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3-23 渡された力

 ワンコが走り出す。いや、違う、走ってない!?

 ワンコの体が炎となって辺りに飛び散り、次の瞬間魔物の群れのど真ん中に小さな火が灯り、すぐさま爆発! その中からワンコが飛びだし、近くに居た魔物の頭をガブッと咥えて力任せに引き千切りペッと頭を地面に捨てる。別の魔物が襲いかかった時にはすでに炎となってその場から消え、また別の場所で爆炎と共に現れる。

 ……何今の? 簡易の転移能力だよね?

 続いてトカゲ。

 羽を大きく広げてその場にフワリと浮き上がり、体を反らせて大きく息を吸う。すると、フグのようにお腹がプクッと膨れ上がり、その溜めた息を吐き出す。真っ赤な吐息が魔物の群れを呑み込んだ。

 炎熱の吐息(ブレス)!?

 あのトカゲ、火蜥蜴(サラマンダー)だったのっ!?

 しかも、火を噴き出しながら魔物の頭上を飛び回るもんだから被害がトンデモねえ…。

 そして1番存在が謎だった赤い仮面。

 ワンコとトカゲの攻撃を逃れて、弱っているパンドラを狙って魔物達が走る。1匹ではない、2匹、3匹、もっと増える。背後から、陰から、連中御得意の連携攻撃。

 パンドラの前に浮いている正体不明の仮面を警戒しているのか、若干遠回りに走っているが、その動きは確実に仕留める為の油断のない物だ。

 どうする? 俺も手を出した方が良いか?

 と迷って居たら……。


「下郎めっ! 我等が主に牙を剥こうとは、己が分を知れっ!!!!!」


 先程までの穏やかな口調ではない。親の敵でも目の前にしたかのような激しい声。

 そして、何も無い空間からニョキッと腕が生えて来た。

 ただの腕ではない、真っ赤で、それ以上に――――デカイ!!

 全長10mくらいありそうな、列車の車両のようなぶっとい巨大な腕が、裏拳をくり出す。

 草でも狩るように、近付いて来ていた魔物を残らずグシャリと、圧倒的な質量とパワーで叩き潰す。どんなに速かろうと、策を弄そうと、連携しようと関係無い。全部まとめて殴り倒す! とでも言うような力強い一撃。


 と言うのが、【熱感知】で俺に見えた3匹の戦いである。


 ………何あの子達? 無茶苦茶強いんですけど…。

 この場に居る魔物は、夜の強化で少なく見積もってもナイト級ばかり、中にはルーク級も混じっているかもしれない。だと言うのに、あの3匹は虫でも相手にするように魔物を屠って行く。


「こりゃ、呼び主として俺も頑張らないとな…」


 魔物達がザワザワとしているのが分かる。言葉を発しなくても、さっきまでの迷い無い動きが出来なくなっている事から、コイツ等に指示を出している統率者が予期せず現れたウチの3匹の猛攻に戸惑っているのが丸分かりだ。

 そんじゃ、敵さんが混乱している間に、


「悪いけど、ちょっとばかりコッチの新しい能力(スキル)の試し台になってくれ」


 俺の言葉が理解出来たのか、どうかは分からないが、それでも俺を今すぐに倒さないとマズイってのはコイツ等にも理解出来たらしい。

 一斉に動き出して襲いかかって来る。

 さて、そんじゃヴァーミリオン、お前の力を見せて貰うぜ!

 敵が射程に入る前に、剣を無造作に横に振る。当たり前だが敵には当たらない、普通ならな。

 俺の振ったラインをなぞる様に空間に赤い線が刻まれる。


「裂けろ」


 魔物達は気にせず突っ込んでこようとする、だがそれ以上足を動かす事は出来ない。なぜなら、すでに上半身と下半身は離れているから。

 赤いラインの延長線に居た魔物の上半身が魔素を撒き散らしながら地面に落下し、下半身がそれを追うように倒れて同時に消滅する。

 今ので20体くらいは死んだか。

 俺の今の攻撃を警戒して魔物達が俺から離れる。さっきまでなら、犠牲覚悟で突っ込んでダメージを与えに来たのに。やっぱり司令塔が混乱してるな。

 ま、だったら、今のうちにそのボス格を引き摺り出そうか!!

