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魔王さまも食べてみたい  作者: 四葩
10/10

It's time to eat. 【10】


 明けて翌日。てか、たった数時間後。

 コンコンコンコン、と、小刻みに、リズム良く扉を叩く音が聞こえてくる。


「……東雲くん? …もう朝だよー?」


 うーん… まだ寝させてくれ…。


「……東雲くん、何時まで寝てるつもり? …いい加減起きようよー…」


 こっちは昨日夜遅くまで起きてたんだ。

 お願いだから、もう少し寝させてくれぇ…。


 コンコンコン。


「……東雲くんってばぁー…」


 起床を急かす声の質が、微妙に不機嫌な物に変わりつつある気がする。


「……朝ご飯、なくなっちゃうよー?」


 ……。


 …………なに?


「それは困る…っ!」



 ◇


 ──現在、食堂にて。


「……まさか、『ご飯』って言葉に反応して飛び起きてくるなんて…。はぁ…」 


 隣で朝食を摂っている桐生さんが溜め息を吐く。


 …なんだか疲れが溜まってるみたいだ。

 ちゃんと睡眠をとってるのか心配になる。


「そういえば、溜め息って精神を落ち着ける作用があるらしいね」

「……それで?」

「だからほら、遠慮せず、どんどん溜め息ついて良いからね」

「……誰のせいよ、誰の。…はぁ~…」


 本当に疲れが溜まってるみたいだなー。


 …いや、なんとな~くだけど誰のせいかは分かってるよ? でも半分夢の中の世界にいた訳だから、記憶も曖昧なんだよね。

 だから謝るにしても何が悪かったのかの判断がつかない。ってか、肝心なところの記憶がない訳で。


「でも、起こしてくれてありがとう。桐生さんが起こしてくれたお陰で、朝食食べそびれずに済んだよ」

「……はぁ~…、飽くまでご飯なのね… 」

「それと、純粋に嬉しかった」


 桐生さんの目をはっきり見て、しっかりとお礼を言う。

 桐生さんに起こして貰ったことに対する感謝の気持ちがあることだって、決して嘘ではないのだ。


 誰かに起こしてもらうなんて経験、あんまり無かったからね。

 結構嬉しくて、思わず頬が緩んでしまう。


「……どう、いたしまして…」


 桐生さんは、それだけ言って食事に戻ってしまった。


 ちゃんと気持ちが伝わってると良いんだけど。

 さっきも溜め息ばっかりついてたから、あんまり真に受けてないのかもしれないなー。

 俺としては、女の子に朝起こしてもらうってだけで凄い幸せなんだけどね。

 それも比較的仲の良い桐生さんにだし。


「できれば明日も起こして欲しいなー、なんてね」


 そんなこと言ってたら、桐生さんがフリーズしてしまった。


 あれ? さすがに悪ふざけがすぎた?


「……あ、ちょっ、待って!今のなし! だからそんな固まんないで─」


 慌てて俺が前言撤回していると、聞こえないくらいの小さな声で、ぽそりと桐生さんが呟いた。


「……ぃ、良いよ」

「へ?」

「……だ、だから……べつに良いよって言ったのよ……!」

「…あれ…? 良いの…!?」


 へ? 良いの? ……本当に!?

