錆び付いた雑居ビル
広い道路から狭い道路へと入っていき、大きな建物から雑居ビルが建ち並ぶ場所に変わっていく。
「ここよここ! この赤いビル!」
白黒なビルが建ち並ぶ中、一件だけ深い錆び色のビルをアールが指差した。
「こんなところに車を止めたままにして他の連中に見つかったら面倒だし、隣のビルがガレージになっていたからそこに止めておいて!」
勢いよく助手席のドアを開けるとビルの入口へと消えていった。言われた通り隣のガレージに車を止めて、シャッターを閉める。
アールが入っていった錆び色のビルの入り口は、かつて扉があっただろう金具の跡があるが、すでにドアが無くなり開放的になっている。
「どこにいるんだ?」
一階、二階と覗いてみたが部屋の中は散乱していて人の気配はない。三階に上がると、ガサゴソ音がする。恐らくこの部屋だろうと思い足を踏み入れた。
多少埃っぽい感じはするが他の部屋に比べてみれば綺麗だ。机にイス、大きなソファは布があてがわれ修繕された跡がある。
「とりあえずご飯にしようか」
アールが両腕で抱えるようにボトルと缶詰を抱えている。それをドカドカと机の上にばら撒くように置いた。
「水は一本ずつ。缶詰は好きなのを適当に選んで。前にコミュニティーに行った時に買ったものだからそろそろ期限も切れるだろうし」
「ありがたいけど、良いのか? 水も缶詰も見た感じ貴重品だと思うけど」
「車と良いエンジニアが手に入ったんだもの。お釣りがくる位よ」
「俺はすでにエンジニア扱いなのか……」
水が入ったボトルのキャップを開ける。そういえばこの身体は食事が必要なのだろうかと思いナビに尋ねてみた。
『ナノマシンとはいえ維持するのにも水分や栄養素は必要です。常識ですよ?』
「常識なのか……。それにしても人間なのか、機械なのかはっきりしないなぁ」
グイッと水を飲み。テーブルの上の缶詰を一つ手に取った。ラベルもなければ賞味期限、消費期限の類もない。そしてプルタブもない。
唯一の情報は蓋に『肉』『魚』『豆』『芋』などと文字が手書きで書かれているだけである。
アールは持っていたナイフを起用に使ってギコギコとこじ開けて、中身をそのままナイフで突き刺すと、モグモグと食べている。
「それ何?」
「これ? 合成肉の類だと思うけど。何の肉かは知らないわ」
何で出来ているかもわからないものを平気で食べている彼女がすごいと思った。それでも彼女にとっては当たり前のこと。
(すぐに死んだりはしない……よな)
ナイフを借りて同じようにギコギコと同じように缶詰を空けた。こちらの缶詰には『魚』と書いてある。
「それは養殖魚のオイル漬けだと思うから大丈夫よ」
次の缶詰に手を伸ばしていたアールがそう言った。本当に大丈夫なのか疑心暗鬼だったのが伝わったのだろう。ぽいっとフォークを投げられ、咄嗟に受け取った。
意を決して魚の切り身らしき物体を取り出して口にしてみる。
(確かにこの触感は魚だ。それにこの塩辛い感じ、アンチョビに近いかも)
一度口にしてしまうと案外平気なものだった。合成肉とやらの缶詰も食べてみたが、スパムやコンビーフに近い。豆も芋もそのままイメージ通りだった。




