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拝啓、他人様の体を借りていますが異世界で元気にやってます  作者: 川崎AG
四通目 永遠と終焉と始まりの街
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4-1 永遠の街へ

 ラーナエイト。

 噂では不老の人間が住まう街。きっと若い見た目で爺言葉話したりするのが居るんだろうなあ…。

 っつか、不老の人間とか言われて当たり前のように受け入れちゃってるけど、良く考えたら、そんなん居る訳ねえ……って言うのは、アッチの人間の常識だよなあ…。そんなもんコッチじゃ何の役にもたたねえし。

 そもそも、俺自身もアッチの常識の通じない存在になってるしな……。

 炎どころか、溶岩に落とされたって死なないし、自分からは炎出すし、溶岩以上の熱量生み出すし。

 一緒に居るのは半分以上機械のメイドと、自由奔放な妖精。

 ………はぁ、なんかふと我に帰ると、俺本当にファンタジーな世界に居るんだな…。

 まあ、それも今さらか。


「いやー、それにしても、ルーク級の冒険者さんに護衛して貰えるなんて思ってもみませんでしたよ」


 と、笑顔で声をかけて来たのは、横で荷馬車の御者をしている若い男。

 俺が言葉を返そうとするよりも早く、荷馬車の反対側を歩いていた髭の男が口を開いて俺の発言を制する。


「ハッ、ルーク級って言っても、アステリア王国のルークだろ? どの程度やれるのかは疑問だがな!」

「そうそう。アステリア王国って言ったら、魔物も冒険者もレベルが低いって事で有名だもんねー」


 髭の男の後ろに居た、日に焼けた肌を惜しげも無く晒す女が更に続ける。


「この国ってクイーン級も居ないし、稼ぎ場としては楽よねえ? そんな所のルーク級とか言われても実力を疑問に思うのは当然じゃない? 大体そんなおチビがなれるような低い評価ラインだしー」


 2人して俺を見て鼻で笑う。

 まあ、この見た目で下に見られるのは慣れたよ。俺自身の体じゃないから、ダメージも怒りもそんなに大きくないし。……代わりに、意識の奥で眠ってるロイド君が若干イラッとしてるけど…。

 ……そして、それ以上に後ろを歩いているパンドラがご機嫌斜めで、今にも銃に手をかけないかとハラハラする。


「マスター」

「銃は抜くなよ」

「マスター」

「通常詠唱での魔法もダメだぞ」

「いえ、そうではなく」


 パーカーの裾をチョイチョイっと引っ張って、少し先の大きな岩と木々で見通しの悪い場所を指さす。

 ああ、うん、そう言う事ね。

 視覚では分からないが、【熱感知】で見ると陰に魔物が隠れているのが見える。

 1、2、3…全部で15、いや木の上にもう1体居るから16かな。結構多い……けど、20000体の魔物に斬り込んでいったばかりだからか、全然気にならないな。


「居るな」

「はい。居ますね」

「おーい、あの岩陰に魔物が居るけど、どーする? 先行って倒して来るか?」


 御者が魔物と聞いてギョッとする。冒険者の俺等としては魔物との戦いは日常茶飯事だが、やっぱり一般人には相当怖いもんなんだなぁ。

 対して、荷馬車の反対側に居る冒険者2人は気にした様子も無い。

 1度馬の足を止めさせて、その場で作戦会議を始める。


「本当に居るのか? ここからじゃ見えねえだろう?」

「探知魔法でも使ったとか? 仮にもルーク級だものね、それくらい使えても不思議じゃないか」


 魔法と言う一点に関しては的外れも良いところだが、まあ一々ツッコミを入れるのも面倒なので流す。


「で、どうする? 俺等が先に行って片して来るか?」

「護衛の基本は対象から離れない事だぜ坊や。護衛依頼受けた事ねえのか?」

「まったくねえな!」


 キッパリ元気に言ってやった。見栄張って嘘吐いてもしょうがないからな。


「……お前、そんなんで本当に良くルーク級になれたな? 魔物相手とは言え、二重三重の波状攻撃を仕掛けてくる事があるから、無暗に護衛対象から離れないなんて基礎の基礎だぞ。そもそも、戦いは回避できるなら避けるべきだ!」


 なるほど、それもそうか。戦端開いちまったら、護るべき荷馬車の中身に何があるか分からないもんな。


「でもどうする? 一本道だぜ、他の道探すのか?」

「そうだな。誰かが囮になって、魔物を離れた所に引っ張って行く、でどうだ?」

「結局対象から離れるんじゃん……」


 俺にツッコまれて、髭の男が顔をしかめる。


「場合によるんだよ。迂回ルートがあるなら、そっちを選んでたわ!」


 はいはい。と白い目で見ながら言い訳っぽいセリフを聞き流す。


「護衛素人がグチャグチャ言うんじゃないよ! ババル、等級は坊やが上だけど、護衛経験がないならアンタがリーダーだ! アンタが決めなよ」

「俺はそれで良いよ?」

「マスターが宜しいのなら、私から言う事はありません」


 リーダー役を髭の男、ババルに押し付ける。この2人、等級はナイトの白だっけ? まあ、俺は上位者だなんて威張る気はねえし、率先してリーダーをやろうなんてヤル気もない。相手が買って出てくれるなら、ヨロシクドーゾってなもんだ。


