It's time to eat. 【6】
皇女の話も終わり食事が再開してから少し。桐生さんが再び服の裾をチョイチョイしてきた。
「どうしたの、桐生さん。ご飯食べないの?」
心無し桐生がジト目で睨んできている気がする。
「……東雲くん…。……皇女様の話は、ちゃんと聞かなきゃダメだよ…?」
……なして?
「ちゃんと聞いてただろう?」
皇女の話していた内容は、一言一句とまではいかないものの殆ど記憶している自信がある。情報は命運を左右するのだ。
「……ずっとご飯食べてたじゃない」
まぁ、そりゃ、お腹空いてたからね。
「そんなことよりも、ほら。桐生さんもご飯食べちゃいなよ」
個人的に美味しかったグラタンらしき食べ物を、スプーンで掬って桐生さんの口に突っ込んでみる。
その際にホワイトソースが口からはみ出てしまったので、それも拭ってやる。ぱく。
「~~~~~~~~っ!?!!」
それきり桐生さんは顔を赤くして喋らなくなった。
…いったいどうしたんだろうねー。
◇
食後も終わったこともあり、現在は生徒皆がまったりとして時間を過ごしている。各々好きなように寛いでいる感じだ。
……異世界に跳ばされたというのに、案外生徒たちは混乱していない。現実味が無く実感が湧いてこないのか、皇国という後ろ楯があるために安心しているのか。
俺は何をしているかというと、メイドs……じゃなくて、僧侶さん。……もうメイドさんで良いや。
兎に角、メイドさんに頼んで追加の料理を運んで来てもらっている。つまりまだ食事中だ。
「……まだ食べるの…?」
桐生さんが呆れている気がするが気にしない。
別に俺も食べたいから食べているだけでは無いのだ。
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名前 東雲 明
神格 1
年齢 16歳
性別 男
称号 【境界を越えし者】
スキル 【飽食Lv.04】 Lv. up↑
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そう、レベル上げだ。趣味と実益を兼ねているのだ。…とはいえそろそろ止めるべきか。
メイドさんに美味しかった旨を告げて、お礼を言う。
食前、食後の礼儀はきちんとしなくちゃね。
食後暫く姿を見せていなかった皇女が、数人のメイドと騎士を伴って戻って来た。このタイミングからして、皇女の後ろに控えている女騎士たちこそが聖騎士なのだろう。
「皇女様、その巨大な結晶体は……?」
天納が皇女の持ってきた巨大なそれに、疑問の声を上げる。
「これですか? これは、結晶に魔力を流し込んだ人物のステータスを表示する秘宝──アーティファクトと呼ばれるものです」
なんかそれっぽいのきた。
「ステータスを表示する……ですか。どうしてまた?」
そこで騎士の一人が前に出る。
「皇女様、そこからは私が」
「はい。マリア、後は頼みましよ」
どうやら彼女が軍団長さんらしい。
「勇者様が魔王討伐に十分な力を付けられるまで、稽古をつけさせていただくことになりました、私、マリアと申します」
生徒たちの間から感嘆の溜め息が漏れる。男子はマリアさんの容姿に見とれ、女子もまた彼女の所作に見惚れる。
あ、マリアさん結構好みかも。
「……私、何気にピンチかも…」
俺が下らないことを考えてる横で、桐生さんもまた何やら思案している様子。
緊張感ってものが無いんだろうか、俺らには。
あ、勝手に桐生さんも含めたら桐生さんに失礼かも。
「勇者の皆様のステータスを確認させていただくのは今後の方針を決めるためです。
身体能力値はどれくらいなのか。
魔法や魔術に対する適性はあるのか、ないのか。
将又、固有の能力を有しておられるのか、いないのか。
そういったものを確認させていただいた上で、今後の鍛練方針の決定とさせていただきます」
淡々と、要点だけを纏めて話してくれるので、聞くこちら側としても非常に分かりやすい。
鍛練の内容も各個人に合わせて変化するとなれば、実に効率的で効果的であると言えよう。
「因にこれが私のステータスです、参考にまでどうぞ」
そう言ってマリアさんは結晶に魔力を流す。結晶が淡く発光し、可視化されたマリアさんのステータスが、拡張ウインドウのように空中へと投影される。
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名前 マリア=フローレンス
神格 87
年齢 21歳
性別 女
称号 【聖女】【皇国の楯】【聖騎士軍団長】
HP 12,000
MP 32,000
筋力 4500
生命 8000
魔力 9000
技巧 6000
敏捷 4000
スキル 【神聖魔法Lv.08】【回復魔術Lv.09】
【神聖剣Lv.07】【聖楯Lv.08】
特性 【精霊眼】【聖体】【魔法適性】【魔術適性】
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マリアさん物凄い強いですね。
……あれ? もしかして俺って凄い弱い?
不安に駆られて周りを見渡してみるも、殆どの生徒が驚きに目を見開いていた。
なかにはフリーズしたまま、固まって動かない奴もいる。
…別に俺が物凄く弱いという訳では無いようだ。一安心。