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選抜高校野球とだいたい同じ選考方法

「というわけで、大晴たいせい君と阿智あちさんも北信越予選にエントリーしておきましたよ」

「…………ちょっと待て。お前らの話に俺達は全くついていけていない」

 僕と明の同級生、清内路せいないじ大晴君は二秒くらい間を置いてから、やっと僕の説明に反応を示した。

「なじみこーしえん……?」

 口を半開きのままぽかーんとしていた、同じく同級生の阿智朝日あさひさんも続いて首を傾げる。

 ん? 何だろうこの手応えの無さは。『ありがとう。実は一歩踏み出す勇気がなくてさ。でもおかげで決心がついたぜ。俺達きっといいライバルになれるな』ぐらいを期待していたのに。

 僕の隣に座る明も「あれ?」と困惑している。

 一学期最後のホームルームが終わった、放課後の教室。僕達四人は大晴君の席に集まっていた。北信越予選へのエントリーが無事受理されたことを二人に伝えるためである。

 幼馴染み甲子園の地区予選には本来、それぞれの都道府県予選を勝ち抜いた上位数組しか進出することが出来ない。僕達の住む長野県に至っては、北信越大会に進めるのは二組だけである。毎年出場ナジミスト数が全国ワースト一位だからだ。

 ――高校幼馴染み最弱県。長野にはそんな汚名がある。幼馴染み甲子園本選にナジミストを送り出したことがない唯一の都道府県なのだから仕方がない。見下されても文句は言えないだろう。

 今年、までは。

 僕と明はこの夏、長野幼馴染み界に革命を起こす。一年生のナジミストが幼馴染み甲子園を制覇。四十年の歴史を持つ大会史上初めての快挙に長野県は湧くだろう。その後三連覇という大偉業までをも成し遂げた僕達に憧れた子供達は、野球を辞めサッカーを辞め、僕達が切り開いたナジミストの道、馴染みどうをさらに拡げていってくれることだろう。

 そのためにとりあえずまず果たすべきは、今年の長野県大会をぶっちぎりで優勝すること。それが僕達の偉大な高校幼馴染み歴に序章として刻まれる――はずだった。

 長野予選にエントリーしたのは僕と明だけだった。県予選は免除された。

 まぁそういうこともありますよね。長野代表、五年連続北信越大会初戦負けですもんね。誰だって躊躇しますよね。でも現状が酷いほど新星登場時の盛り上がりも増すだろうしむしろ良かったんじゃないですかね、はい。

 僕達が自身を強引に納得させることに成功した一方、大会運営上の問題はなかなか解決されなかった。枠が一つ余ってしまっていたのである。

『まぁ別に一組しかいないなら一組だけでも仕方ないんじゃね? どうせ私達長野だしね』『いやいやそういう訳にはいかんでしょう。それにせっかくなら大町・美麻ペアを際立たせる存在が欲しいですぞ』『つーか無理矢理にでも出せ。来年の枠減らすぞ』といった感じのやり取りが長野県高校幼馴染み連盟と連盟本部の間でたぶんなされた結果、北信越大会への出場ナジミストを先着で一組募集することになった。が、期日である昨日になっても申し込みが無いようだったので、痺れを切らした僕と明は最終手段を採った。ていうか大晴君と阿智さんを勝手にエントリーしておいた。長野馴染み連やる気出せ。

 清内路大晴君と阿智朝日さんは幼稚園に入る前からの付き合いだと聞いている。

 清内路大晴君。健康的な小麦色の肌。きりっとした面立ち。彫りが深目で一つ一つのパーツがはっきりとしている。僕より十センチ以上高い背丈。均整のとれた筋肉の付き方をしていることが制服の上からでも見て取れる。いわゆる細マッチョだ。同級生だが、成人していると言われても疑わない程度には大人びた外見と雰囲気を持っている。ワイルドさと清潔さを兼ね備えたイケメンと言えるだろう。

 阿智朝日さん。女子校生らしい短めのスカート。毛先が肩に掛かるくらいのセミロング。大晴君と同様、家の農作業で焼けたという艶のある褐色肌とは対照的に、並びの良い歯が真っ白に輝く。整った小さな顔は表情豊かで、その大きな両目が、時に無邪気な子供のようにキラキラ光ったり、時に挑発的な色気を漂わせたり、時にゴミを見るように濁ったりしながら、大晴君に向けられている。

