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魔王さまも食べてみたい  作者: 四葩
8/10

It's time to eat. 【8】



「あの、あまり気を落とさないでくださいね」

「あ、あはは…」


 マリアさんが声を掛けるも、七瀬は愛想笑いで返すだけだ。

 自身の置かれた状況に、最早笑うしかないのか。

 それとも──別の何かがあるのか。


 マリアさんの手前ということもあって七瀬にそれ以上構う者はおらず、それ以降のステータスの開示は順調に行われた。



「勇者の皆様、お疲れ様でした。これでステータスの確認は終了となります。早速ではありますが、今回確認させていただいたステータスに乗っ取り、明日朝から鍛練を開始させていただきます」


 そこで一度言葉を切り、俺たちを見渡すマリアさん。


「鍛練の内容ですが、基本は勇者の皆様にお任せします。聖堂内部にある施設は一部を除き、自由に使っていただいて構いません。司書院で知識を付けるも良し、法術院で魔導を深めるも、武霊院で身心を鍛えるのも構いません。ただ、来るべき戦いの日に勇者の皆様が後悔なさることのないように、鍛練を怠ることだけは決してなさらないでください」


 マリアさんはそれだけ言うと一歩退き、その代わりに皇女が一歩前に出た。


「それでは勇者様、聖堂の内部を紹介いたします。着いてきてくださいね」


 皇女はそう言うや食堂の扉を出ていく。


 俺たちも、慌ててその後を追い掛けていった。



 左右に何本もの柱が立ち並ぶ回廊を通りながら、目的の建物が近付くとその都度立ち止まって説明をする皇女。



「こちらは日月院になります。私たち皇族の住まう聖堂に務める、僧侶たちの生活居住区でもあります──」



 聖堂は果てしなく、広大過ぎるほどに広大だった。


 大食堂に始まり、僧侶たちの生活居住区である日月院。

 なみなみと湯の張られた大浴場もある治療院。

 花の咲き乱れる庭園に、

 気の遠くなるような数の蔵書が納められた司書院。

 魔法や魔術の叡知が集う法術院があれば、

 聖騎士の皆さんが身体を鍛える場の武霊院もある──


 日月院を除いたこれら全ての施設が自由に開放されているという。


 贅沢な話だ。


 最後に俺らが寝泊まりする場所─聖道院に連れて来られ、皇女による聖堂の紹介は終了した。



「勇者様、本日はお疲れ様でした」


 一礼。


「既に大分日も暮れて来ました。明日の朝からは鍛練が始まりますので、今日は治療院で疲れをとるなりしてゆっくりと身体を休めてくださいね。それでは、失礼します」


 そういって、再び一礼をする皇女。

 メイドと騎士を連れて、彼女は聖堂の深奥に戻って行った。



(疲れた…。……今日は色んなことがあったし、疲れるのも無理ないか。さっさと湯船にでも浸かって寝よう…)


 聖道院での、自分に割り振られた部屋へと入る。

 地球にいた頃では、考えられないほどに大きな部屋だ。

 豪華ではあるが、華美ではない。


 疲れた身体を引き摺り、そのままボフン、とベッドにダイブする。


(一つの部屋の中に、複数の扉と複数の部屋があるってのがまず訳分からん。ここはマンションなんですかー?)


 まぁ良い。

 快適な部屋で過ごすことができるのであれば、それに越したことはないのだから。

 誰も、進んで不便な思いをしたい訳ではないだろう。


 このあとは、天納辺りが他の生徒に呼び掛けるなり何なりして緊急の集会やら会議やらを開くのだろう。

 その場を見たわけでも無いのにも関わらず、まるでその様がありありと目に浮かぶようだ。


 ──が、無償に眠い今の俺には関係のないこと。


(眠い。兎に角眠い…)


 聖道院の割り振られた自室に、個人用の風呂が付いていたのは素直に嬉しかった。


「おやすー…」


 俺の意識は、ゆっくりと沈んでいった。


 ◇


 時刻は夜半過ぎ。

 静かな夜、幽かに梟の鳴き声が木霊する。

 月の光が染み渡るような夜だ。



 意識がゆっくりと浮上していく。

 自分が起きるのだな、ということを、覚醒仕切らない意識の中で漠然と想う。


(……ふぁ…。まだ夜か……)


 部屋の中で零れる月光を見やりながら、ゆっくりとゆっくりと意識を覚醒させて行く。


(……あぁ、異世界に来たんだっけな…)


 道理で自分の部屋よりも寝心地が良い訳だ。

 ベッドもふかふかである。

 ゆっくりと眠れたからか、身体もなんだか軽い気がする。


(さて、何をしようか…?)


 完全に覚醒した意識で思考を始めるも、今は夜中で、鍛練は明日から。

 ──特にすることがない。


(そうだ。特性の把握でもしておこうか? 今夜の内であれば、まだ誰もついていないかもしれない)



────────────────────────────


 名前  東雲 明

 神格  1

 年齢  16歳

 性別  男


 称号 【境界を越えし者】



 HP 1000


 MP 1000


 筋力 127


 生命 153


 魔力 1049


 技巧 102


 敏捷 121


 スキル 【絶食Lv.10】【飽食Lv.07】Lv.up↑

     【言語理解Lv.─】


 特性  【悪食】【霜界】

     【魔法適性】【魔術適性】【魔力親和性】



────────────────────────────


(ふむ…。【悪食】に、【霜界】……)


 この場合優先すべきなのは、後者かな…?


 魔力関係の特性はこの際置いておく。

 そっちの方ははもう公開してるから、いつでも調べられる。


 まず魔力という物を理解しないと話にならないだろう。

 魔力…魔力…。


 ……うん、無理。分かんない。


 いきなり魔力とか言われても分からないよなー。

 天納辺りなら、魔力を操る感覚なんかもすぐに掌握できるんだろうけど。


 天才ではない自分には、そういうの無理です。


(…気分転換に、風でも当たって来るかな……)



 当たり前の話だけど、暗い廊下には一見して人影は見当たらない。


 いたら恐怖だね。


 他の連中はまだ皆寝てるみたいだ。

 彼ら彼女らが寝ている部屋からは物音一つしない。

 まぁ、もし夢の中にいないのであれば、俺みたいに出歩いてるんだろう。


 薄暗い廊下を当て所なく歩く。

 時折擦れる靴音が、静かな廊下に反響して面白い。


 暫くの間、俺一人の足音だけが廊下に響く。


 俺が知覚出来ていないだけで、もう既に監視の一人でもついているのだろうか。

 いや、別に監視でなくとも警備の者ならばいるのだろう。


 ……勘だけど。


 そう考えれば、一人で歩く夜道というのも面白い。



 ふと、前触れもなく道が終わりを迎えた。

 途切れた回廊から顔を上げ、広がるその先へと目を見やる。



 夜道を歩いた先にあったのは、庭園だった。



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