4-4 ラーナエイト
日が傾き始める前に遂に目的地ラーナエイトに到着。
長かったー。
目的地設定して旅するなんて初めてだったけど、達成感半端じゃねえな! 外国を旅するバックパッカーの気持ちがちょっと分かったかも。
って、達成感に浸ってる場合じゃねえよ。俺の目的は、むしろここからが本番だっちゅーの。
ラーナエイトの街はかなり大きい。
王都であるルディエさえも凌駕する、アホみたいな広さと大きさだ。国の象徴である街より大きいって、それどーなのよ…とは思うが、こうして存在しているのだから一応周りから文句は出て居ないのだろう。
巨大な壁に囲われたこの街は2つに分かれていて、まず門を潜った所にある下層。コッチはそれなりに家がしっかりしていて、通路がレンガを敷いて整備してあるが、まあ、普通の街のレベルだ。
問題なのは、下層を抜けた先にある一本道の坂道を上った先にある上層である。コッチは豪華さが異常だ…。坂道の上には城門みたいな巨大な門があり、そこから強固な石造りのアーチが伸びている。そして、アーチを抜けた先には城みたいな建物がそこら中に並び、道端には豪華な装飾が施された照明用の魔導器が設置されている。
………何? この下層と上層の差は?
行き交う人の差も大きく、下層の人間達は俺等と大差ない格好だが、上層の人間は全員貴族かそれに準ずる身分の人間かと思うくらい身形が良い。
で、現在は上層部の入り口である坂の上の大きな門の前。
目の前には、上等な鎧で身を固めた衛兵達。しかも10人近い…いくらなんでも、厳重過ぎないか? 下層部の入り口には衛兵1人も居なかったのに…。
俺の頭を過ぎった疑問を余所に、馬車の御者が門番達を話を通していた。
「では、依頼のアヴェリース公国の子供達です。確かにお届けしました」
「うむ、御苦労。数は8人か………少ないな…」
「は?」
「いや、なんでもない。では、御者はそのまま通り、例の建物に子供を運べ」
「畏まりました。“白い家”ですね」
「そうだ。では、通って良し」
御者が馬に鞭を入れて馬車を進ませる。
じゃあ、俺達も……と思ったら、門番達に槍を向けられた。
「……あの、何か? 怪しい者じゃないですよ? 護衛の依頼を受けたちゃんとした冒険者ですよ? ほら」
門番達に胸元のクラスシンボルを見せる。
「ここから先は通る事は出来ん。依頼料は御者にギルドまで届けさせるから、そちらで待つが良い」
「なんでそこまで厳重な警備なんですか?」
「要らぬ詮索はするな!」
門番達のギラリとした殺気混じりの視線が俺に集まる。
しかし、ここで尻込みして引く訳には行かない! 聞いた話じゃ、俺の目的である不老の人間はこの先の上層部に住んでるって話なんだ。なんとかして通りたい!
「不老の人が居ると噂を聞いたので、話を伺いたいんですけど」
「無理だ」
「少しで良いんです」
「帰れ」
「どうしてもですか?」
「さっさと去れ」
俄かに他の門番達も殺気立って来たな……。
やろうと思えば力付くの強行突破は可能だけど、騒ぎ起こして街に居られなくなるから最終手段だな……。
「分かりました。出直します」
「出直しても無駄だ」
背中に門番達の視線を受けながら坂を下る。
後ろを振り向くと、門を潜って行った馬車から子供達が手を振っていたので、返事代わりに小さく手を振り返しておく。
「坊主、お前あそこに入るのは無理だって」
「なんかないんスか? なんか、こう…秘密の抜け穴的な物とか?」
「在るか!? 言っとくがな、ラーナエイトの上層は並みの城以上の防衛力があるからな!」
城以上……。「そりゃ凄い」と感心したいところだが、城の防衛力がどのくらいなのか知識がないから分からん。
「上層には転移無効や浮遊無効が張られてるって噂だし。城どころか、もうあれは要塞のレベルでしょ」
転移も上空からの侵入も警戒済みか。厳重なんて話じゃねえぞコレ……警戒が行き過ぎてて異常過ぎる。王都のルディエだって普段は転移魔法にさえ警戒していないってのに、浮遊魔法も無効にしてるって……。
「それに何より、ラーナエイトにはアレが居るしね?」
「あれ?」
「そう、あれ」
坂の下の方を指さすアネルの姉ちゃん。
その先に居たのは、坂の下の門番のように置かれた巨大な鎧の銅像。
「あの銅像が何?」
「銅像じゃないわよ。あの鎧がこの街の防衛の要、魔動兵よ」
「魔動兵? なんですかその不穏な名前?」
「鎧の内部に高エネルギー反応を感知」
なんですって!?
