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3-29 戦いを終えて

 チンパンの頭の在った辺りから2つの魔晶石が落ちて来る。

 残っていた、片手で足りる程度の数になっていた影の魔物も勝手に魔素を撒き散らして消える。

 ………今度こそ、本当に終わったかな。

 警戒を解かずに、チンパンと棒人間の核であった魔晶石を拾う。


「ふぃ~…」


 安堵のため息が漏れる。

 どうやら、本当に終わったようだ。

 ヴァーミリオンを鞘に戻し、刻印を解除して非戦闘状態に体を戻す。

 ………今回は意識飛ばないな? いつも大きな戦いの後は、刻印解くや否やダメージと体への負担が直撃して気絶しちまうのに。

 まあ、今回は小ダメージはいっぱい食らったけど、目に見えて痛いダメージは左腕に受けた1つだけだしな。でも、負担の方はどうだろう? 結構な大暴れをしたのに、それ程体が疲れを感じてない。

 俺が成長したって事なのか、それとも着々と≪赤≫が体に馴染んで来ているのか。なんにしても、気絶しないってのは良い事だ。それだけ体に無理させずに済んでるって事だからな。

 おっと、白雪に「もう終わったぞ」と思念を送っておく。ついでに、「パンドラに無理させないようにゆっくり帰って来い」と付け足す。言葉を話せない白雪が、どれくらい俺の言葉を周りに伝えてくれるかは疑問だが、まあ信じるしかない。


 辺りに散らばる腐臭を撒き散らす動物の死骸。

 残しておいても、腐っていて食料にはならないし、異臭騒ぎの元になる。それに、魔物に散々使われたコイツ等を、このままってのも…な。

 埋葬までは出来ないけど、火葬くらいしてやっても罰は当たんねえだろ。

 今まで死んでまで魔物に扱き使われて大変だっただろ? もうお前達の眠りを邪魔しないから、ユックリ眠ってくれ。

 祈る様に動物達の死体に火を落とす。


「お休み」


 1度だけ手を合わせ、燃え尽きるのを見守る。

 

「アーク!」


 動物の死体が程良く骨を残して焼けた頃、後ろから声をかけられる。

 後ろから声が近付いて来て、【熱感知】の射程範囲に入った所で振り返ったら、そこから一気に加速して何か柔らかいものが突っ込んで来た。

 いや、もう正直、声で予想付いてたけど。


「アーク、アーク!! 良かった、生きてた!! こんなにお姉ちゃんを心配させて、なんていけない子なのっ!!」


 ボフッとクッションみたいな柔らかくて暖かい、リアナさんの胸に顔が埋まる。

 ………嬉しいは嬉しいんだが…ロイド君の姉だと思うと、どうも罪悪感が先に立って、そういう感情が湧いて来ないんだよなあ…。


「でも、良かった。死んじゃったんじゃないかと思って、どれだけ心配した事か!」


 分かったから、さっさと解放して欲しい。主に酸素供給の意味で。

 力付くで引き剥がすのは簡単だけど、変なとこ触りかねないから出来れば簡便して欲しいんだが……。と考えていると、トカゲがパタパタと飛んで来てリアナさんの服の裾をパクッと咥えて引っ張る。


「きゃっ!? な、なに? 魔獣?」


 あっ、驚いて離れてくれた。グッジョブだトカゲ!

 はぁー空気ウマー。


「大丈夫、俺の仲間だから」


 リアナさんの服を離して俺の隣に着地する。「撫でて撫でて!」と催促するような目で見て来るので、赤い鱗で覆われた冷たい肌を軽く撫でてやると、目を細めて嬉しそうに鳴く。


「…ほ、本当に大丈夫なの?」

「うん。撫でてみる?」

「え!? う、ううん、やめておくわ」


 可愛いのに…。

 断られて若干肩を落とすトカゲを撫でて慰めてやる。


「リアナ!」


 ルリが走って来て、リアナさんの背中に抱き付くと、その後をユッタリと騒ぎの疲れも感じさせずに領主様が歩いて来る。


「領主様、先程は緊急時だったので色々失礼しました」


 目上に対しての無礼は一応謝っておかないとな。

 すると、一瞬呆気にとられた顔をして、クックックッと肩を震わせて笑い始めた。


「なんか、可笑しかったですか?」


 相手が相手なだけに、何か不快に感じられた事があるとマズイ。主にリアナさん関連の事が。


「いやいや、すまない。戦っている時の怪物のような強さと、今の姿がどうにも結びつかなくてね」

「はぁ…?」


 別に怒っている訳ではないようなので安心したが、そこまでギャップあるか? 自分で意識した事ないから分かんね。

 あ、でもリアナさんもルリも頷いてる。

 一頻(ひとしき)り笑い終わると、コホンッと顔を正す。


「アーク君、だったね? まずは我が領地であるカスラナを護ってくれた事に礼を言う」

「いえ、それは別に。たまたま居合わせたってだけなんで」


 ……事件が起こったのはたまたまだが、その事件が実際に起こるまで町に滞在したのは俺の意思だ。リアナさんの事もあるが、ずっともう1つの事が頭にあった。


――― この騒ぎも、あの連中が裏で糸を引いているのではないか?


