見えると見せるは違うらしい
「この車ってさ、一応機械じゃん? サンパチが出したりしまったり出来ないの?」
「んー。どうなんだろう。出来るの?」
『可能です。エネルギー消費はありますので頻繁に出し入れするとカラッカラに干からびるかもしれません』
「だってさ。くっそ燃費悪いみたい。でも何で?」
「前も言ったけど自動車って珍しいのよ。少なくとも車があるってことは近くにエンジニアもいるって言い触らしてるようなものだし、私とサンパチだけじゃ襲われたら一たまりもないし、人目があるところでは隠したいの。とはいえ、その辺に放置してたら次の日にはパーツ盗られてスクラップだろうし」
「なるほどなぁ……」
車なんて確かに安い買い物ではないけど、日常生活で当たり前の機械だったからそんな感じはしないけど、この世界ではそうなんだよな。
しばらく車を走らせていると、アールから止めて、と言われ車を止めた。
「ここからは歩いていきましょ」
何処かの駅だったのだろうか。大きなロータリーと地下に繋がる通路が幾つもある場所だった。近くに線路らしきものもある。
車を工房にしまい、アールに付いていくように歩く。
どうやら地下に入っていくらしい。
「ここは昔、大きなお店とか、電車っていう沢山の人を乗せて動き機械が止まる場所だったらしいのよ」
「電車かぁ。最近ずっと使ってなかったけど、確かにこんな感じだったかな」
「そっか、そういえばサンパチにとってはつい最近まで普通にあったのよね」
階段を降りて、瓦礫を避けながら先に進んでいく。
「なんか明かりが着いてるけど人がいるのか?」
昔映画で見たような、ドラム缶の中に火が焚かれている。それが何カ所にも置いてあり、真っ暗な地下をライトが不要な程度には照らしていた。
「この辺りは日用品を漁ったり、コミュニティーの人が移動するときとかに使うからね。人狩りはあまり地下には出ないから地下で暮らす人も多いわ。私はあんまり好きじゃないから廃ビルなんかで暮らすことが多いけど」
慣れ親しんだ道なのだろう。アールはスイスイと奥に進んでいく。
そして奥の方にあった小さな部屋に入っていき、サンパチも続いて入った。
ボロボロになった服があちこちに散らばり、殆ど風化した状態になっている。それでも残った布地だけで、アールが来ているようなパンク系なお店なのだと分かった。
「アールはなんでそんな格好なんだ? 女の子ならもっといろんな服装もあるだろうし、動きやすい服ならもっと色々あるんじゃないか?」
「そうなんだけど、地味な格好はなめられそうで嫌だし、かといって派手すぎると変な連中に絡まれるし。色々試しているうちにこの服で過ごしていたら、パンク=私ってイメージも着いちゃって名刺代わりになっちゃったのよね」
アールが棚の奥から取り出していく袋に入った服は真空パックで詰められたようにほっそりしており、それでいて綺麗な状態のままだった。
廃墟と化したこの場所で、今も人が暮らしていけるのは、服が綺麗な状態のままで残っていたり、建物の耐久性も高く、崩れてはいるが今も人が住める程度の強度が残っているのも理由のようだ。
適当な枚数を選んで、バックに詰め込んでいく。
「サンパチ、ちょっと隣のお店に行くから、アンタはここで待ってて」
「なんだ? 俺も着いていくぞ?」
「いいからアンタはここにいて!」
「いやいや、何かあったら危ないし……」
「……着を取りに行くの」
「は?」
「下着を取りに行くからここにいてって言ってるの! それぐらい察してよ変態!」
何というか、女の子らしい一面もあるんだなと初めて思った。