小さな部屋の冷凍庫
部屋の真ん中にぽつんと機械が設置されていて、何本もの大小のケーブルが壁に向かって伸びている。
「ここだけ別電源なのかな。今時電気が残っている廃墟なんて殆どないのに……」
この世界に電気がないわけではない。大きなコミュニティーであれば発電機があるし、ソーラーパネルを利用して個々で冷蔵庫やレンジなんかを使っている人もいる。
それでも発電機の類は、超が付くほど貴重品だ。直せる技術者は少ないうえに何とか部品を繋ぎ合わせて動かしているレベル。
本当に壊れたら二度と動かせないなんてことも当たり前である。
探索を家業とする生業もあれば、物心ついた時から技術者を目指して何処かのコミュニティーで修業をする人だっている。
全ての技術が失われたこの世界ではエンジニアは数少ない。車から家電製品、発電機と至る殆どの機械を直せるレベルでないとそれだけで食べていくことは難しい。
それほどに厳しい世界なのだ。
そんなロストテクノロジーに近い電気が普通に通電していることが異常に近い。
「どこかに発電機か蓄電池があるんじゃないの!? うぉぉ、お宝だー!」
動いている発電機や蓄電池があればしばらく働かなくても生きていけるだけの大金が入ってくる。
そんな心躍る展開だったが見渡す限り壁とケーブル。それらしきものはない。
「もっと地下に埋まってるのかなぁ……。一人じゃ無理だろうしせっかくのお宝が……」
肩を落としながら部屋の中央に設置された機械に近づいてみる。これは何だろう。ガラスのようだが曇っていて中がよく見えない。
「なんだろう。人の形っぽいけどロボットかな? まぁパーツだけでも取れればお金になるだろうしいっか」
持っていたライトでガンガンとガラスを叩いてみたがびくともしない。
「堅いなぁ。強化ガラスってやつなのかな? 初めて見るけど」
近くにあった瓦礫を思い切りぶつけてみたが、ぶつかった瓦礫が崩れただけでガラスには傷すら付かなかった。
「あーもう! 全然割れない!」
色んな手法を試してみたがガラスは割れなかった。
はぁはぁと息を切らして再度機械を見渡してみる。そして彼女の目に小さなモニターがうっすらと映っていることに気が付いた。
「うーん。日本語じゃないのかな……読めないや」
画面に映る文字が薄いせいもあったが恐らく違う国の言葉だったであろう文字を読み取ることができなかった。
生まれてから勉学など習ったことはない。最低限の言葉や読み書きは教えて貰っていたが、それ以降は全て自分で覚えるしかなかった。文字の読み書きが出来ない人間もいるぐらい。
モニターの近くにあったボタンを手あたり次第にポチポチと押してみた。
反応はない。
「壊れてるのかなぁ……。あー、無駄足かぁ……」
諦めて帰ろうとした時だった。プシューという空気が抜けていくような音と共に冷たい空気が機械から吹き出していた。
あんなにびくともしなかったガラスが開いていく。
咄嗟に飛び退いて、腰からぶら下げていたサバイバルナイフを取り出していた。
(急に何なの!? もしかして何かしらの防御装置……?)
身構えていたがそれ以上何も起こらなかった。単に機械が動いただけだったのだろうか?
「驚かさないでよね。心臓に悪い……」
ナイフを持ったまま、恐る恐る動き出した機械に近づいていく。
そこには間違いなく『人』だと思われる物が横たわっていた。
「これ、人間よね……。なんでこんなところに?」
「ん……」
「うわっ! 動いた!?」