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3-27 炎の真価

 間に合ったか?

 敵が俺達を無視してカスラナの方へ向かったと聞いた瞬間、トカゲの背に乗って全速力で追い掛けて来たのだが…。

 着いてみれば、門と防壁の一部がゴッソリ無くなって、見張り台が倒れている。目に見える所に死人は見えなかったけど、そこら中に軽傷を負った人間が居た。

 これを間に合ったと言って良いのかは、個人的には疑問なところだが、少なくてもソグラスのような手遅れなレベルじゃない。

 全身に炎と刻印を纏い、目の前の巨大な死体の塊と向かい合う。

 俺の後ろをペタペタと四足歩行でトカゲが着いて来る。


「お前は下がってろ、俺が敵を討ち漏らしたら絶対に町の中に入れるな」


 お任せを、とでも言うようにペコリと頭を下げて翼を広げて飛び立つと、防壁の残骸の上で見張り番のように待機する。


「このデカブツは俺が()る」


 歪な死体パズルで作られた巨大チンパンジー。

 その影から、蟻のように様々な形の魔物が這い出て来る。

 “死体入り”と“魔石無し”、2つの統率者の能力の良い所どりって感じかな?

 まあ、どんなに数揃えようが―――、


「無駄だけどなっ!!!」


 【レッドペイン】発動。斬撃の射程を30mくらいにして、横一閃!

 町を包囲するように動いていた雑魚共が真っ二つになる。

 …? チンパンの足も射程範囲内だったのに斬れてない!?

 取り巻きを失った巨体が動く、一足飛びで俺との間の20m以上の距離を詰め、その巨大で異様に長い腕を振り被る。

 その図体でそのスピードは大したもんだ。もしかしたら、本気出した時の皇帝並みのスピードかもしれないな。

 まあ、でも、刻印出してる状態の俺なら問題なく対応出来る!

 敵の拳の振りに合わせて、その拳を両断するつもりでヴァーミリオンを振る。


「だぁあああああ、らぁッ!!!」


 ガチンっと鉄をぶつけたような衝撃と共に、お互いの攻撃の余波が周囲に広がる。

 くっそ、硬え! ヴァーミリオンの刃が通らねえ!

 チンパンが手を引き、代わりに左拳を出して来る。

 連撃。


「上等だッ!!」


 迫る拳に合わせて剣を振る―――ように見せかけて横に回避し、拳が地面に突き刺さった途端に、その上に飛び乗り頭目掛けて駆け上がる。

 斬れないなら斬れないなりの戦い方がある。

 途中、踏みつけた何かの死体に足を掴まれたが、【火炎装衣】を纏っている俺に触るなんて自殺行為以外の何物でもない。俺のような【炎熱無効】を能力として保有していない限り、致命傷…いや、致命焼? は避けられない。だが、まあ相手は死体だ。そもそも死んでいるんだから致命もへったくれもないか。

 そもそも、掴んでいるって言っても、実際に相手が触れているのは俺の脚じゃなくて、俺を護っている炎の装甲だし。足を取られて転ぶような心配もないので全部無視。

 肩まで登ったところで飛び上がり、巨大な体の頭上を取る。

 ヴァーミリオンの熱量を解放。

 頭の上からヒートブラストを撃ち降ろして、体を丸ごと消し飛ばす! 炎熱の耐性が多少あろうが、防御力と耐久力が高かろうと、3000度近い熱量の放射に呑まれれば関係無い。

 さて、そんじゃあ、


「消し飛びやが―――!!」


 肩の死体がウゾウゾと動き、形を組み替える。

 一瞬にして肩から死体で作られた腕が生え、俺の迎撃に向かって来る。


「チッ」


 腕の動きの方が、放射を始めるよりも早い。横から思いっきり殴り飛ばされる。

 撃ち出されたように地面に引っ張られる…が、体を捻って難なく着地。

 ………多少は、まあ、痛いな。【火炎装衣】纏ってても、ダメージが貫通する事はするか。

 スキル構成が変動した事により、ヴァーミリオンの熱量の貯蔵が俺の戦術の真ん中に来た。どの程度を攻撃に回して、どの程度を防御に使うか。その割り振りが今は探り探りなので、とりあえず攻撃6:防御4くらいで戦っている。コイツの打撃は、4の【火炎装衣】じゃ防ぎきれないか。

 どうする? 防御にもうちょい熱を割くか?

