駄情
ロードバイクに跨り、司と一緒に車道の端を走り抜ける。前髪が逆さになって、肩から下げているバッグが自己主張するようにずれる。
工場を通りすぎて、大通りを漕ぎ抜ける。ロードバイクを漕ぎだして20分程度で、僕たちは大型ショッピングモールに到着した。
なぁ、これ見ろよ。エアロぶっ壊れてるぞ
司がそう言った。正直車には興味がない。そうだね、と興味深そうに言ったつもりだったが、司には透かされていた。
お前、興味ないものにはとことんないよな。のくせに、興味が湧くとすぐ行動しやがる
まさにその通りだと思う。実際、ネットで性格診断をしたらそう書いてあった。
司が言った。
今回の何、消える人間??っていうのか?そんなんいたらもっと早く見つかってるわ
僕は司に返す。
けど、昔からいるとは言われてるけど実態は掴めてないんだ。
司と一緒に自動ドアを抜ける。ひとまとまり多種類の音の中に入って行く。人の声、ゲームセンターの音、レジの音、迷子の放送。全部が耳障りだ。
その混沌した音の中で、司の声が響いた。
お前のそれ、その消える人がいる前提で話しているんだろ??いなかったら、ただの無駄足だぞ??
僕は答える
それでもいいのさ、少し冒険をした気持ちになれるから
溜息を吐くと、とりあえず回ってみるかと聞こえた。
一つ、司には言っていないが、僕は必ずいることを知っているのだ。何故なら、その存在が思いのほか近いところで寝ずろっていたから。
もう一度、もう一度とショッピングモールを回るといつのまにか日は傾いて、店内電灯が強く光るのを感じた。
結局それらしい影は見つからず、司は見たいものがあるからと言って他の場所に行ってしまった。どうやら、車のワックスを見たかったらしい。
僕は一人で店内を歩き回る。
こうして大勢の人と通りかかるが、僕は深く思案しているとそれすらも気にならなくなる。一人の世界、僕はこの人生でそのことに重きを置いている。
別に友達なんて少なくていい。まして、彼女なんてまだ僕には早い。というか、あまり欲しくない。もともと欲がないのだ。果たして、そんなことで将来を生きられるのか不安になる。
はぁ。そんな暗い考えを凝らしていると、目の前を通りがかった一つの影。どこかのショップの店員だろうか。
不思議と見入ってしまった。 別に美人というわけでもなく、いたって平凡。しかし、その外見からは他にない神秘的なものを感じた。
その刹那、僕は口から血反吐を出しながら息絶えた。