It's time to eat. 【4】
皇女─アレーティアが
「皇国は勇者召喚に踏み切った訳ですが、そこに至るまでの経緯を勇者の皆様には説明させていただきます」
ということなので、俺たち彼女の後をついて来た。
現在、俺たちは大食堂のような場所に集まっている。皇族だけが使う場ではないのか、中央の巨大な長卓意外にも、周りを取り囲むようにして複数の長卓が置かれている。
皇女に促され、生徒たちがそれぞれの席へと座る。
皇女の話が始まった。
「長らくお待たせして申し訳ありません──勇者様」
手始めに、皇女はそう言って頭を下げる。
「勇者様が現在居られるここは、皇国は皇都、その中心である聖堂、その大食堂です。話が終わりましたら控えている僧侶たちに食事を運ばせますので、今暫く、お付き合いください」
それから皇女は、俺たちを召喚した理由、そこに至るまでの経緯を語り始めた。
◇
うーん…。
普通なら疑問点がいっぱい湧くところなんだろうけど…… 残念ながら、個人的には何もおかしなところは無かったかな。
まず世界のこと。
この世界の名前はアークだって言ってたけど、 元の世界における〝地球〟みたいなものかな。
加えて、このアークと呼ばれる異世界は所謂ファンタジーな世界だと。
エルフやドワーフは勿論、魔族や魔物、ドラゴンなんかもいる…。うん、物凄くファンタジーだ。
次に国のこと。
現在、皇国は魔王と魔王率いるその配下により侵略を受けている。つまり戦時下にある。現在戦況は落ち着いているが、何時また戦端が開かれるかわからない。
皇国は島国であるため、他国からの救援は望むことすら難しく、このまま戦争が再開されれば国が滅んでしまう。魔王に国が滅ぼされれば、この国に住まう国民たちがどうなってしまうことか…。さらに、皇国が滅びれば魔王の魔の手はこの国だけには止まらず、海を越えて、他国にまで及んでしまう。
そこで、皇国はこの国に残る古い伝承を頼ることにした。藁にも縋る思いで伝承に残る秘儀──勇者召喚の儀式──を実行。願いは見事天に届き、俺たちが異世界から勇者として召喚された、と。
「私たちの身勝手な理由で、勇者様を召喚したことは大変申し訳なく思います。ですが、私たちにはもう、こうするより他に道が無かったのです! ……お願いです、勇者様!
私を、私たちを──皇国の民を護ると思い、どうか勇者様の力を我らに御貸しください!」
立ち上がり、深く頭を下げてくる皇女。
……この人、俺らに頭を下げすぎではないだろうか。一国の皇女様が、そんなに容易く頭下げて良いのかね? 周りにはメイドs…… じゃなくて、僧侶さんたちもいるんだけど。
それはそうと、皇女の必至の懇願に胸を打たれたのか、勇んで立ち上がる馬鹿が一人。
「皇女様、俺たちに任せてください! 必ず、皇国の皆を守ってみせます!!」
……はいそうですー。天納龍輝くんですー。
いや、俺も反対はしないけどね。どちらかというと消去法で賛成するけど。反対しない理由は、まぁ、お察しで。
「ほ、本当ですか!? 勇者様!!」
終に、皇女の言う「勇者様」が天納個人に向けられ始めた。皇女様の頬も、心なしか赤いような。
世の中って理不尽ですね。結局は顔か、顔なのか……っ!
「……えっと……、東雲…くん…?」
はっ! 俺は、何を…!?
「あ…あぁ、なんでも無いよ、桐生さん。ありがとう」
「……どう、いたしまして…」
ワイシャツの裾をチョイチョイと引っ張って、正気に戻してくれた桐生さんにお礼を告げる。
……なんかこのテンションも疲れてきたなー。
そんなことしている間にも、皇女と天納との対談は、論点を変えて進んでいく。
「皇女様、俺たちには勇者としての力があるんですよね?」
「はい、勿論です。勇者様は、ただ一人の例外もなく〝力〟を持っていらっしゃいます。それは、世界から他の世界へと境界を渡る──外渡り──を行う際に、自然と身に付く物です」
おぉ…。話のスケールが大きくなった気がする。
「常人よりも優れた身体能力を持ち、膨大な魔力量を誇る。数多のスキルに習熟し、固有の能力を振るう者もいたそうです」
今この状態でも、既に強化はされてるのかね…?
「そんな勇者様ですので、滅多なことでは怪我をされることもありません。何よりも、我々皇国が、勇者様が力を付けられるまでの間、全力でサポートをさせていただきます…!」
うん……。まぁ、サポートなくちゃ死んじゃうからね。
「聞いたかい、皆! 僕たちには、勇者としての〝力〟がある! その力は常人を遥かに上回る強大な力で、魔王との戦いにおいて必ず僕たちを助けてくれるはずだ!」
うん……。力がなくても、やっぱり死んじゃうからね。
「皇国も、全面的にサポートをしてくれる!」
サポートには、衣食住なんかも含まれると嬉しいなあー。
「僕たちには……皇国を守る力も、義務もある! そうだろう! みんな!」
「あ……あぁ、そうだな…そうだよな…!」
「俺たちには力があるんだ!」
「勇者様… カッコいい響きじゃない…!」
「やってやりましょうよ…みんな!」
なんだかもう、天納の奴は魅了の魔法でも使ってんじゃないかってくらい他者を惹き付けるよなぁー。 ……魅了…?
天納の呼び掛けに感化され、生徒の中からもあちこちで賛同の声が上がる。
立ち上がり意味も無く叫ぶもの、指笛を吹くもの、周りの生徒と肩を叩き合うもの。……ここは冒険者ギルドかなんかか。
「あ…、ありがとうございます、勇者様……!」
皇女はそう言って、目尻に浮かぶ雫を指で拭うのだった。