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俳句甲子園とだいたい同じルール

『攻守入れ替わります。大町・美麻ペア、ご起立の上プレゼンを始めてください。制限時間は三分です』

 開幕戦という緊張感の中、後攻だったのは運が良かった。表の攻防を通じて、僕達から初本番の固さは完全に取れていた。

 さぁ、いこうか明。これまでは序章に過ぎない。光明伝説本編の幕開けだ!

「私達は――『完全無欠幼馴染み』です」

 明の宣言に場内がざわつく。予想通りの反応。明が誇らしげに口角を上擦らせる。

 臆面もなく「完全無欠」を自称するナジミスト。前代未聞だ。自信過剰な勘違いルーキーだと思われているだろう。

 明から視線でバトンを受けて、僕がプレゼンを続ける。

「僕達の完璧さは出会いから既に始まっています。そもそも僕達はどのように出会ったかなど覚えていません。当たり前です。生まれた時からずっと一緒にいるのだから。僕と明は一九九九年五月二十一日、同じ日に同じ病院で生まれ、その日に顔を合わせました。両親達が見事に狙いを的中させてくれました」

 どよめき。山中さん達が顔をしかめる。

 視線で明にバトンタッチ。

「幼馴染みを自称するなら遅くとも物心付く前から馴染んでいるべきだと、私達は考えています。はっきり言わせて頂くと、出会いを覚えているなんて幼馴染みではありません」

 もう目を窺う必要もない。息遣いからバトンを渡されたと判断出来る。

「そこを最低ラインに設定しているわけですから、もちろん『生まれた日から馴染んでいる』だけでは『完全無欠』だなんて言えないでしょう。僕の母と明の母は僕達を妊娠中にお腹同士をつき合わせて、僕達にお互いの音を聞かせ合わせていたらしいので、僕と明の出会いは物心どころか頭と胴の区別が付く前です。そもそも幼馴染みになるよう計算して子作りされたのでもはや先天的に幼馴染みです」

 残り一分。これ以上は蛇足だ。もう説明などいらない。僕達の強烈で完璧な馴染み感で観衆の心を掴める。やるぞ明!

「つまり、僕が完全に僕になる前から」

「私が完全に私になる前から」

「僕達は」

「私達は」

「「完全に幼馴染みだったのです!」」

 同時に着席する僕達。

 割れんばかりの拍手。歓声。

 熱狂が会場を支配する。

 快感。高揚感。頬が熱い。手が震える。

 ゾーンに入るとはこのことか。

 打ち合わせもなく、言葉もなく、視線を交わせることすらなく、完璧に明と意思疎通出来た! 

 これまで脇目も振らず共に打ち込んできた修練は嘘をつかなかった!

 どんなに関係が冷え切っていても、本当は完全無欠じゃなかったとしても、共に高めてきた僕達の馴染み感は本物だった!

 拍手はまだ止む気配を見せない。

 自分達の人生をこんなにも称賛してもらえる。

 ここに立てて良かった。幼馴染み甲子園を目指してきたことは間違いじゃなかった!

『それでは大町・美麻ペアのプレゼンに対しまして、加賀・山中ペアより質疑を始めてください。制限時間は三分です。質問のある方挙手をどうぞ山中さん』

 そうだ、まだだ。まだまだ試合は終わらない。気を引き締め直そう。

「確かにお二人の出会い方は早さという点では究極かもしれません。しかし結局覚えてはいないわけです。自分達の記憶の中にないのでは馴染みエピソードとは言えないのではないでしょうか?」

『美麻さん』

「仰る通り、全てを覚えていられるのならそれに越したことはないでしょう。しかしその間の馴染みが二人の基礎を造ったのは確かです。今の私は乳幼児期の私なくしてはありえません。そして乳幼児期の私は乳幼児期の光との関わり合いの中で人格を形成していきました。記憶はなくとも私達には赤ちゃんだった私達の馴染みが刻み込まれているのです」