 背はクラスで一番低い。一五〇センチはないだろう。それに反して胸はクラスで一番大きい。具体的な数値は当然見当も付かない。

 そしてもう一つ阿智さんに特徴的なのが、常に身につけている、胴長の変な熊のぬいぐるみである。五十センチ程の大きなサイズ。阿智さんが授業中、机でふて寝する時いつも枕にされている。詰まっているのが細かいビーズなのか、柔らそうにヘタっとしていて、スポーツタオルのように首に掛けられたり、頭に器用に乗せられたり、座布団にされたりしている。持ち運び時には、リュックから縦笛みたいに顔を飛び出させられていることもある。普段から雑に扱われているからなのか、かなり年季が入っているように見えるぬいぐるみだ。

 そんな二人は、友達がいない僕達が唯一しばしば会話をするクラスメイトなのである。毎日のあいさつを除いても三日に一度くらいは言葉を交わしているし、しばしばと表現していいと思う。幼馴染みは一心同体だし、二人だけど唯一と表現していいと思う。

 そんなこともあって大晴君達を推薦したわけである。

 美男美女のナジミストをついつい贔屓してしまう審査員というのも実はいないこともない。やっぱり見栄えは大事なのだ。その点でこの二人は申し分ない。四十センチ近くある身長差も個性的で目を引く。勿論、僕と明の十三センチ差こそが幼馴染みのベスト身長差ではあるのだが。

 とにかくこのペア、意外といい所まで行ける可能性を秘めていそうなのだ。

 それに、いつだったか大晴君は「お前ら何か頑張ってんだって? いいよな、そういうの」と言っていたし、今回の件を快諾してくれると踏んでいたのだが……まぁ突然じゃ驚かれて当然か。ていうか僕にちょくちょく声掛けてくれる大晴君ホントいい人。

「ああ、申し訳ありません。事後承諾じゃそういうリアクションにもなりますよね。ただ、僕達としても自らの意思で挑む人達を待ちたかったですし、実際誰かしらは来るだろうとギリギリまで粘っていた結果なんです。それに大晴君達にとってもこれは新たなことに挑戦するチャンスですよ」

「決勝で当たりましょう。勿論、朝日さん達にも負ける気はないわ」

 目に炎を灯す明。

 僕が右手の握りこぶしを大晴君に向けて軽く突き出したのに続き、明も阿智さんに握手を求めて右手を伸ばす。

 そうして、僕達の幼馴染み甲子園に懸ける熱き想いは大晴君達にも届き、

「いや、そういうことじゃねぇ。もっと根本的なことからわからねぇ」

 届き……、

「幼馴染み甲子園って……何だ?」

 僕と明は力なく右手を下ろした。

 え? なに? どういうこと? 友情のグータッチは? 大晴君は何を言っているの? 幼馴染み甲子園をご存じでないだって? ハハハ、笑える。僕の聞き間違いかな? という現実逃避は、

「ナジミコーシ園……あ、畑か。いいよ! 畑仕事なら手伝ったげる。時給三百円ね! にひひ」

 グッと親指を立てて、ペロッと舌を出しながら、パチッとウィンクする阿智さんの可愛さと鬱陶しさによって強制終了させられた。

「ありえない……幼馴染み甲子園よ? 知らないわけがないでしょう……あ、ジョークね? 馴染みジョークなのね? ……そんなわけあるかーい……こんな感じでいいのかしら……?」

 明の独り言が「聞き違い」という可能性を完全に消し去り、やっと僕は理解する。

「――っ」

 ――大晴君と阿智さんは幼馴染み甲子園を知らないんだ。

 人生初の衝撃に僕は目を見開き、しばらく言葉を発することが出来なかった。


「そういうのがあるんだな」

 幼馴染み甲子園の概要と素晴らしさを二十分で簡潔に要約し、勝手にエントリーさせてしまった経緯を詳細かつ丁寧に三十秒で再度説明し終えると、大晴君はやっと小さく頷いてくれた。阿智さんは開始一分くらいでいつものぬいぐるみを枕にし始めた。微分積分の授業に次ぐ早さだった。まぁ授業時と違って顔はこちらに向けてくれていたし、一応たぶん話は聞いてくれてたっぽい感じの印象を受けた気がしないでもないのでいいだろう、うん。