 本当に良いなら、本当に頼んじゃうよ!? 俺。


 桐生さん、はっきり言って可愛いし。


「それじゃあ、お言葉に甘えて。 偶にで良いから、俺が起きてこない時なんかは……起こしに来て貰っても良いかな?」


 おそるおそる。

 未だにちょっと信じられないので、桐生さんの顔を伺い見るようにしながら頼んでみる。


「……うん、任せて。その時はちゃんと起こしてあげるから」


 そう言いながら、小さく笑う桐生さん。


「……東雲くん、顔、変すぎるよぉ…~っ!」


 そんなに俺の顔が可笑しかったのか。


 口許に手を当てて小さな笑い声をあげる彼女は、ちょっと反則すぎるほどに可愛かった。


 今。

 俺の顔が赤くなってるのは──きっと気のせいじゃない。



 ◇



 そんな一幕を挟んで。

 時刻は現在九時を回ったところ。 だいたい合ってると思う。


 今いる場所は司書院。

 膨大な量の蔵書が納められる皇国の知識の集積所。

 凡そこの国──アステール皇国内で手に入る知識ならば全てが取り揃えられている、まさに夢のような空間だ。


 ここには、禁術や秘術を記した書物に始まり、今は喪われた文明の古文書に至るまで、ありとあらゆるジャンルの蔵書が納められている……らしい。

 でもって、それらの蔵書は一般にこそ公開はされていないものの、然るべき手順を踏んで国に申請することで、人によっては閲覧の許可が降りることもある……とか。


 はい。


 全部、受付にいた司書さんから聞いたことです。ちなみに綺麗なお姉さんでした。……優しかった。




 本棚の連なる森をさまよい歩き、時折目的の本を見付けてはその本を新しく腕の中へと納めて行く。

 腕には、既に十数冊にも及ぶ書籍が抱えられている。


「これで最後かな……っと…」


 それにしてもここの図書館──司書院は、本当に凄い。

 広がる床や聳える壁にギッシリと本棚が詰め込まれるように存在するのは勿論、視線を上へと向けてやればそこにも本棚が存在する。

 しかもこの建物、地下三階と地上六階の、合わせて九階立てにもなるのだ。


 ……実に馬鹿げている。


 全ての蔵書を読破するとしたら、一体どれだけの時間が掛かることやら。……そんな気さらさらないけど。


 まぁ、目的の本の収集にも一段落つき、あとはこれらの本を読み込むだけである。


「どこかに好い場所はないものかな~、っと… ~~♪」


 無意識に、好きな歌のリズムを口ずさんでいた。自身の機嫌が良いことを自覚する。


 機嫌も良い、本もある。


 あとは読書に最適な空間を見付けるだけなのだが。どうして中々、その最適な空間が見つからない。


 いっそのこと、今いる場所から階を移してみようか?


 そうして上の階へと昇る。

 因みに、階段ではなく昇降機を使ってだ。無駄(?)なところで魔導技術が進んでいるものだなぁ。


 ひとつひとつの階層が大きいため、昇降機を使っても階を越すのに結構時間が掛かる。

 昇降機に取り付けられた大きな窓から、空間一杯に本棚が敷かれた部屋を見下ろしてそんなことを思う。


 チーン、というチャイム音とともに、昇降機がようやく目的の階へと辿り着いた。


 三階である。

 


 陽当たりの好い席を探して本棚だらけの道を進む。と、前方に丁度良い席を見つけた。


 窓際に設えてあるために陽当たりも好い。

 ちょうど本棚が陰になっているために、そこにもし誰かがいたとしても、一目見ただけではそこに誰かが居るなどとは思えないだろう。

 ともすれば、図書館という物静かな環境も相まって、その隠れ家的な空間は、椅子に座ってしまえばそのまま微睡むこともできそうだった。


「おぉ……、好いね……!」


 まさに、探し求めていた絶好のポイントではなかろうか。

 こうなってくると、読書だけではなく、次第に昼寝までしたくなってきてしまう……。


「んー、そうだな。 昼寝を楽しむ為にも、ちゃっちゃと済ませてしまおう……」


 そういって俺は、持ってきた本の山の中から、上から二番目に置かれた本を抜き取るのだった。



 ◇



「ふーん、魔術の仕組みと魔法の原理ってのは、こうなってるのか……」


 今俺は、この世界に存在する、魔術と魔法の違いについての理解を深めているところだ。


 本から得た知識と、そこから感じ取った自己解釈を加えるのなら……魔術は、ファンタジー小説に置ける精霊魔法。魔法は、SFやファンタジー小説に置ける超能力ってところか?


 いや、『ステータス』を信じるのならば、個人個人に置ける『特性』なるものがあったはずだ。

 あれこそまさに『超能力』と言えるだろう。


 魔術は、元々その世界にあるものを術式によって導き、誘導し、組み上げるもの。

 元々あるもの…つまり自然の力を借りるないし利用するという意味では、俗にいう精霊魔法に通ずるところがある。


「……では、魔法は……?」


 魔法は、魔術とは違い術式を必要としない。

 己の持ちうる純粋の魔力のみでもって、現実を歪め、理を歪め、そうすることで望んだ事象を現界させる。

 必要なのは、事象を現界させるに足る魔力と、それを補完する本人のイメージのみ。


「つまり、魔法は、やっぱり魔法ってことか……?」


 ……ん? 何言ってるんだ、俺。

 ……自分で自分の言ってることが分かんなくなってきた。


「んん~~っ!? ……やめだ、やめっ!」


 定義付けは後回しだ! 何なら、そのままどこか明後日の方向にやってしまっても構わないだろう。


 肝心なのは、俺が魔術と魔法というもの、加えてその違いを理解しているかどうかということだ。


 そして理解なら──もう既にできている。


 ……ならば、何も悩むことはないっ……!!


「よし、次行こう。次。時間は押しているんだ。昼寝の時間を捻出するためにも、急がねば……!」



 そうして俺は、積み上げられた本の三冊目へと手を伸ばすのだった。


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