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R-38  作者: 妖怪ポテチ
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マッドで.サイエンティストでクソジジィ

 俺のいた世界は戦争なんてない平和な世界だった。次々と技術開発が進み、今ではロボットが人の仕事を次々と奪っていくような世界。

 そして自分も日々新しい実験をする研究者として従事していた。


「助手君! 遂に完成したぞ!」


 博士がラボの奥でうひょーと踊りながらステップを踏む奇怪な踊りをしていた。

 白髪染みた髪に短パンとTシャツ、サンダルをはいたラフな格好なのに白衣だけは必ず来ている。一般人がみたらどうみてもヤベーやつにしか見えない。


「今度のガラクタはなんです? そろそろちゃんとした結果を出さないとこのラボを閉めるって上から言われているんですよ!」


 そこは博士と俺しかいない小さなラボだった。

 毎日役に立つのか立たないのか分からない開発を続けているのに、なぜか予算の打ち切りにならない。それだけ有名な人なのだろうと勝手に思っている。

詳しい話を聞いてみても本人がはぐらかしてしまうので聞けずじまいだった。


「今回のはガラクタではない! 超マイクローン化した工場だ!この中にありとあらゆる遺伝子データと、全自動化した工場を詰め込んである、これもマイクロブラックホールの理論と質量の理論を掛け合わせて……」


「難しい話は良いんで、それがあるとどうなるんですか?」


「結論、人でなくなる! まぁナノマシンが体の作りを少しずつ作り変えてしまう程度じゃな。そしてそれを可能にするのがこの超マイクローンスフィアじゃ! この小さなビー玉サイズの中にオーストラリア大陸ぐらいの土地が詰まっておるんじゃ!」


「おぉ! そこで圧迫されて土地がない部分をこれで管理してしまおうと?」


「簡単に言うとそうなるかのぅ。さて、助手君にはこれのテストをしてもらおうか」


 何を言っているんだこのジジィは。身体がナノマシンで作り変えられた挙句にオーストラリア並みの大陸を体内に宿せと? あまりにもバカげている。


「で、なんで気が付いたらベッドに縛り付けられてるんですか! 話せ! おいセキュリティ!」


「うふふ、呼んでも誰も来やせんよ。ここにはワシと君だけの特別なプライベート空間なんじゃからな……」


「ひぃ! 気持ち悪い! キモイじゃなくて気持ち悪いよこの人!」


 あっという間に身体を機械に拘束されて身動きが出来ない状態にされる。


「あの、自分で試せばいいんじゃないですかね……? そもそもこんなの人権侵害ですよ!」


「ワシも歳じゃからなぁ。それに何かあったら解剖できないじゃん? あと、このラボに入ってもらう時に書いてもらった誓約書に『どのような実験でも参加します』ってちゃんと書いてあるじゃろうが」


 そういうと一枚の紙をこちらに突き付けてくる。


「書いてないじゃないですか!」


「ここじゃここ! 一番最後の隅っこに書いてあるだろうが!」


老人が書類の端っこを指差す。目を細めてよーく見ると他の字の半分以上も小さい字で『どのような実験でも参加します』と確かに書いてあった。


「ちっさいよ! 分かるわけないだろ!」


 そんな叫びも虚しく、首筋に注射器のような機械を打たれる。


「あ……!」


「これでしばらくすれば身体の組織が組み代わってくるはずじゃ。それと君に打ち込んだオーストラリア大陸の……面倒だし『工房』とでも呼ぼうか。実験段階だから殆ど機能していないからナビゲーションに頼るしかないが全て稼働できれば世界が変わるはずじゃ! 早速学会で発表せねばならんの! おい、なんだ気絶したのか? これはこれで貴重な結果じゃな……」


 急に頭がクラクラして意識が飛びそうになっていた。何か訳の分からないことを楽しそうに話しているが、最後に思ったことは『クソジジイ覚えてろよ』という恨みだった。

 そしてプツンと意識がシャットダウンした。


 次に目を覚ました時、目の前にガラス一面が広がっていた。

(なんだここは? 声も出ないし身体も動かないぞ?)

 眼球は動いたので周りを見渡してみる。何かポッドのような機械に入っているのか?

 固い床が背後に合って、ガラスのカプセルみたいな場所にいることは分かった。


「お! 気が付いたかね? いやーあのまま死んでしまうかと思ったぞい」


(クソジジイ! 生きてやがったか! いや、なんでアンタ、手錠なんかされてるんだ?)


「その顔はワシがどうして手錠されているのか知りたいという表情じゃな? あれから君の事を学会に発表したんだが、人が体内に大陸規模の場所を持てるってなったら炎上してしまってのぅ。『世界戦争』起きちゃった。テヘペロ♪」


(ふざけんな! 世界戦争!? そんなもんに人を巻き込みやがって!)


「まっ、そんなわけで君を隔離して周りから隠そうってことになったから、これからコールドスリープの刑に処されるというわけらしいんじゃよ」


(コールドスリープの刑? なんで極悪人に処される刑を俺が?)


 この世界では処刑が無くなっていた。大昔には存在していたが、人道的立場とか、平和主義とかが進んだせいで、殺すと文句を言われるし、生かしておいても危険なので冷凍して黙らせておこう、ぐらいの観点らしい。


 つまり『生かしても危ないから何とかしろ』、『罪人でも殺すのは酷い』、という事件と関係のない人間が勝手気ままに主張しだしたことを世の中がその通りだと広めてしまい世界が事なかれ主義を貫いた結果である。


 そして今、自分が何故かその刑を執行されようとしていたのだ。

 白衣のジジイを押しのけるように、眼鏡をかけた黒いスーツ姿の男がこちらを覗き込んでくる。


「やぁ、気分はどうかな? とはいっても君は話せないから分からないか!」


 ははは、と笑っている。何笑ってんだこの野郎、と言いたかったが声は出ない。

 スーツ男は立て続けに話を続ける。


「君は今、世界中から狙われているんだ。軍事価値が非常に高いとしてね。そして今、この博士に君の体内から例の物質を取り除こうとしてもらっているのだが、時間がかかりそうなんだ。そういうわけで開発が進むまで君を『戦争を起こそうとした罪人として無期懲役』という扱いで眠ってもらうことにした。罪人の冷凍場所は各国家でも最高機密だからね。これ以上ない隠し場所というわけだ」


(なるほど。それなら仕方ないか……んなわけあるか! 冗談じゃない!)


 説明が済んでスッキリしたのか、スーツ男は笑って手を振りながら去っていった。

 そしてジジイがまた顔を出す。


「そうそう、万が一君が捕まった際に備えて記憶の一部もちょーっとだけ改ざんしておくからの! 大丈夫! 思い出せるように仕掛けもちゃんと作る予定じゃ! 本当はダメだってお偉いさんには言われてるんだけど、ここは内緒ね」


(内緒って言われても記憶改ざんされたら忘れちゃうじゃん)


 少しずつ身体が冷えてきたのが感覚で分かる。恐らく装置を作動させたのだろう。

 白衣のジジイが満面の笑みで手錠が付いたままの手をあげて振っていた。


「それじゃ、期待しないで期待してくれたほしいのじゃ!」


 そこで再度、自分の意識がゆっくりと落ちていった。

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