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R-38  作者: 妖怪ポテチ
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見えそうで見えないことはある意味で恐怖

「う、死体かぁ。サンパチ、これ着けてなさい」


 バッグからガスマスクを口元だけにしましたってタイプのマスクを渡された。アールも同じようにマスクを装着した。


「未探索で初めて入ったエリア、それもこんなに密閉されたところに死体があれば病気が蔓延している可能性があるって聞いたわ。まさかこんなところで亡くなった人がいるとは思わなかったけどね」

「俺、殆どナノマシンなんだけどマスクいるのかな?」

『新型の感染症であれば防ぐことが出来ないかもしれません。皮膚に着いたデータから病原菌の感染源を追える設備を作りましょう』

「すれってすぐに出来る?」

『可能ですがパーツが全然足りません』


 その設備とやらもだいぶ先の話になりそうだ。


 恐怖も、悲しみも感じないが、入り口で立ったままサンパチは中々部屋の中へ一歩を踏み出せないでいた。白骨化した死体はどんな状況でここにこもり無くなったのだろうかと想像していた。


 手を繋いでいたということは最後まで仲が良かったということなのだろう。閉じこもって救助を待っていたのか。それとも出られなくなってしまったのか。

 そんなことも気にせずアールは事務所内を我が物顔で物色している。


「あー!これ多分販売分の在庫だと思うわ! 全部持って帰りましょう!」


 持って帰りたい荷物をポンポンと袋に詰め込んでいく。


「なぁアール。死体に関しては何にもなしか?」

「そっか。アンタにとっては初めての光景なのよね。地下に潜ると死体が転がっていることは珍しくないの。それに人骨を専門で漁る連中もいるわ。生前に身に着けていた装飾品や、骨に埋まったボルトや歯の詰め物なんかもお金になるからね」


 こちらを見向きもせず、淡々と説明をするアール。違和感はあるがこの時代ではこれが当たり前なのだと思い知らされる。


「私も初めて見た時は怖いって思ったけど、もう慣れたわ。いちいちビビってたんじゃスカベンジャーなんてやってられないもの」

「そういうものか」

「そういうものよ。サンパチも慣れるしかないわ」


 慣れるしかない。確かにそうではあるが自分の中ではついこの間まで信じられなかったことの連続。全てを受け入れるのには時間がかかりそうだった。


「あら、金庫まであるじゃない! うーん、鍵が掛かったままか……」


 事務所の奥、机の下に小さな金庫が置いてあった。

 恐らく売上金やお店の重要な書類などを管理していた物だろう。


 アールがバッグからジャラジャラと音がする巻物らしき物を取り出すと、それを広げ始めた。


「なにそれ?」

「鍵開け用の道具よ。昔私を育ててくれた人から貰ったの。開け方なんかもその人が教えてくれたんだけどね。よっと!」


 机の下に頭を突っ込みながらガチャガチャと両手に持った道具で弄っている。

 しかし、四つん這いで両肘を床につけるように頭を下げている。そのうえ短いスカートがひらひらと揺れるものだから。かなり際どい。見えそうである。


「こういうところは無頓着なんだよなぁ……」


 見えそうで見えないスカートをじっと見つめることが出来ず、サンパチは目をそらす。

 言ったほうがいいのだろうか。それとも言わないでおくべきか。


『お伝えしたほうがよろしいのでは?』

「絶対に変態扱いされるに決まっているだろうから嫌だなぁ」

『他の人の前でもこのような状態ではアール様が危険ではないかと判断します』

「荒くれ者の前で無防備な格好してる女の子は大体襲われるって映画なんかでも見たことあるし、確かにそれはあるか……」


 この時代で他の人間に会ったことがないので比較は出来ないが、普通にしていればアールは可愛い部類に入ると思う。

 多分、長いこと一人でいた期間も長いせいで直接的な事であれば恥ずかしいと感じるが、それ以外の事は周りからどう見えているか気が付いていないのだろう。


「さっきから何ブツブツ喋ってんの? ナビと話してるの?」

「あぁ……。まぁその、なんだ……」


 もう一度、机の下から飛び出ているような下半身に目をやる。

 上半身を更に下げて作業をしていたらしい。見えそうどころか、もろに見えていた。


「アール。怒らないで聞いてほしいんだが……」

「なによ? もう少しで開きそうなんだから変なこと言わないでよ」

「パンツ……見えてるぞ。さっきもスカートからちらちら見えそうになっていたけど今はモロ見え状態だ……」


「なっ!?」


 バコンッ! と机が持ち上がるぐらいの大きな音がする。アールが身体を丸めるように机の下でピクピクと痙攣している。

 パンツが見えているという発言に驚いて、急いで身体を起こそうとして思い切り頭をぶつけたらしい。


「うぐぐぐぐ……」

「おい、大丈夫か……?」


 悶え続けるアールに声を掛けると、頭を抱えながら机の下から出てきた。


「いったぁ……。アンタどうせずっと私のパンツ見てたんでしょ! ハァハァしてたんでしょ!! この変態エンジニア!!!」

「文句いうなら少しぐらい気を付けて行動するかそんな短いスカートで動き回るなよ!」

「乙女のスカートをガン見するだなんてやっぱり変態じゃない!」


 立ち上がったアールが思い切り回し蹴りをして、格闘ゲームのフィニッシュのようにサンパチの身体が宙に舞った。

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