捕らわれた魔女
バンッ バンッ
突然鳴り響いた、玄関の扉を叩く激しい音に、眠気も覚めて肩を跳ね上げさせたイヴは、あたふたとジャックの元へ近寄るとその体を強く抱き締めた。
「おい、やめろ」
「な、何なの?どうしよう。怖いわ」
「・・・」
バンッ バンッ
今にも扉をぶち破ってしまいそうな勢いのある乱暴な音に、次第に恐怖心を抱いたイヴは、ジャックを抱き締めたまま部屋の片隅に移動すると、小さく体を震わせながら玄関の方を見つめた。
「うぅ、ごめんなさいごめんなさい!」
「魔女のくせにビビりすぎ」
「だって私、大した魔法使えないもの!」
「・・・お前、今まで捕まえてきた魔女の中で、一番弱そう」
「え?」
ジャックがボソッと呟いた、謎めいた発言を確かに耳に受けたイヴは、数秒間思考を巡らせると、引きつった笑顔を浮かべながらジャックに視線を向けた。
「今、何てーー」
「イヴ・ホワイト!!!ここにいるのは分かっている!!!」
「貴様を、誘拐罪で逮捕する!!!」
イヴが口を開いた直後、その声を遮るように部屋中に響き渡ったのは、数名の兵士達の怒鳴り声だった。
強引に戸を押し破って家に入ってきた兵士達は、イヴを目撃するとすぐに、それぞれ身に付けていた武器を構えた。
「な、何よ。私は何も悪い事なんかしてないわ!」
武器を構えながらじりじりと迫り来る兵士達に、イヴは警戒しつつも強気の姿勢で立ち向かい、睨みを効かせた。
じっと互いに睨み合っていると、突然、兵士達の背後から見覚えのある少女が姿を現わし、イヴの前に立ちはだかった。
イヴはその少女を目にすると、愕然とした表情で口を開いた。
「え、エディ!?」
「ヤッホ〜。イヴ」
エディとの対面に、大きくため息をこぼすイヴ。
どうやらイヴはエディの素振りから、彼女の悪巧みに気付いたらしい。
「何がしたいのよ」
イヴは少し怒りのこもった声をぶつけた。
一方エディは、余裕のある表情で言葉を返す。
「君がイケないんじゃないか。"王子"なんか誘拐するから」
「・・・お」
「君が今、自分の胸に押し当ててる少年は紛れもなくこの国の王子だよ」
「・・・」
頭上から降ってくる希望をへし折るような発言に、徐々に顔色を悪くしていくイヴ。ヒクヒクと苦笑いを浮かべながら、ジャックを抱き締めていた手の力を緩めると、その場から数歩後ずさりをしてジャック"王子"と距離を取った。
「姿は魔女に変えられたってとこか。ふふ、幼くなって生意気さが増したね。ジャック王子」
エディは幼いジャックを見下ろしながら、馬鹿にしたように鼻で笑った。
しばらくの間静かに一部始終を見ていたジャックだったが、エディの口振りには怒りを覚え、兵士達の元へ歩み寄るとはっきりと口を開いた。
「この二人を捕らえろ」
「ぼ、ボクもかよ!?」
「ひゃっ!」
十六歳の少女の抵抗もままならず、ジャックの命令を受けた兵士はイヴの手首を掴むと、軽々と肩に担ぎ上げた。その上でイヴは必死に手足を動かして暴れるも、別の兵士に手首をロープで固定されてしまい、呆気なく捕らわれの身となった。
「チッ、吹き飛べ!ーーって、室内かよ」
身の危険を感じたエディは、咄嗟に魔法を発動させようと手のひらを空中にかざしたが、主に自然現象を操るエディの魔法は室内では発動する事が出来ず、結局、イヴ同様、呆気なく兵士達に捕まってしまった。
兵士達はエディの魔法を阻止すべく、エディの手足はイヴよりも更にキツくロープで縛り上げた。
「あー最悪。まじ最悪」
「ふん、自業自得だわ」
二人を担いだ兵士達はイヴの家を出ると、ジャックを先頭にして六歳の少年の歩幅に合わせながら、タウンゼント城に向かって歩き出した。