開かずの扉とその先に合った二つの終わり
(そういやさっき普通にパンツ見えてたな……)
『マスター。不謹慎な考えはあまりよした方がいいと判断します。下半身に余計なエネルギー消費が発生しますので』
「人の思考を勝手に見るなよ。あとアールには言わないで……」
『……出来る限り配慮いたします。私をバカにしたら密告します』
「自分の中に別の人格が存在するってのも考え物だな」
考えたことや思ったことがAIに筒抜けになっていることに不満を頂きながら、その場に立っていても仕方がないので探索を行うことにした。
洋服はさすがにパンク系しかないので一旦放置。
レジカウンター内に入って何かないか探してみる。恐らくレジスターで合ったものだろう機械がバラバラにされている。
「何もないよりはマシか……」
分解されたレジスターに手を当てて体内の工房に取り込んだ。
「こんな店アールぐらいしか来ないだろうし、この辺りのやつは全部回収しちゃうか」
近くにパソコンなどもあったのであろう。それらしき残骸やケーブルもあったので手当たり次第に取り込む。
カウンター内の部品を取り込んだところで、隣に扉があった。
「事務所的な奴かな?」
扉はあるがドアノブらしきものがない。扉の横には何か部品が取り付けられていただろう跡があるが、すでに材料としてスカベンジャーに回収されたのだろう。内部のケーブルが外にむき出しになっている状態。
「カードキー式かタッチパネル的な物があったのかな。扉もこじ開けようとした跡があるけどダメだったみたいだな」
何とか扉をこじ開けようと隙間に棒かバールのような物で何度も試したような形跡はあるが、防犯用に設置されたと思われる扉は人がこじ開けようと出来るようには設計できていない。
そもそもサンパチがいた時代でも店舗内は防犯用にどこも強化されていた。本来ならレーザーなんかで扉を開けるような犯罪者もいたが電気ですら重要らしいこの世界では高出力のレーザーなんかもっと貴重だろう。
「さて、どうしたものか。ナビ、なんか良い手ないかな? 扉だけ工房にしまうとか」
『扉を工房内にしまうのは可能ですが、内部で繋がっている部分丸ごとを吸収してしまうので建物が崩れる可能性があります』
「そりゃマズイ。ぺしゃんこになるのはごめんだな」
『それであればケーブルから直接電気信号を送ってみましょう。一瞬でも開くように信号を送ることが出来れば開くかもしれません。工房内に取り込んだ軽装甲車のバッテリーを使用します』
「おぉ、それなら動くかもしれないな」
ナビの指示に従って、むき出しになっていたケーブル類を持つ。無理やり引きちぎられた物もあったので、内部の線を保護している被膜を削りながら線を丁寧に引っ張り出す。
『そのケーブル類を手に差し込むようにイメージしてください』
「うげ。本当にロボットっぽくて気持ち悪いな」
何処かで人間から離れていくような気がして少し躊躇ってしまいそうになったがお宝があるかもしれないという期待が勝っていた。
手に差し込むようにケーブルを差し込むと、まるでイヤホンジャックにイヤホンの接続プラグを差し込むかのようにスポッっと差し込むことが出来た。
有り難いことに異物感は無かったのが幸いだ。
これで体内にウニョウニョと何かが入ってくる感じがしていたら体中の毛が逆立っていたかもしれない。
『……』
「どうだ? いけそうな感じか?」
『……』
「おーい、聞こえてますかー?」
返事がない。解析を行っているのだろうか。とりあえず待つしかないかと考え、その場に立ち尽くしていると、アールが戻ってきた。
パンツは回収できたか? と素で聞いてしまいそうになったがそんなことをしたら間違いなく蹴られるだろうと感じ、言葉を発しようとして辞めた。
「なに? なんか言いそうになったけど?」
「いや、何でもない」
「それにしても何してんのよ。うわ、手にケーブル刺さってる! 気持ちワル!!」
「自分でも思ったけど、他の人から言われると傷付くわー……」
「なんでそんなことになってる訳?」
アールに現状を説明した。
もしかしたらこの扉を開けられるかもしれないと。アールの目の色が一瞬で変わる。
「マジで!? この部屋何度やってもダメだったのよ! 開かないし扉の横に付いてたパーツとかだけ引きちぎって持って行ったんだけどね」
「あぁ……。分解したのお前だったんかい!」
こじ開けようとしたり扉を殴ったり、横についてた恐らく認証させるように付いていた機械を壊したであろう全ての犯人が目の前にいた。
『一瞬だけ電気を流しますのでアール様は離れていてください』
その言葉に従い、アールが少し後ろに下がった。そしてサンパチはあることに気が付く。
「あれ、そういや俺って感電とかしないの?」
『死なない程度にはビリビリっとすると思います。では開けます』
「あ、ちょ、待っ!! あばばばばばばばばばばばばば!!!??」
サンパチの制止も虚しく体からビリビリと電気が奥底から流れ出るような感覚がして身体が震えている。
そして、厳重に閉じていた扉がスライドして開いたのだった。
「これ、結構しんどい……。せめて電気が流れる部分もナノマシンで被膜みたいに包んで流してくれないかな。人間だったら確実に感電死していたぞ! 昔のアニメみたいに頭がアフロになっていたかもしれない!!」
『ふむ、次回様に検討しておきましょう』
「アンタ達! そんなことはいいからお宝よ! お宝!」
立ち入った事務室には……白骨化した死体が二人、並んで手をつないだ状態で倒れていた。