
『マスターの脳内で直接話しているので他の方と会話することはできません』
「なんか俺の中でしか喋れないんだって」
「何それ、いきなり横でブツブツ言われると怖いんだけど……」
「だ、そうなんだけどなんとかなる?」
数秒の沈黙の後、ナビと呼ばれる存在は回答を示した。
『……ナノマシンの一部を受信機として彼女に定着させます。そうすれば会話が可能です』
「なんか可能かもって言ってるけどどうする?」
「痛いのは嫌よ!」
「痛いのはダメだって」
『かしこまりました。それでは粘膜接触を提案します。マスター。アール様にキスをしてくださいますか。ズキュゥゥンとなるようなやつでお願いします』
「え? あぁ分かった」
サンパチはグイッとアールを引っ張るとその唇にキスをした。
『可能なら相手の口に舌を挿入してください。その方が確実です』
従うままに驚いて固まったままのアールの口を下でこじ開けるように下を入れる。
アールの方は何が起きているのか分からなかった。驚いて目が丸くなった。
(抱きしめられていきなりキス!? なんで!? しかも舌! 舌入ってるぅぅぅ!!?)