序章
出版社に応募した事のある作品です。
全8話で完結します。
それは十年前の事。
ヘルシオン王国の王城にて。
その日は、第二王子の成人を祝うパーティが行われていた。
華やかなパーティ会場の中で、二人の子供が言葉を交わしていた。
「知っているか? この世界は丸いのだ」
一方の子供が、自信に満ちた声音で言い放つ。
その子供は質の悪い布のシャツとズボン姿で、髪の毛は何故かチリチリと短く縮れていた。
明らかにパーティに出席する格好ではない。場違いだった。
しかも服の所々が焦げていて、少し香ばしい匂いがする。
まるで、炎にあぶられたようだ。と、もう一方の子供は思った。
こちらの子供は、どこか内向的な雰囲気の子供だった。
態度もどこか自信が無さそうで、相手を見る目も遠慮がちである。
「皆はこの世界が常に平坦であると言っているが、そんなわけはない。平原を遠ざかるものを最後まで目で追えない事を考えればそれが証明できる。世界は丸く、星の海で太陽に振り回され続けているのだ。でなければ、我々は大地に立つ事すらできはしまい。そうだろう」
「そうなんだ。僕、知らなかったよ」
自信満々に言う子供に、もう一方の子供は素直に感心して言葉を返す。
「むぅ、表情の読めん奴だ。本気で言っているのか、馬鹿にしているのか解からんじゃないか」
「馬鹿になんかしてないよ! 僕、あんまり賢くないから、そういう事も知らなかったんだ。だから、そんな事を知ってるお兄ちゃんを凄いと思ったんだ」
チリチリ髪の子供が怪訝な表情になる。
「ぬ? まぁ良い。しかし、知恵と知識は別物だ。知恵が働かなくとも、知識だけは貯えられる。賢くない事と物を知らない事は関係ない。お前がどれだけ馬鹿でも、知ろうとすればどんな事でも習得できるぞ」
「じゃあ、勉強すれば僕もお兄ちゃんみたいな物知りになれる?」
内向的な子供は目を輝かせ、期待のこもった声で問う。
「もちろんだ。少なくとも、お前は知ろうとする気持ちがあるようだからな。私の話を聞いて、馬鹿にするだけの低能共とは違う。気に入ったぞ。お前、名前は?」
「僕はジョバンニ」
内向的な子供が名乗った。
「お兄ちゃんは?」
続けて訊ねる。
「私の名前を口にしようなど、十年早い」
チリチリ頭の子供がにべも無く言い放った。
「えぇ……」
ジョバンニはがっかりする。あまりにもがっかりとしているので、チリチリ頭の子供は妙な罪悪感を覚えてしまう程だ。
「たったの十年だ。約束してやる。十年経ったら、教えてやろう」
言い繕うと、ジョバンニはパッと表情を明るくした。
「約束だよ! 絶対だよ!」
「ああ、勿論だとも」
それが二人の出会いだった。