 あと冷静に考えたら明や親族以外とこんなに話したこと自体初めてだったので、幼馴染み甲子園を知らないという人に会ったのが初めてなのは当たり前だった。

「大体の事情はわかったけどよ……何で俺達なんだ?」

「僕達の知り合いで、出場の資格を満たしてナジミストになれる方が大晴君達しかいなかったからですね」

 ていうか高校での僕達のまともな知り合いが大晴君達しかいなかったからですね。二人が幼馴染みで本当に良かった。

「また知らない単語が出てきた……」

 阿智さんがまだ話を聞いていてくれて本当に良かった。

「資格って何だよ」

「……? 『高校生の幼馴染み男女であること』に決まっているじゃないですか。高校生幼馴染み選手権なんですから」

「俺達が、幼馴染み……?」

 大晴君は眉をひそめて阿智さんと顔を合わせる。阿智さんは「ほえ?」っとしている。

 ていうか、え?

「幼馴染みですよね? 幼稚園にあがる前からの付き合いだって言っていたじゃないですか」

「まぁ、そう……なのか……」

「うーん……」

 腑に落ちない様子の二人。

 マジかこれ。

「もしかして出会ったのが幼少時なだけで、あまり馴染んでいないのですか?」

 教室で目に入った範囲での話だが、普段から僕達程でないにしろペアでいることが多い二人なので、そんなことはないはずなのだが……。

「馴染んでっていうのがどういうことか良くわかんねぇけど……まぁ普通に……な?」

 大晴君が阿智さんを一瞥する。

「普通につるんではきたよね」

 埒があかないよ……。

 これはいくつか質問させてもらうしかないだろう。

「出会ったのは具体的にいつですか?」

「出会いってか……こいつん家隣りだし、誕生日同じだし、普通に……」

「出会いとか言われても困るよね。生後数日とか? おっとぉ達に聞いてみる?」

 出会いを覚えていない、か。

 うん、悪くない。

「じゃあ……付き合いに断絶はありますか?」

「断絶……? ……ねーんじゃねーかな。ずっと同じクラスだし」

「わたしらンとこ、中学までずっと学年八人しかいなかったしねぇ」

 僕と明も、家族総出の交渉によってずっと同じクラスだ。

「では、お互いの家に最後に出向いたのはいつですか?」

「昨日、回覧板と漬物届けに行ったな」

「今朝さくらんぼ届けに行って、そのままこいつの部屋にもあがったよ。てかてか、やることあるから毎日だね」

「そういや、さくらんぼに漬物の匂い付いてたぞ」

「えー、わたしタッパー洗ったけどなぁ」

「言っておくけど、そのくらいの馴染み項目私達だって余裕で満たしているからね。タッパー使い回しの技術なんて八歳の時には身につけていたわ」

 大晴君達の露骨な馴染みアピールに明が張り合おうとする。

 はぁ……。こういう所が嫌なんだ。格下ナジミスト相手にムキにならないでくれよ。

「大晴君、阿智さん。そのくらいで調子に乗られては困りますね」

「何がそんなにお前らを刺激させたんだよ……」

 渾身の馴染みアピールを華麗にスルーされてテンションを落とす大晴君。

 まぁ、とは言え、やはり二人が幼馴染みであることに間違いはなさそうだ。どうやら阿智さんは毎朝大晴君を起こしに行っているようだし。なかなかの世話焼きっぷりじゃないか。ちなみに僕は毎日朝練前、明が起こしに来るまで寝たふりをしている。地味に辛いがこれも訓練の一環なので仕方がない。

