目覚めた少年
* * *
蔦に覆われたレンガ造りの古びた一軒家。
街の一角に佇むその小さな家に、少年を抱えたイヴはそそくさと入って行く。
音を立てないように扉を閉め、鍵を掛けると、イヴは緊張が解けたのように安堵の息を吐いた。
「今ご飯作るから待っててね」
イヴはそう言いながら少年を優しくベッドに寝かせると、キッチンの前に立ちエプロンを身にまとい、手際よく料理を始める。
フライパンの上に油を引き、冷蔵庫から卵とベーコンを二つずつ取り出し、それをフライパンの上に乗せて丁寧に焼いていく。
少し時間が空けば食器棚から皿を二枚取り出しテーブルの上に並べた。
そしてあっという間に手軽で美味しい、朝食の定番であるベーコンエッグを作り上げた。
フライパンの上から皿の上に移し替え満足げに微笑む。
「起きないかしら」
冷めないうちに食べてもらおうと、イヴは少年の元へ歩み寄り、寝顔をじっと見つめる。起きろ起きろと心の中で念じながら。
しかしぐっすりと眠り続ける少年を、イヴはしばらくの間見つめていると、何だか触れたくなるような愛らしさを感じて、そのサラサラなブロンドの髪に手を伸ばした。
その時だった。
「おい」
「・・・わ、目が覚めたのね!」
突然目と口を開いた少年に、肩をビクつかせながら笑顔を向けるイヴ。少年の髪に触れようとしていた右手は、何故かがっしりと、少年の小さな手に掴まえられていた。
とにかく少年の警戒心を解いてあげようとしたイヴは、違和感あふれる蔓延の笑みで口を開いた。
「あ、私はイヴ。イヴ・ホワイトよ。世間からあまりいいイメージのない魔女だけど、本当に何もしないから安心してね!」
「魔女、だと?」
「そうだけどーーー、ひゃぁああっ!?」
"魔女"と言う単語を聞いた瞬間、少年は目の色を変えてイヴに襲い掛かった。
掴んでいたイヴの右手を思い切り引くと、バランスを崩したイヴはベッドの上にうつ伏せに倒れ込む。
すぐにその背中に跨ってイヴの髪を掴み上げた少年は、冷めた口調でこう言い放った。
「お前を捕獲する」