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魔王さまも食べてみたい  作者: 四葩
9/10

It's time to eat. 【9】


 ふーむ。昼間とは、また違う顔を見せるものだねー。


 月の光に照らし出される庭園を見ると、日の光に照らされている時とは違って何処か妖しい魅力があるように思える。

 地球には『月には魔力がある』って言葉があったし、何か魔力操作のコツを掴む一助になってくれたりしないかな?


 ふと、そう考えたところで月とは別に光る存在がいることに気付いた。


 手近にあったベンチに座りつつ、その光を観察してみる。


 空から降ってきているという訳でもない。

 かと云って、ずっと空中に浮遊しているかというと、そういう訳でもない。

 喩えるなら、蛍のように宙を泳ぎ、雪のように儚く消えていく。

 揺蕩い尾を引くその姿はどこか灯火のようでもある。


(なんだ…? これ…)


 ベンチに腰掛けたまま、腕を伸ばして謎の光に触れてみた。

 それこそ、冬の日に、空から落ちてくる雪の欠片を、手にのせるかのように。


 指先に触れた瞬間、光は溶けるように消えてしまった。


 だが、光が消えるのと同時に、何か暖かいモノが指先を伝って身体に流れ込んで来たのが分かった。


(もしかして、これが魔力なのか…?)


 光の正体が魔力であると思い至ったことに、明確な理由はない。

 そもそも、魔力という物がなんであるかを理解していないのだから当たり前の話ではあるが。


 指で触れた瞬間に体内に取り込まれる物など、魔力ぐらいしか思い浮かばなかっただけだ。


 光が通ったであろう道と、内に残る暖かさを頼りに、魔力という物を意識する。

 意識の端に引っ掛かったソレを、逆流させるように指先へと引っ張ってくる。

 俺の魔力が指先に集中し、空気に触れた。



 ──瞬間



 庭園が凍りついた。


 パキ、という音を残して世界はナニカに閉ざされた。


 空からは本物の雪が降り始め、華やぐほどに咲き誇っていた花たちは凍り付き、石畳やベンチには霜が降りる。


 突然のことに驚いて、集中が解ける。

 と、同時に魔力は霧散し、庭園の様子も元に戻っていった。


「……」


 自分の身に起きたことを冷静に振り返る。


 宙を泳ぐ光が魔力であると仮定し、その光が通った痕跡と感覚を頼りに逆算した。

 光が指先から通った道を知覚し、溶けて消えた部分──俺の身体の隅々にまで行き渡る、樹のようなモノの根を知覚する。

 そこから今度は、魔力を引き出し、魔力の道を通らせ指先に集め、表面に露出させた。


 そして、世界が凍ったのだ。


 そこから鑑みるに、この事象の原因が俺の魔力であることは疑いようもない。

 意図して起こした結果ではないので、元々俺の魔力に備わっている能力と見るべきか?


 そこまでいったところで、思い当たる節が一つ。


 ──『霜界』、俺の特性である。


 つまりは、そういうことなのであろう。


 俺が魔力を露出させた瞬間に影響が出たのだから、俺の魔力には氷属性だとかそんな感じの能力があるという訳だ。


 しかし、魔力を放出する度に周りに影響が出るというのだから、不便である。

 このままの状態が続くとして、火や水の魔法が使えるようになるとは到底思えない。

 

(どうしたものか……)



 それから暫くして、魔力を体外に放出しても周りに影響が出ないようになった。


 加減ができるようにと、何度も何度も、魔力を集めて、放出してを繰り返した。


 始めの頃は息苦しさのような物を感じることもあったが、回数をこなしていくうちにそれも感じなくなっていった。

 その過程で魔力を身体に巡らせることや、体表に薄く纏わせることもできるようになった。


 だが、


「流石にこれはバレたかもしれない…」


 何度も何度も魔力を放出したのだ、勿論その度に周りの全て凍りついている。

 度重なる冷気に晒されたせいか、花は崩れ、心なし空気も少し冷たい。

 これほどまでに暴れたのだ、勇者に監視がついていなかったとしても、さすがに気付かれていないと考えるのは楽観的にすぎる。


「願わくば、ただの氷魔法だと勘違いしてくれていることを祈るしかないな……」


 『霜界』の特性の把握だが、そちらはまぁ、また時間のある時にでも進めよう。

 特性を理解することは則ち己を理解することに繋がる。

 だが、誰の目があるとも知れないこの場では控えた方が良いだろう。


 ひたすらに己を強化し、敵から身守れるだけの力を付け、そしてその事実を隠さなければならない。


 皇国が味方であるとは限らないのだ。


 ◇


 その後も魔力の操作を続け、違和感なく、手足のように自然と魔力を操れるようにまでなった。


 その頃になると、もう空が白んできていた。

 宙を泳ぐ光も姿を消し、雲が淡く色づき始める。


「ふぁ…。一晩中起きてたから、なんか眠いや…」


 今は何時頃だろう。

 できれば部屋に帰って一眠りしたいところだが。


「……そんな時間は無いかも知れないな」


 日が昇ってから暫くすれば、起きてきた他の連中が思い思いの行動をとることだろう。


 …うん。十分な睡眠がとれる未来が見えてこない。


 最悪、鍛練の内容は勇者個人の裁量に任せると言われているのだから、昼前まで寝ていても文句は言われないだろう。


 皇国には睨まれるだろうが。


「そうと決まったら、さっさと帰って寝よう…」


 欠伸を噛み殺し、曖昧な記憶を頼りに。

 朝日が昇り始めるなか、俺は一人自室へと戻っていった。



────────────────────────────


 名前  東雲 明

 神格  1

 年齢  16歳

 性別  男


 称号 【境界を越えし者】


 スキル 【絶食Lv.10】【飽食Lv.07】

     【言語理解Lv.─】【魔術式Lv.─】new!

     【氷魔法Lv.03】new!


 特性  【悪食】【霜界】

     【魔法適性】【魔術適性】【魔力親和性】



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