「充分幼馴染みじゃないですか。堂々と馴染んでくださいよ」

「……そっか。幼馴染みなのか俺達……」

「言われてみれば確かにわたし達、幼馴染みってやつなんだね。意識したことなかったからあまり実感わかないけど」

「えー……何ですか、その反応は。大晴君達が幼馴染みじゃなかったら、何馴染みだって言うんですか?」

「いやだって日常生活で『幼馴染み』なんて言葉使わねーじゃん。ピンと来なかったわ」

「わたし人生で初めて『幼馴染み』って言ったかも」

「変わった人達ですね……。じゃあ自分達の関係を説明する時は何馴染みって言うんですか?」

「普通に『隣りの』とか『ガキの頃からの』とかじゃねーの」

「そもそもこんなに関係性を問われたのが初めてだよ……てか中学までは昔から知ってる人しかいなかったからなぁ。確かにこいつとが一番長いけど。幼馴染みしかいなかったから、『幼馴染み』って言葉が必要なかったのかもしれないね」

 本当に変な人達だ。『いや違ぇよ。ただの幼馴染みだ』とか言いたくないのかな。死ぬまでに一度は使いたい馴染み台詞ランキングでも常に上位に入ってるのに。あとさり気なく幼馴染みグループ自慢とかしてこないで欲しい。

「幼馴染みは唯一無二の存在であるべきだわ」

 同じことを考えていたであろう明が、アピールの過ぎる大晴君達にまた牽制を入れる。

 そうそう別に羨ましくなんかないんだ。僕には明がいればいいんだ。はは。

「何か釈然としない部分も多々ありますが……まぁちゃんと馴染んでいるみたいですし、とりあえず出場に問題は無さそうですね」

「いやいやいや出ないからな、そんな怪しい集会」

「わたし達にメリットないよね……」

「大会です。怪しくないです。メリットなんて求めるものじゃないんです。幼馴染み甲子園出場はとても名誉なことなんですよ? 大晴君達は甲子園を目指す高校球児にメリットを問い質すのですか?」

 むしろ幼馴染み甲子園を目指さないで何のために幼馴染みやっているのだろう?

「野球部とかちゃんとした部活なら大学の特待とか貰えるじゃねぇか」

「はぁ……特待ですか、特待ね。早應そうおう大学の特待なら貰えますけどね」

 あー……ていうか何かもうこれ…………駄目そうだな。大晴君達マジで幼馴染み甲子園に興味ないんだね。もうこれはどう説得しても承諾を得られそうにない……。

「早應ってあの早應か……?」

「なんでそんな……」

 勧誘を諦めかけ投げやり気味になっていたところに、思わぬ反応が返ってくる。大晴君と阿智さんは身を乗り出し、今日初めて僕の話に明確な興味を示していた。

 今の話のどこにそんな喰い付いたんだこの人達。こわい。

「大会の創設者で会長の大澤先生は今、早應の総長ですからね。毎年何組ものナジミストが馴染み推薦で早應に進学していますよ」

 幼馴染みの名門大学として名高い早應大学は、あまり知られていないが日本一の偏差値を誇る私立大学でもあり、幼馴染み界以外のあらゆる業界にもトップに立つ人材を送り出し続けている。

 そんな早應大学で十三年間総長を務められているのが、高校幼馴染み界の第一人者、大澤幸信先生だ。

『何のために附属幼稚園まで作ったと思ってるんだ!』という名言はあまりにも有名である。

 それにしても早應でこんなに釣れるとはな……。確かに馴染みに最適な環境が整っているらしいが、附属出身で幼い頃から早應に通い続けているナジミストでなければ、あまり意味はないんじゃないだろうか。それに僕は学校がどこであろうと馴染みの良し悪しには関係ないと思っている。

 とは言えこれはチャンスだ。

「大晴君達ならなかなかいい所まで行くと思いますが……どうでしょうか?」

 傾き始めた二人の気持ちをひと押ししてみる。

「ホントに!? いけちゃう!? わたし達早應いけちゃう!? え、特待ってことは学費も安くなったり……?」

「無料ですね」

「タダ! タダで早應! やったね!」

「つっても俺、幼馴染みとか言われてもわかんねぇし、大会のルールも何も……」

 効果は抜群のようだ。阿智さんに至っては「いけるっしょーなんとかなるっしょー」と既に僕のサポートに回っている。

「もちろん細かい説明は致しますし、技術指導もさせて頂きますよ。同じ長野代表として恥ずかしい試合をしてもらうわけにはいきませんからね」

 明も深く頷いて、僕に同調していることを二人に伝える。

 大晴君と阿智さんは視線でお互いの意思を最終確認し、

「……しょうがねぇな」

 完全に陥落した。

 いいねー今のアイコンタクト! 馴染んでるぅー! ヒュー!

