スカベンジャーのアール
生まれた時から、世界は廃墟だらけだった。
それが当たり前だったし、大昔は見渡す限り人がいて、一日を生きるなんて息をするレベルで普通だったなんて、ただのおとぎ話に過ぎない。
毎日飢えて死ぬ人がいる。略奪されて自由を奪われるものもいればその場で殺されることもある。毎日必死に生きること以外考えられない。そんな世界が私の普通だった。
どこにも所属せず、家族もいない。ずっと一人での生活。
コミュニティーはこの世界で生きる人間が寄り集まって出来た組織。
彼女のように廃墟を探索して使えそうなパーツを拾って生活するスカベンジャー。
スカベンジャーから部品を買い取り、販売して生活するジャンカー。
ジャンカーから部品を機械の修理や保全を生業とするエンジニア。
それにコミュニティーを守るための傭兵や、スカベンジャーとともに廃墟探索で護衛を務めて生計をたてるマーセナリー。
他にも農業やハウスキーパーなんかで暮らしている者もいる。
人々が暮らすコミュニティーも様々だ。全員で協力して暮らしていくことを目的としたところもあれば、弱肉強食が全てで弱い人間は使い捨てる様なコミュニティーも存在する。
そして彼女のようにどこにも所属せず、自由気ままにスカベンジャーをする人間もいる。コミュニティーに所属できなかった、追放された、自ら望んで外れた等理由は多々ある。
自由な代わりに制限もある。どのコミュニティーも外部の人間には閉鎖的だ。厄介ごとを起こしたり、有望な人間を攫ったりするような人間もいる。中には奴隷として人を売るために攫う目的の者も少なくない。
そのため、一定の信頼がない場合にはそもそも出入りが出来なかったり、行動に制限がかかる場合もある。
自由に出入りが出来るとすれば実力主義のコミュニティーか奴隷市場のコミュニティーぐらいだろうか。
そんな世界で女は一人、廃墟の中を進んでいた。
地下深く、探索目的で歩き続けている。
物心ついた時からスカベンジャーとしてあちこちの廃墟を探索しては使えそうな物を拾って生活をしている。
「んー。これもダメ、こっちもダメ! 全部壊れてる」
落ちていた機械の一部であろう部品を拾っては捨て、拾っては捨てを繰り返している。
「美品じゃないと買い取らないとか嫌なご時世よね。そんなものとっくに掘りつくされているのに……」
壊れていたり、錆び付いている部品は再利用できる部分が少ない。大昔はそんなものでも直せる技術があったと聞いたことはあるが、そんなものはもうない。
美品でないガラクタを数キロ分集めても幾らかの小銭になるかどうか。
ここ数百年、それを人類は行ってきた。そのせいで地上にある機械はすでにガラクタの集まりばかり。大人数で行動しているスカベンジャーでもない限り拾う価値もない。
それに代わって美品であれば数千円から取り扱われるのだから美品を求めて地下に潜り探索を行うのだ。
「何が誰も探索してないエリアよ! 思いっきり人の足跡だらけじゃない! あの情報屋後でぶちのめす!」
大金を叩いて買った情報は全くのガセネタだった。
『誰も探索していない廃墟がある。お宝もあるはずだ』
そう聞いて咄嗟に情報を買ってしまった自分の落ち度もあるが、足跡だらけの廃墟にそれすらも忘れて憤りを隠せないでいた。
めぼしい物はすでに持ち出されたか、解体されて中身だけ持っていかれた跡がある。
「とりあえず、何かないか探しますかね……。お金も稼がないといけないし……」
失った大金と、お宝という希望が一度に失われ、ガッカリした気持ちでいたが、何か少しは金目のものが残っているのではないかという淡い気持ちだけで探索を続けていた。
行きついた部屋の中は何かの制御室だったようだ。ボロボロになった机やイスがあちこちにあり、かつては何かの装置だっただろうバラバラに解体された機械が散乱している。
引き出しを開けてみたり、机の下を覗き込んでみたり、何かないか探してみる。
「おっ、なんだ電卓かぁ……。一応動くし持って帰るか」
机の下に落ちていた古い電卓が動くのを確認して、肩から下げたバッグに放り込む。
他にも何かないか探していると、奥の部屋に続く道があった。
「崩れてて狭いけど、私なら通れるかな……?」
入り口が崩れた天井の瓦礫で埋もれていたため通れなかったが、小さい隙間があった。
恐らく大人は通れないし、無理に瓦礫を退けようとすれば更に崩壊するかもしれない。そうなればこの先は手つかずのはずだ。これはラッキー。
「いよっ……と」
隙間に潜り込み起用に進んでいく。こんな時に小柄な身体で良かったなと思う反面、育っていない自分の胸に少し気持ちが落ち込む。
(きっとまだ成長する……はず、だよね……?)
複雑な気持ちで瓦礫の隙間を進んでいくと、一本道の通路へ出た。
薄暗くてよく見えない。持っていたライトを照らしながら奥へと歩き続けると、大きな扉の前に辿りついた。
肩で押すように踏ん張ると少しずつだが開いていった。中からうっすら明かりが零れていることに驚いて、開いた隙間に身体を滑り込ませるようにして部屋の中に入った。
「なにこれ? ここだけ電力が通っている……?」