 いや、このくらいのダメージならまだ許容範囲だ。このまま続行で行こう。

 それに、さっきのヒートブラストへの反応の良さ……。俺の炎熱解放の予備動作とほぼ同時に攻撃を潰しに来てた。

 やっぱり、コイツ……と言うか、コイツの元になっているチンパンジーは、俺の手の内を知っていると考えて間違いないか。ヒートブラストは自分の致命打になる事を理解しているから、何が何でも撃つ前に潰すつもりなのだろう。

 コッチの必殺の一撃は警戒されてるか…。下手に無駄打ちしてヴァーミリオンの貯蔵を減らすと自分の首を絞める事になるし、確実に叩き込めるタイミングまでは使わない方が良いな。

 とか考えているうちに、またチンパンの影の中からワラワラ魔物が湧いて出て来てるし…。

 魔物を作成してるのか、それとも呼び出してるのかは分からないが、どっちにしろ数の底が見えねえな。少なくても、さっきまで居た20000体は引っ張り出せると思った方が良いか。

 とにかく、下手に広がられる前に潰しておいた方が良いな。コッチは後ろにカスラナを背負ってるし。トカゲが最終防衛ラインをしてくれてるけど、俺が潰せるものは俺がやっておくべきだろう。

 【魔炎】で湧き出て来た魔物を焼く。

 ……って、焼けてないな? 生焼けと言える程にも焼けてない。ちょっと炙った程度だ。

 おい、ちょっと待て! 湧き出て来てるの全部炎熱耐性を持ってるのか!? 嫌がらせにしたって程があるだろ!? 俺にしても、火蜥蜴(サラマンダー)のトカゲにしたって、炎熱は基本攻撃だ。戦えなくなるって程じゃないが、戦闘力は半減するし、どうしても立ち合い辛い。


「チッ……勘弁しろよ…」


 この場に、複数の属性を連射出来るパンドラが居れば。あるいは、高速移動で敵を撹乱させるワンコが居れば。広範囲高威力の物理攻撃の出来る仮面の奴が居れば。

 パンドラはワンコに背負って貰ってコッチに向かっている筈だが、あまりスピードを出すと怪我した体に負担がかかる。だから、ユックリと1時間くらいかけて戻って来るだろうし、仮面の奴はその護衛に付けた。もし、このチンパンがパンドラを狙っても、アイツが護衛として張り付いていてくれれば、俺が駆けつけるまで時間を稼いでくれる筈…と思ったのだが…。

 ……ヤメヤメ、ここに居ない奴に頼っても仕方ねえ。


 正直、俺は耐性持ちが現れる度に、内心ウンザリしているのだ。

 物理で倒せば良い。耐えられない熱量を叩き込めば良い。そうやって切り抜けては居るけど、やっぱり俺の根っ子は“炎使い”で、その1番の売りである炎を潰されて気分は良くない。

 何か敵の耐性をぶち抜いて焼けないかと考えを巡らせる。

 コッチの炎を封じたと高を括っているあのチンパンに、炎で一泡吹かせたい! その怒りにも似た思いが、思いもよらない思い付きに思考を導いてくれた。

 魔素。空気中に存在する、魔物の元であり、魔法の元。そして、俺にとっては炎を発火させる―――あれ?

 ふと、思った。

 今まで、空気中の魔素と、魔物を形作る魔素は、同じであるが別の物と認識していた。でも、これ、一緒だよな?

 当たり前の事を理解した途端、目の前に存在する物が全く別の物に見えた。

 そうだよ。魔素が全て同じ物なら、魔素の塊である魔物は俺にとって


――― ガソリンの入ったポリタンクも同然だ


 だから試す。

 空気中の魔素ではなく、魔物を構成している魔素に直接発火させる。

 湿気った木に火を点けるような、微妙な点きの悪さ。多分、この湿気が魔物の燃やされまいとする抵抗力。でも、この程度なら問題ない。

 魔物の体が炎に包まれる。が、炎熱に耐性を持つ魔物は気にせず行動を続け―――られなかった。

 炎に包まれて1秒後には体を保てなくなって体が四散する。

 ヤバい…これ、マジでヤバいぞ!


「は、はっはっはははははは!!!」


 自分でも良く分からず笑ってしまった。

 次々に湧き出てくる魔物に片端から火を点ける。魔物は「無駄な事を」と言うように炎を無視しようとするが、次の瞬間には体が四散する。


 そうか、【魔炎】はこう言う使い方も“アリ”なのか!!

 俺にとって魔物はガソリンの入ったポリタンクも同然だ。

 ポリタンクが多少耐熱素材で作られていようが関係無い。だって、俺は中身のガソリンに直接火を落とす事が出来るのだから。

 ポリタンクを一々焼く必要なんてない。ようは、中身のガソリンを燃焼して消費させれば形を維持できなくなるって事か!!


 ヤバい、【魔炎】の力を完全に見誤っていた。

 この魔素を燃やすスキルは、人や動物相手ならば、炎熱魔法とさほど力は変わらない。

 しかし、魔物との戦いでは全く違う。なんたって、このスキルは、


――― 完全なる魔物殺しだ!



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