 まあ、全然連中の仲間らしき姿が見えないし、何がしたいかも良く分かんないから、今回の件は連中とは関係ない……とは思う。多分。

 でも、俺を潰しに来たって可能性も有り得るか? いや、だったら、こんなまどろっこしい手を使わずに、あのピンク髪クラスの奴が出てくれば良いだけじゃねえか?

 うーん。ダメだ、こう言う事考えるのはパンドラにでもやらせよう。頭脳労働は俺の仕事じゃねえや。


「難しい顔をどうした?」

「いえ、なんでもないです。ちょっと考え事を……」


 と、遠くから土煙を上げながら何かが走って来る。

 なんだ? もしかして、連中の―――!?


「マスター!」


 お前かよっ!?

 人が居る手前、なんとか腹の中だけでツッコミを抑える。

 ワンコの背に乗ったメイドと、その横を追走する空飛ぶ謎の仮面。絵面が意味不明過ぎて、状況が分からない人間は恐怖しそうだ。


「な、なんだあの魔獣は!?」

「お父様、リアナ逃げましょう!」

「は、はい! ほら、アークも早く!!」


 あ、やっぱりそうなりますよね?

 俺と一緒に居たパンドラが背に乗ってるっていっても、そりゃあの見た目とサイズの狼が突っ込んで来たら、そりゃ怖い。

 っつか、体に負担掛けるからゆっくり帰って来いって言っておいたのに…。俺の事が心配で急いで追いかけて来てたな! 後で叱っておかねえと…。


「大丈夫。あの赤毛の狼と横飛んでる仮面も、コイツと同じ俺の仲間なんで」


 と、俺の横で大人しくしていたトカゲを撫でる。


「ええ!? アーク君……君は、あれ程の炎術師でありながら、魔獣使いでもあるのか…!?」

「……魔獣使いでもないし、炎術師でもないですよ?」


 炎術師ってのは、炎系の魔法使いの呼び名だ。スキルで炎を出してる俺は、この名前に該当しない。


「……アンタ…いったい何者なの……?」


 と、ルリに訊かれた。

 何故か前のような敵意が無くなっている。それどころか、若干頬が赤くて、俺を見る目が潤んでいるような……まあ、それは気のせいだな、うん。


「前も言った。渡り鳥のアークだよ」


 改めて名乗ったところで、パンドラ達が到着。

 ワンコがスピードを緩めながら近付いて来ると、俺のお腹の辺りに甘えるように鼻先を擦りつけて来る。


「はいはい、ご苦労さん。運び役ありがとうな」


 甘えん坊っぷりに苦笑しながら、そのモフモフの頭を撫でてやると、地面の砂が舞い上がる程尻尾を振る。どんだけ嬉しがってんだお前は。

 その間に、その背からヒョイッと降りて来て俺の体をチェックするパンドラ。


「マスター、ご無事ですか?」

「おう、心配ねえ。って、腕痛ぇよ!」

「やはりお怪我を」

「違う! お前が変な方向に曲げようとしたからだ!?」


 掴まれた腕を振りほどく。


「主様、御身がご無事でなによりでございます」


 ペコリと仮面が傾く。それ、お辞儀なんだろうけど、若干分かり辛いな。と言うか、そもそもそんな畏まった事しないで良いんだが…。


「ああ、そっちは大丈夫だったか?」

「はっ。1つ問題が」

「何かあったか?」


 悪い報告かと、変に身構えて心臓が跳ねる。


「いえ、何かあったのではなく、主様の供周りの侍女様が、自分の体を気にせずに主様の元へと急ぐようにと」

「ああ、うん、やっぱりね」


 到着が早いからそうだと思ってたよ。


「申し訳ありません」

「貴方が謝る必要はありません。マスター、彼等を急がせたのは私ですので、お叱りは私に」


 始めからそのつもりだバーロー。お前はもうちょっと自分の体を大事にしやがれ!! ダメージ受けて取り返し付かないって意味じゃ、パンドラの方が護る優先度は高い。


「ったく…まあ、ともかく今回も無事に乗り切れて良かった―――」


 と、もう1人忘れていた事を思い出す。

 すると、その思考が伝わったのか、パンドラのエプロンドレスのポケットから、羽を生やした光る球が出てきて、俺の顔の周りを粒子のように光を撒きながら飛び回る。


「お前も無事か、白雪?」


 大丈夫! と元気よく思念が返って来る。

 よしよし、全員無事で何より。


「妖精?」「妖精よね?」「妖精だな?」


「あっ」


 後ろには、白雪を見て唖然としている領主様親子とリアナさん。そして、壊れた防壁から顔を覗かせている多数の住人達。

 その全員の目が、小さな光る球に注がれている。


「「「「「「ああああああああああああ!」」」」」」


 住人達が、トンデモないもの見てしまったと声を上げ、俺が見られた事に声を上げ、俺の声に驚いて領主様達が声を上げる。

 

 と言う訳で、見られました。


 騒ぎの張本人だけは、周りの事なんて気にせず、俺の肩で静かに羽を休めていた。



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