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3-24 ある魔物達の話

 魔物の話をしよう。

 魔物の生まれ方は1つである。空気中の魔素が固まり魔石となり、それを核として魔素が肉体へと構成され、魔物が誕生する。

 世に人から「厄災」「滅びの種」と称されるクイーン級の魔物。圧倒的な力で全ての命を蹂躙する存在であるこの魔物も、当然例に漏れず魔素がその始まりである。ただ、普通の魔物と違うのは、通常より濃い魔素が固まって魔石ではなく魔晶石が核となった。それだけの違いだ。

 ただ、何事にも例外は存在するもので、クイーン級が生まれる可能性はもう1つある。

 それが、


――― 魔物同士の共食いである。


 相手を構成する魔素と、核である魔石を食らう事で、その魔物の力をそのまま自分の中に取り込む。だが、1匹2匹食べた所で変化はない。途方も無い数の食い合いの果て、魔石が魔晶石へと変じた瞬間、その魔物はクイーン級の魔物として新たな生を受ける。

 ただ、これは先に言った通り“例外”である。いや、例外等ではなくこれは異常(イレギュラー)と言っても良い。


 その異常がカスラナ近くの大森林の中で起こったのは、10日近く前の話。

 事の始まりは、大森林西側に位置するソグラスで大量のクイーン級の魔物が死んだ事だ。

 クイーン級が死んで、その濃い魔素が空気中に舞った。本来ならばそのまま拡散して消える筈だったが、その場には大量の濃い魔素が滞留していた為、その濃度を保ったまま大きな魔素溜まりとなって流された。

 大森林の周囲は、地形の関係上魔素は最終的に大森林に集まる様になっている。

 クイーン級の魔物を形作っていた魔素が、この大森林に辿り着くのにさほど時間は掛からなかった。

 そして、森の中に居た魔物に起こる変化。

 多量の濃い魔素を取り込んで力を増した魔物達は歓喜した。自分達のこの力があれば、もはや恐れる者は無い、と。

 だが、一部の魔物達は全く別の感情を抱いていた。

 それは、恐怖。

 自分達をこれ程容易く進化させる濃い魔素で形作られた魔物が、何者かによって狩られたのだ。しかも、1体や2体ではなく大量に。

 この魔素が流れて来た近さを考えれば、その“討伐者”がこの森を通る可能性は高い。だから、その魔物達は急ぎ更なる力を求めた。

 その結果始まったのが、大森林の中で昼夜を問わずの食い合いであった。

 バトルロワイヤルの中で唯一のルールは弱肉強食である。それは魔物同士でも変わらない。いや、魔物同士だからこそ、それこそが絶対のルールだったとも言える。

 弱者を踏みにじり、文字通りその肉と心臓を食らう。更なる強者を求めて彷徨い、強い者に遭えば自分が喰われ、弱い者に遭えば自分が喰う。

 そして、その食い合いの最後に残ったのが“ネクロマンサー”と呼ばれたチンパンジーのようなシルエットのクイーン級の魔物であった。

 ネクロマンサーには1つの能力があった。動物の死体を魔石の代わりにして魔物を生み出す事が出来るのである。魔石の魔物と違って、首が飛んでも心臓を貫かれても、死体が有る程度の大きさを保っていれば死なないが、定期的に魔素を注入しなければならず、魔法を食らうと死体の中の魔素が離散すると言う決定的な弱点もあった。

 だが、数さえ揃えてしまえば敵はない。いずれくる“討伐者”との戦いに備えて、着々と森の中の動物を殺して自分の兵隊にしていった。

 ネクロマンサーの前に、影の指揮者(シャドウ・コンダクター)が現れたのはこの頃だ。

 影の指揮者はネクロマンサーとは違い、生まれた瞬間からの純正クイーン級だった。その生まれた原因が、ネクロマンサー達を進化させた濃い魔素である事は明らかであり、ネクロマンサーも自分達への影響を考えれば、他にも同じような存在が生まれていても可笑しくないと納得する。