 喜びのあまり彼らお得意の馴染みアピールに思わず反応しそうになるのをギリギリで抑える僕。明は張り合うのを忘れ、「今のいいわ……」と素直な感想を漏らしている。これもナジミストの性。仕方ない。

「決まりですね。じゃあ明日朝六時に駅集合でお願いします。ああ、あとこれ。同意書です。泊まりですから保護者の方にサインしてもらって来てください」

「「……………………」」

 今日の二人は固まりやすい日なのかな、と思っていると、大晴君がやっと口を動かし、

「え、何で?」

 あ、やべ。言ってねーや。

 一瞬冷や汗をかきそうになった僕だが、先程得た強力な交渉カードを思い出し、開き直って平静を保ちつつ、

「ああ、そうか。知らないんですよね。毎年北信越大会は早應大学附属金沢高校の大講堂で行われるんです。金沢に行かなければいけません」

「そうなのか……っていやいやいや! 明日!? 大会っていつなんだ!?」

「明日からです。大晴君達の一回戦は二日目なので、初日に僕達の試合を観戦すればルールなどは大方覚えられるでしょう。宿泊代と交通費は大会が持ってくれるので安心してください」

 北信越大会は出場十六組なので一回戦は八試合。一試合三、四十分間くらいだが、審査員が壁を殴りすぎて手を故障しないように、一日最大四試合までと規約で定められている。

「いや……さすがに色々といきなりすぎるぞ……」

 うーん……大晴君達が出たくないなら無理強いは出来ないけど……でも、いいのかな?

「タダ。早應」

 僕の代わりに阿智さんが呟いてくれた。タダの方が早應より優先順位が高いようだ。

「出る。出るよ。明日六時だな」

「ありがとうございます。ああ、そうだ。お二人と連絡先を交換しておくべきですね」

 勇気を振り絞り、それでもさり気なさを装いつつ切り出す。

「そだね。電話番号とアドレスでいいかな? ラインとかわたしらよくわかんな――」

「待ちなさい。光。あなた何他の女の電話番号なんて聞き出そうとしているのかしら」

 静かに、だが確かに怒気を孕ませた声でもって、明が阿智さんの言葉を遮る。

 あーめんどくせーこれはめんどくさいやつだぞー。

「これから行動を共にしていく上で必要になるじゃないか」

「怪しい。信じられないわ。阿智さんのこと『それに反して胸はクラスで一番大きい。具体的な数値は当然見当も付かない』っていう目で見ていたじゃない!」

 さすが僕達。目を使った意思疎通で大晴君達に負けるわけないよね!

「おいおい。何をそんなに言い合ってるんだよ」

 大晴君が仲裁に入ってくれようとするが、明は止まらない。

「じゃあ私が清内路君と電話番号を教え合っていてもいいって言うのね?」

「別にいいよな、光?」

「いいわけないじゃないか。何でいつもそうなるんだ、明は」

「ええー……」

「今、他の時のことが関係あるの? いつもっていつよ? そうってどうよ!?」

「例えば十二歳の時、マラソン大会で僕と八坂さんが選手宣誓をすることになったら『私が他の男の子と誓ってもいいんだ?』ってむくれた挙句、県教委にまで掛け合いに行ったじゃないか」

「結果的に私と光の誓いを全校生徒に見せ付けられることになったのだから良かったでしょう!」

「めーちゃんってメンヘ、んんっ!」

 それまでぽかーんとしていた阿智さんが久しぶりに動かした口を、大晴君が後ろから両手を回して押さえ付ける。


 結局阿智さんは明と、大晴君は僕と連絡先を交換することになった。

「大町」と「美麻」以外で初めて電話帳に登録された苗字。目に入れるとニヤニヤが止まらない。そんな僕を睨み付けていた明も、スマホを眺めて口元を緩めていた。

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