(1)
どうやら僕にはこの世界を生きていく才能はないらしい。
僕はその事実に気づきアハッと笑って、口元から紫煙を漏れ出させた。
体はもうほとんど動かない、左手を動かして、さっき拾ったタバコをくゆらせるだけで精いっぱいだった。
吸えもしない煙草の煙を肺に広げさせゲホゲホとむせる。
不味いな、こんなものを他の大人は好き好んで吸っているのか。僕には合わない。
ふと気が付けば、見知らぬ少女が僕の前に立っていた。
「何をうずくまっている」
「………」
妙に大人びた口調をする女の子だった。
「あぁあ」と、声にならないうめき声を口から発し、体の動かない僕はその少女を目だけ動かしてジロリと見据えた。
「死ぬのか」
「あぁあ」
「無様だな」
「あぁあ」
「親とけんかして家を出たその末路がこれか」
驚きの目で僕は少女を見る。なぜそのことをと思った。
「生きたいと思わんか」
僕はなぜかそこでなけなしの力を振り絞って、首を動かした。こんな少女のいう事なんて無視していればいいのに。何故か、彼女のいう事には答えなければいけないというような気がして、僕は首を動かした。横に。
「つまらない人生だったな」
「あぁあ」
僕は少女にフッと笑って見せる。それはただの強がりだったと思う。
「才能に恵まれず、親から疎まれ、ろくな友もいなかった」
「あぁあ」
「死んだら救われるのか?」
「あぁあ」
「そうではないだろう!」
突然少女は語気を強め、声を張り上げた。空気がびりびりと震えるようだった。肩を震わせていた。泣いて、いるのか?
「なぜ、こんなにも可哀想なお前が、救われもせず、こんなごみ溜めのようなところで死ななければならない。わが子がどうして……!」
何を言っているんだ?僕は少女を見据える目に戸惑いの色を浮かばせた。わが子って何のことだよ。
「すまない」
少女は突然そう謝った。何について謝ったのか分からなかった。
「私にはどうすることもできないんだ」
声を震えさせ、とうとう少女は大粒の涙をボロボロとその大きな瞳からこぼれさせる。
泣き顔だけを見れば、ただの少女でしかなかった。
泣くな。
僕はその姿が妙にいとおしく思いなけなしの力を再び振り絞って、少女に手を伸ばす、頬の涙を拭いてやろうと思った、しかし途中で力の抜けてしまった僕の手は、虚空を切って地面に落ちた。
何にもうまくいかない人生だったな……。
虚空を切った自分の左手を見て、そう思った。
「せめて息絶えるまで一緒にいてやろう。話し相手ぐらいにはなってやる」
話し相手と言われても、見知らぬ少女と今更話すことなどなかった、そもそも喋ることが今の僕にはできない。
「お前も煙草を吸うのか」少女は僕の隣の地面に尻を付けて座った。
「私は煙草の煙が嫌いでな、人間がこれを作り出した時には少なからず焦ったぞ」
「まあ、出来てしまったものはしょうがないんだがな」
「私はこの世界のカミだ」
「ふふ、どうだ驚いたか、今更かしこまってももう遅いぞ」
「何だその目は、おかしな子供でも見るような目をしおって、本当なんだからな」
「世界をずっと見続けてきたが、お前ほど、なんというか、虚無で無意味な人生を送った者はそういないな」
「ただ流されるがままに生きてしまったな」
「知っているか、お前、人生で一度も心の底から笑ったことが無いのだぞ」
「感情が欠落していた」
「どうしてそうなってしまったのか、私にもわからない、ただ時折、バグのようなものができるんだ、お前みたいなやつが百年に一人くらい出来てしまう」
「運にも見放されていただろう」
「決して私のせいじゃないからな、私が特別お前に意地悪していたわけではない。そういう世界の意思がお前に働いていたというだけの事だ」
「あぁあ」
「どうした、……ああ、もう時間か」
「これはルール違反なのだがな、こんなことをすれば他の世界のカミに何と言われたものか、一つお前に紹介状をくれてやろう」
「第三世界のナハトがこう言っていたと告げてくれ、次の世界ではもっと優遇してやるようにと」
「おい、聞いているか」
「おい」
「逝ってしまったか」
「次の世界では幸せにやるんだぞ」
「お前次第だからな」
ここまで読んでいただき有難うございました。