 影の指揮者の能力は、影に魔素を注ぎ込み魔物として生み落す物だった。陽の在る時間は活動出来ず、動かせるのは夕刻からと言う弱点は有るが、それでも1日に無条件で3000の兵隊を生み出す事の出来るその能力は正にクイーン級に相応しい力だった。

 そして何よりその能力は、


――― ネクロマンサーの上位互換。


 だが、劣等感はない。

 魔物同士であるが故に、ライバル心もない。むしろ、同じ魔素を受けて進化した者と、生まれた者であった為に、人間で言う兄弟愛のような物さえ感じていた。

 2体のクイーン級はその力を遺憾なく発揮し、森の中に踏み行った人間を自身の兵隊達に殺させた。あまりにも容易く屠れる為に、時には競い合うように殺し、時には協力して殺し、時には互いの統率力を披露する為に殺した。

 ネクロマンサーと影の指揮者の2体が出会ってからは、森に踏み行った人間は皆殺しだった。1人たりとも例外はない。故に、その話が周囲の町に伝わる事はなく、森の中に潜む蹂躙者達の存在に気付く者はいなかった。

 森の中で潜んでいる必要性を感じなくなり、そろそろ近くの人間の集落に手をかけるかと2体が思い始めた頃。


 そんな時に現れたのが、あの炎使いだ。


 森の中の進化しなかった魔物ではまったく相手にならず、影の指揮者の兵隊も何体かやられていた。

 今まで殺して来た人間達とは、力の桁が違う。

 ネクロマンサーも妖精を追いかけた時に偶然、手持ちの兵士がエンカウントしたが、まともな情報も取れずに返り討ちにあった。

 ここでネクロマンサーと影の指揮者の間には、明らかな対応の差が生まれた。

 ネクロマンサーは相手の情報を出来るだけ探り、そして慎重に戦うべきだと主張した。対して、影の指揮者は自分達の圧倒的な物量で押し潰せば良いと主張した。

 この対応の差は、2体の生まれの差と言っても過言ではない。ネクロマンサーは常に“討伐者”の影に怯え、それを倒す術を模索していた。故に、自分の兵隊を簡単に屠る相手が現れた時に最初に頭に浮かんだのは“討伐者”の存在だった。

 影の指揮者は生まれた瞬間からクイーン級であり、圧倒的強者である。自分が負ける姿なんて想像した事もないし、そんな事は絶対に有り得ないと信じ切っていた。だから、自分がカスラナに放った1000の魔物がやられても「だったら更なる数で叩き潰せば問題ない」と、即座に兵隊の用意を始めた。次の日の夜に、即座に件の炎使いが討伐に現れた時は流石に肝冷やしたが、暫く姿を隠して数を揃えれば問題ないと計画は続行した。

 ネクロマンサーは下手な攻めはせず、まずは相手の情報を取りたいと考えた。しかし、自分には影の指揮者のように大量に兵隊を用意する事は出来ない。だから、自分の手勢が痛くない程度の数で町へ仕掛けた。結果だけ言えば、放った兵隊の半分以上は無事に戻って来て、炎使いの情報も取れて満足のいく物だった。

 ただ、情報を取ってみて分かった事がある。恐らくあの炎使いが“討伐者”だ。そして、能力値が高過ぎて自分の兵力では負けは確定。影の指揮者の戦力を合わせても、勝てるかどうかは正直苦しいと思えた。

 となれば、更なる力を求めるしかない。


――― 力を得る方法は1つだ


 ネクロマンサーは、影の指揮者を喰う事を決めた。

 だが、ただ喰いに行っても、自分の上位能力を持つ相手に返り討ちに遭うのは目に見えている。

 その瞬間を待つのだ。

 近く、あの炎使いと影の指揮者の軍勢がぶつかる。

 影の指揮者が勝てば良し。だが、負けるような事になるのならば、その瞬間を狙う。


 そして、ネクロマンサーの思い描いた通りの結末は訪れ、影の指揮者は炎使いによって追い詰められていた。


――― お前の負けは無駄にはせんよ


 その無防備な影の指揮者の頭に、ネクロマンサーは飛びかかった―――…。


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