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拝啓、他人様の体を借りていますが異世界で元気にやってます  作者: 川崎AG
四通目 永遠と終焉と始まりの街
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4-3 炎使いです

 カスラナを出発して丁度10日目。

 護衛も5日目になると慣れたもので、道中はババルのオッサンから敵の待ち伏せの回避法とか、襲われた時の脱出法とか色々教えて貰った。アネルの姉ちゃんからは、逆に相手を罠にかける方法や、魔法のトラップの解除法等々。

 元々、そういう経験から来る知識が圧倒的に足りない俺だ。この手の話は本当に為になる。

 お返しに俺も何か2人に教えられれば…と思ったが、そもそも俺はそんな大層な知識なかった……。そりゃ、実際に戦いとなったらオッサンと姉ちゃん2人がかりでも秒殺出来る自信はあるが、それはあくまで≪赤≫がくれたチート級のスキルを大量に抱えてるからで、俺自身の力ではない。

 ……知識不足で、地力不足。そこそこ修羅場越えた気になってたけど、俺自身は全然成長してねえな…。

 時間見つけて五感研ぎ澄ます訓練はするようにしてるけど、経験と知識はなあ…。そもそも、半端に強くなっている今の状況がそう言う部分を欠落させているとも言える。其処等の敵なんて瞬殺出来てしまうから、どう戦っても俺には経験と呼べるようなものが蓄積されない。

 これは、アレだ。RPGでレベル上げ過ぎると雑魚から経験値が入らなくなる現象だ。

 まあ、俺の場合は自分でレベル上げた訳じゃないけど……。


「ここまでくれば、もうすぐラーナエイトですよ」


 御者の言葉に、荷馬車の中で白雪と(または白雪で)遊んでいた子供達が顔を出して、前方を見る。しかし、前方の光景は岩山が広がっていた。


「まだ全然じゃーん!」「嘘つきー」「つきー!」「きー!」「もうお尻いたーい!!」

「すぐって…そこまですぐじゃないよ! 危ないから座ってて」


 御者が手綱を掴んだまま、子供達を中に押しやる。

 ブー垂れながら荷馬車の中に小さな顔が引っ込むと、交代に中から白雪が飛び出して来た。


「あー妖精さん!」「逃げちゃった!」「たー!」「もう、ルティが苛めるから!」「ボ、ボクのせいじゃないよ!!」


 中で揉みくちゃにされていたらしい事は、白雪が思念で騒いでいたから知っている。子供相手だし大丈夫と思ってあえて助けには行かなかったが…。それに、白雪が中に居ると子供等が外に出ようとする事もないから安心だし…。が、白雪本人的には相当シンドかったらしく、出てくるなり体を怒りの赤で光らせながら俺に何度も体当たりしてきた…まあ、全然痛くないけど、白雪がこんな行動に出るとは相当ご立腹なのは確からしい。