『山中さん』

「しかし、それすらもご家族から当時の話を聞かなければ、自覚することはできませんでしたよね? それだけではないですね、結局美麻さん達のエピソードは一から十までご両親任せ、自分達の意思で馴染んだものではないのです。美麻さん達に限らず、物心つく前に出会ったという幼馴染みは皆さんそうですよね。出会いが早すぎる幼馴染みというのは、置かれていた環境の中、たまたま受身で馴染んできただけなんです。うちらは違います。くだらない理由だったとはいえ、ギンは自らの意思で私と関わりを持ったわけです。そしてうちも出会ったときからそんなギンが気になって、あ、いや気になってたっつーのは違うがね、その、違くて……」

 声を尻すぼみにさせる山中さん。さっぱりとしていた顔が朱に染まっていく。加賀さんも赤い頬をポリポリ掻きながら彼女から目を逸らし、「能動的に」と呟く。

「の、能動的に! 能動的に馴染んできたわけです! 幼馴染みの出会いは、うちらのように自律的に馴染み始めることが可能な五歳前後がベストではないでしょうか!」

『そこまでです』

 最後にお得意のやつを繰り出してきましたね! 

 これまでも随所にデレ要素を垣間見せてはいたが、最も印象に残るラストに露骨なやつを……審査員の先生方もニヤニヤしたり、拳に力を入れてプルプルしたりしている……。

 クソ! 質疑応答でポイントを稼がれた! これで勝負は分からないぞ……!

『それでは審査員の先生方、一本目の判定をお願い致します。大町・美麻ペアに投票する方は赤の旗、加賀・山中ペアに投票する方は白の旗を挙げてください。準備はよろしいでしょうか……』

 審査員は十一人。赤旗が六本以上挙がれば、一本目は僕達の勝ちだ。

『それでは……判定!』

 一斉に旗が挙がる――白赤赤白赤白白白赤赤――そして会長は――赤――ということは――。

『赤6、白5。一本目は大町・美麻ペアに入ります』

 良かった……。

 場内が沸き返る。長野代表の一年生ペアが早應附属の優勝候補から一本先取したのだから当然だ。

 対して僕達は歓喜というよりは安堵していた。自分達の中で最高のパフォーマンスを発揮出来たにもかかわらず、この勝負を掴めていなかったら……きっとショックを引きずったまま二本目に突入せざるを得なかっただろう。

『審査員の先生方から講評を頂戴したいと思います。加賀・山中ペアに入れました高幡先生、一言お願い致します』

「やっぱり腐れ縁は良いですね……加賀・山中ペアの一昨年より昨年、昨年より今年と少しずつツンケンさが抜けて熟してきている感じが堪りません。一方で、大町・美麻ペアのストイックな馴染み方にも衝撃を受けました。甲乙付け難い好勝負でしたが、私が最重視するニヤニヤ度の点で優っていた加賀・山中ペアに一票投じさせて頂きました」

 確かにニヤニヤ度は僕達に足りていないかもしれない。これから強化していくべきポイントだろう。さすが先生方のご意見は参考になる。加賀さん達も頷きながらメモを取っている。

『ありがとうございます。大町・美麻ペアに入れました中田先生、一言お願いします』

「いやぁ、とんでもない新人が出てきましたね。まず連携の素晴らしさ。そして出会いの早さ。ここまでのものは初めてお目にかかりました。ただただ『幼い頃から馴染み続ける』ということを極めてきたことが伝わってきました。これが完全無欠幼馴染みというものなんですね……いい……! 二人の母子手帳が見たい……! 加賀・山中ペアも相変わらず素晴らしいですね。右手の傷が疼いてきました。ただ『どちらの方が馴染んでいるか』という根本を比較した場合、大町・美麻ペアがより上を行っていました。一回戦には勿体ない試合。二本目も楽しみです」

 唯馴染ゆいなじみ主義者の中田先生は、予想通り僕達を支持してくれた。

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