It's time to eat. 【3】
目を開けると、そこはどこか異世界だった。
咥えたままの焼そばパンを飲み込んで、持ってきていたお茶で流し込む。
……次は何を食べようか。
ツナマヨおにぎりを食べながら辺りを見渡す。俺以外の生徒は等しく床に倒れており、暫く目を覚ましそうには無い。
取り合えず桐生さんだけでも仰向けにさせておこう。
肩に手を置いてひっくり返し、仰向けに寝かせる。
「……ん、 んんっ…」
…どうしてこの状況下で色っぽい声が出てくるのか。桐生さん、もっとしっかりしてください。思わず食べてしまいたくなるから。
背中と地面の隙間に手を通し、上半身抱き抱えるように腕をまわ す。左腕は下半身に伸ばして体重を支える。
所謂お姫様抱っこの体勢だ。
目を覚ましたら怒られるかもしれないので、早いところ運んでしまおう。
俺が元いた場所──食べ物が散乱している──へとやってきて、桐生さんを静かに床に寝かせる。直接床に寝かせるのははばかられたので、地面には俺の制服の上着を敷いている。
……やることも無くなったし、状況が変化するまでは昼食の続きを摂っていようかな。
食べ物を口に運びながら考えを巡らせる。この部屋には窓が存在しない。明かり取りすらも。加えて床や壁が異様に冷たいことから、恐らくここは地下なのだろう。
正面に聳える巨大な扉だけが、外へと繋がる道だ。
手入れが行き届いているのか、床には埃一つ落ちていない。
部屋の床の中心には不思議な幾何学模様が描かれており、その他には目立った物は何も無い。この部屋自体が魔方陣の為に作られたのだろうか?
良く良く見れば、教室で最後に目にした魔方陣と同じものであることが窺える。
(現状で推測、及び把握ができるのはこれくらいかな?)
未だ情報が不足したままだというのは理解しているが、これ以上はどうしようもない。異世界だと思ったのは、勘だ。
そんなことを考えつつ、最後の照り焼きサンドを飲み込む。うん、美味い。
「ご馳走さまでした」
食前、食後の礼儀はきちんとしなくちゃね。
それから十数分してから、七瀬が起きた。取り合えず手を振っておく。無視された。……確かに接点無いけどさぁ…。
七瀬の次に天納、藤堂、神楽坂、名前分かんないの順に次々とクラスメイトたちが目を覚まし、桐生さんは大体真ん中らへんで目を覚ました。
「……ん… ……んんっ…」
相変わらず寝起きの声が色っぽい桐生さん。
「おはよ」
一瞬で目が覚めるようにと、顔を覗き込まながら挨拶をしてみる。
「…………えっ! ……東雲くんが、なんで私の部屋に…!?」
おはよう、ここ桐生さんの部屋じゃないよ? 桐生さんの部屋がどんな風かなんて知らないけど。
「桐生さん、ほら、目を覚ましなよ」
顔に掛かった前髪を払いつつ呼び掛けてみる。まだ寝惚けているだろうから、このくらいならセーフだろう。
「……えっ!? ひゃ、ひゃぁぁぁぁっ~…!?」
桐生さんは顔を真っ赤にして、そのまま物凄い勢いで俺から逃げていった。
……セーフだと、思いたい。
桐生さんが俺の所まで戻って来るまで数分、寝ていた生徒が全員起きるまで更に数分の時を要した。
「……東雲くん、ここ、どこかな…? ……私たちって、どうなっちゃうのかな…!?」
それは殆どの生徒が抱いている思いだろう。
「ん~… そろそろ説明があるんじゃないかな? ほら」
俺がそう言って扉を指差すのと、巨大な扉が開いていくのは同時だった。……同時なの多いな。
扉から入ってきたのは一人の女性で、金髪碧眼の見たことも無いような超絶美少女。
「……あの、東雲くん…?」
「ん? どうしたの?」
桐生さんが俺のワイシャツの裾を引っ張ってきた。
「……あ、いえ… なんでもありませんでした…」
「そう?」
まぁ、桐生さん本人がなんでも無いって言うんだから、大丈夫なのだろう。
「初めまして、勇者の皆様。私は、この国の第一皇女を務めます、アレーティア・リュオー・アステールと申します。これから先の未来、皇国ともども、末長く宜しくお願いいたします」
彼女は、そう言って俺たちに頭を下げた。
アレーティアの豪奢なまでの金髪が、火の光りに反射して妖しく煌めいた。