「ゴメン、ゴメンって。子供の相手はお前に任せとけば安心かもと思って」


 言い訳してみても効果はなく、プンスカしたままフードの中に引き籠る。

 こりゃあ、暫くへそ曲げたまんまだな…。折を見て花持ってご機嫌伺いしとこ。


「マスター、どうかなさいましたか?」

「いや、白雪がもう子供等の相手は嫌だーってさ」

「でしたら、私が代わりに護衛対象を見張っていましょうか?」


 ぶっちゃけ、お前は子供等に怖がられてるんだよなあ…。無表情だし、返事も淡白で、「怒っているのかと思って話しかけ辛い」と子供達が俺に愚痴っていた。


「まあ、もうすぐ着くらしいし、あとはもう大丈夫だろ」

「そうですか」


 頷いて了解の意を示すと、再び無言で俺の後ろを歩く無表情なメイド。うーん、俺はもう慣れたけど、確かにパンドラの事を良く知らない人間には、怖いかもしれないな…。

 かと言って、愛想良くしろっつって出来る奴じゃないしなぁ。


「それにしても、やはり上位ランクの冒険者さんが一緒だと旅の安心度が全然違いますね?」


 と御者台から声をかけられる。

 ニコニコと嬉しそうな顔を見ると、特に深い意味はなく世間話程度のつもりで話しかけてきたようだ。


「安心出来たってんなら、それは俺じゃなくてババルのオッサンとアネルの姉ちゃんが居たお陰だろ? 俺等は護衛依頼のど素人だし」

「はっはっは、分かってるじゃないか坊や。まあ、でも、確かにアンタの実力は認めるよ? あんな強力な魔獣を従えてる魔獣使いは初めて見たからね」


 旅路の間中、何度も否定はして来たのだが、俺は魔獣使いじゃない。まあ、大抵は「またまたー」と笑って流されてたが。

 戦いをパンドラとエメラルド達に任せていた俺も悪いか…。俺が炎ブッ放しても良いんだが、道中は子供達に張り付いて護衛に徹していた。それと、敵の行動と、皆の立ち回りを観察して、どう戦えば素早く被害を受けずに倒せるかを頭の中でイメージしていた。

 多分、スキルの能力値は十分に有ると思う。俺に足りないのは、その力を効果的に使う判断力と応用力だ。

 ヴァーミリオンが手に入ってからは、ヒートブラストや【レッドペイン】で広範囲、高威力で敵を殲滅出来てしまう。けど、それはあくまで選択肢の1つであるべきで、それに頼って力押しになるのはダメだろう。

 っと、話が逸れた。

 この調子だと、ラーナエイトに着いても俺の“魔獣使い”のラベルは剥がれそうにないな。本来なら炎使いを売りにしてるんだが、そっちの姿は見せる機会もなさそうだし…。


「アステリア王国は比較的魔素が薄くて平和な国だから普段は楽な荷運びなんだが、近頃はルディエが魔道皇帝に侵攻されて、その上魔物の襲撃を受けたって聞くし。ソグラスに至っては壊滅したって噂だし……この国の西側は今相当ボロボロだからなあ。いつ東側に飛び火して来るか分かったもんじゃない」


 と溜息交じりに愚痴る御者。

 西側の事件に無関係じゃない俺としては、自分の不甲斐無さを責められているような気分になって心が痛い。


「でも、西側には物凄い強さの炎術師が居るって聞いたぜ? なんでも、たった1人でクイーン級の魔物を枯葉を焼くように焼き尽くすって」

「ああ、その噂は私も聞きましたよ!」

「坊や、アンタ達西側から来たんだろ? 会った事ないのかい?」

「いや、会った事ねえし、噂も聞いた事ねえな」


 そんな大層な奴が居るんなら、もうちょっと戦いの場に出て来て俺達に楽させて欲しかったんだが……都合良く忙しかったのか?


「クイーン級の魔物を倒すって、そいつは何者なんだ? 冒険者か? それともどこかの町の衛兵か?」

「ババル、冒険者はないよ。クイーン級の魔物を単独で倒せるって事は、昇級条件を満たしてるじゃないか? だったら、そいつはクイーン級の冒険者って事になるだろ? 新しく9人目のクイーンが生まれたなんて話聞いた事ないよ」

「いやいや、もしかしたら、冒険者になったばかりで他の条件を満たしてないとかかもしれないだろ?」

「御2人共待って下さい。もしかして、その炎術師が8人のクイーン級の誰か、と言う可能性はありませんか?」

「なるほど、それは考えなかったな! 8人のうちで炎術師に間違われそうなのは…<失われた魔導書(ロストブック)>か?」

「<ドラゴンファング>は?」

「ああ、グレイス共和国の……」


 何やらクイーン級の冒険者の話で盛り上がる3人を余所に、ソソッと近付いて来たパンドラが、他に気付かれないように服を引っ張る。


「ん? 何よ?」

「件の炎術師とは、マスターの事では?」

「いや、違うだろ。俺、炎術師じゃねえし、っつうか魔法使えないし」

「ですが、マスターの炎と魔法の炎を、普通の人間では区別出来ないのでは?」


 あー……それは確かに。


「と言うか、私も区別出来ません」


 お前もかよ。

 つっても、俺も炎見せられて咄嗟にどっちの炎? と問われたら正直迷うな。使ってる本人の俺でさえ判別が難しいものを、赤の他人にしろってのは流石に無理か。

 あれ? じゃあ…。


「さっきの炎術師って俺の事なの?」

「恐らくは」

「………」

「………」

「皆には黙っといてくれ」

「畏まりました」

 


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