「よし、じゃあ囮役は坊主だ」

「構わないけど1つ良い?」

「何だ、ババルの決定に文句でもあんのかぃ!?」


 露出過多なお姉さんがむっちゃ凄んで来た。別に怖くはないけど、おっぱいが零れ落ちそうでドキドキします。あと、パンドラが銃に手をかける素振りを見せたので更にドキドキします。


「いや、異論はねえけど、囮役って俺本人じゃなくて良い?」

「ぁあ? 本人じゃないなら誰が行くんだよ!? そのメイドか?」

「いや、そーじゃなくて」


 言いながら、馬車から少し離れる。


「お前等、ちょっと出て来い」


 俺を囲むように地面から3つの炎が噴き上がり、即座に炎が形を崩して魔獣となる。

 炎のような赤毛の狼。蝙蝠のような羽の生えた巨大なトカゲ。空中に浮かぶ奇妙な赤い仮面。


「な、ななななっ、なんだそいつ等ッ!?」

「ちょっ、危なっ、危ないから近付かないでよッ!!?」

「ま、まままま魔物!? ……じゃない? 魔獣っ!?」


 御者の兄ちゃんまで一緒になって…。3人揃って騒ぐなよ…そんな大声出すと、魔物がコッチに気付いて襲って来るんじゃないのか? と俺が不安に思っていたら、案の定ズシンッと小さな振動と共に岩陰からノソリと黒いモヤを纏う巨大な影が現れた。


「お、アーマージャイアントじゃん。懐かしいなあ」


 松ぼっくりみたいな胴体に、人間の体程もある巨大な棍棒。ソグラスの道中でコイツにエンカウントしたのも随分昔に感じるな。

 と呑気に感想を漏らしていると、赤い狼がトテトテ寄って来て鼻先を甘えるように擦りつけて来る。

 おっと、そうだった、お前等呼び出してたんだっけ。

 ワンコのような狼の頭を撫でて向き直る。


「悪いな、呼び出して」


 俺がすまなそうに言うと、仮面が前に出て、跪いたのか高度が下がる。


「主様がお気になさる事はありません。我等は主様の剣であり盾。牙であり爪。主様の望むままにお使い下されば、それこそが我等の喜びに御座います」


 そして仮面を傾けてお辞儀をする。

 本当に、1番意味不明な存在の癖に礼儀正しい…。この仮面が魔獣3兄弟の長男でリーダーかな。

 アーマージャイアントがドスンドスン音を立てて近付いて来る。その後ろには大小様々な魔物が続く。

 俺の呼び出した魔獣にビビっていた髭と露出狂もすぐに立ち直り、それぞれに武器を構えたり魔法を詠唱し始めていた。

 敵の数が数なので、髭が御者に「1度馬車を捨ててに“積み荷”と一緒に逃げる準備しておけ!」と指示をだしている。

 さて、俺等もいい加減戦闘準備しないとな。


「で、お前達に頼みがあって―――」

「主様、少々失礼します」

「ん? うん、なんだ?」


 すると、仮面はフヨフヨと空中を泳いで馬車の前に立つ。そして―――、突然現れた紅の巨大な列車のような腕が、魔物の群れを轢き殺した(・・・・・)!?


「おい愚物共! 主様が話をする時に無用な音を立てるな、殺すぞ」


 もう殺してますけど。魔物1匹も残ってないよ? 何がそんなに逆鱗的な何かに触れてしまったのよ…。

 ほらあっ!! 髭と露出狂の2人が唖然としてるし、御者が…あ、気絶した!?


「主様、失礼いたしました。お話をお続け下さい」

「え? えー、あー、うん。用事……終わっちゃった…」

「はい? そ、それはどう言う事でしょうか!? 我等は主様に必要とされていないと言う事でしょうか!?」


 仮面の言葉に、ワンコとトカゲが雷を受けたように体を跳ねさせ、そしてブルブルと震えながら「やだ、やだよー」「捨てないで、捨てないで」とでも言いたげな目で体を擦り寄せて来る。

 そんな親に捨てられそうな子供みたいにならんでも…。


「違うよ。お前達が出来る奴だったってだけだ。これからも頼りにしてるぞ」


 言いながらワンコとトカゲを撫でてやると、安心したように俺の手に甘えてくる。なんて現金な子達なの…。まあ、可愛いけど。


「安心しました。我等は主様に必要とされる事こそが存在意義ですので、主様に捨てられようものなら、どうすれば良いかと……」


 なんか、仮面の奴まで泣きそうな雰囲気を出しているので、2匹にしたように仮面のオデコの辺りを撫でてやる。

 ……やってみて思ったけど、コレってむしろ嫌がられるんじゃないの? ワンコとトカゲはなんつうか、ペット意識的な物が大きいっぽいからこういう扱いを受け入れてるけど。

 調子に乗って全員同じ扱いをしてしまったのは失敗だったかなぁ。と思ったら、


「ありがとうございます! 主様のお役に立てるよう、一層の精進を致します!!」


 むしろ、すっげぇヤル気だしたっ!?

 同じ扱いで正解だったよ!?

 3匹との付き合い方に頭を傾げていると、パーカーを引っ張られる。引かれた先に目を向けると、パンドラがいつも通りの無表情で立っていた。そして、頭を少し下げて俺に向けて来る。

 何だ? と思ったが、これ…前も有った気がする。


「お前もかよ…」

「はい」


 若干精神的な疲労を感じながら、パンドラの頭を撫でてやった。


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