パンドラにボソッと呟かれ、慌てて【熱感知】で坂の下で銅像のように佇んでいる鎧を見る。………けど、特に何も見えないな。熱量に変化がないって事は、中身が魔物なんてオチはなさそうだ。
「パンドラ、中身について何か分かる事あるか?」
「内部のエネルギーが魔力に酷似している、という程度の事しか」
酷似している?
「魔力じゃないのか?」
「はい」
「魔素か?」
「いえ。正確な分析は出来ませんが、その中間だと推測します。魔素が半端に魔力に変換され、どちらの特性も持たなくなった物ではないでしょうか」
どちらの特性も持たない。
つまり、魔法の発動力に出来ないし、魔物も生み出せず、俺の炎でも燃やせない。エネルギーとして消費される以外に使い道のない物。
「他には?」
「外装の話になりますが、関節部に軽度の損耗を確認。どの程度の稼働時間かは分かりませんが、鎧の関節部が削れる程の力を出す事が出来るのでは、と推測します。それと鎧自体に魔力防御が施されています。ですが、これは魔法による物ではなく、魔導器によって起動するタイプの防御効果と思われます」
単純な物理性能はかなり高くて、その上魔法攻撃に耐性持ちってか。
「なるほど…アレ1体だけでも、相当強そうだな」
パンドラが苦手そうな相手だなあ…。まあ、俺なら攻略出来るか。最悪、熱で鎧ごと溶かすって力技も有るし……って、ダメだダメだ、力押しに頼るのは出来るだけ止めねえと。
軽く頭を振って自分の思考を否定する。
そんな俺の葛藤を置き去りにして、横のオッサンと姉ちゃんの話は続いていた。
「でも、魔動兵の強さはやっぱり数でしょ!」
「あー噂じゃ300とか400とか居るって話だからなあ」
……何その数…。2万体と向き合った経験の在る俺でも、ちょっとウゲッとなる数字なんですけど。
「まあ結局全部噂じゃない。ラーナエイトと言えば、200年だか300年だか、魔物の襲撃さえない“完全なる平和”を実現した、なんて言われてる街だからねえ。そこら中に配備されてる魔動兵が動いてる方が珍しいくらいだし」
完全なる平和…ねえ。
胡散臭さ大爆発。絶対何か裏が有るよ、断言しても良いね。
「どうだ坊主! これで上層のヤバさが分かったか?」
「ああ。騒ぎ起こすような事は止めておくよ」
「そうしろそうしろ! 俺達だって何度か来てるけど、1度も上層に入れて貰った事ないからな! お前に先に入られたら癪だろ?」
それは知らねえよ。
「マスター、宜しいのですか?」
2人に聞かれないように小声で喋る。
「全然宜しくねえよ。だから、手は打ってある」
ドヤッとキメてみたが、パンドラが無反応過ぎてコッチが恥ずかしくなった。……チキショウ…機械的な反応が恨めしい…。
まあ、手は打った、とか言ったけど結果的にそうなっただけの偶然の産物なんだけどね。
腕利き……かどうかは怪しいが、スパイを仕込んで置きました。
――― ヨロシクな、白雪