 もう一度射程外の敵に剣を振る。空間に走る赤いライン。俺を遠巻きに囲んでいた敵の体が真っ二つになる。

 【レッドペイン】、ヴァーミリオンに付与されていたスキルの1つ。溜めた熱量を消費する事で、斬撃の射程・威力を増加させる、【炎熱吸収】からの派生スキル。このスキルを使えば、実質どこまでも剣のリーチを伸ばす出来る。まあ、ストック出来る熱量に上限があるから、無限にって訳にはいかないけど。

 ……って、そう言えばストック出来る量も増えてない!? 今までの3倍くらい溜められそうな余裕があるんだけど!? どんだけ今まで手抜いてたのお前っ!?

 心の中でヴァーミリオンに文句を言っている間に魔物が動く。背後から、それと上空から。前から突っ込んでくるのは俺の目を引く為の囮かな? 見えないけど、多分俺の探知を擦り抜ける奴も混じってるな。

 敵が近付く。

 そうそう、こんなタイミングだがヴァーミリオンに付与されていたもう1つのスキル【火炎装衣】について説明を……いや、コレは説明は要らないな。

 だって、このスキルは―――…。


 全方位から襲いかかる敵。逃げ道はない。防御もタイミングを逃してしまっている。

 振るわれる牙! 爪! 角! 背中から放たれる無数の針! 口から吐き出される溶解液!

 俺はその全てを食らった。

 だが、傷は1つもない。いや、そもそも俺は食らってない。

 何故なら……。


「マスター、その炎は……!」


 後ろでパンドラが呟く。驚きと尊敬の混じった、パンドラには珍しい声。

 

――― そう、何故なら全ての攻撃は俺の体から噴き出した炎によって阻まれたから。

 

 炎が物理的な硬度を持って、攻撃を受け止めている―――。

 このスキルについての説明は要らない。何故なら、俺はこのスキルを嫌という程良く知っているからだ。

 だって、この【火炎装衣】ってスキルは、インフェルノデーモンの使っていた防御能力その物だからな!

 俺に近接攻撃をした魔物は、そのまま俺の纏った炎に喰われて魔素に還る。


 【炎熱吸収】を軸に、そこから攻撃能力を派生させて生み出されたのが【レッドペイン】。防御能力を派生させたのが【火炎装衣】。

 このスキル構成にした先代の使い手達は凄いな。こんなバランス良くスキルを派生させた事もだが、こんな凶悪なスキルをバンバン武器に付与させるとか……どんな精神だ…。「僕の考えた最強の武器!」的な物でも作ろうとしたんだろうか?

 

 魔物の群れに向かって歩き出す。

 積極的に攻撃はしない。する必要さえない。近付くだけで敵が燃える。炎熱耐性持ちが向かって来ても、攻撃されてもダメージは食らわないし、俺の間近は1000度くらいに維持しているので、溶岩に浸かっても平気なぐらいの強い耐性を持って居なければ耐えられない。

 近付いて来ない敵は【レッドペイン】でリーチを伸ばしてバッサバッサと容赦なく斬って行く。

 魔物達が向かって来なくなった。遠巻きに俺の周りをグルグルしている。

 近付けば燃やされる。立ち止まれば斬り殺される。その判断での行動なんだろうけど……お前等、俺の根っ子の能力を忘れてないか?

 周囲をグルグルしていた魔物が俺の視界に入り次第、片端から【魔炎】で燃やす。

 

「悪いが全員逃がさねえぜ? テメエ等の親玉の居場所を吐くなら考えても良いけどな」


 更に燃やす。

 敵の囲いが崩れた所で近付いて、その一角の敵を全員燃やし尽くす。

 って、アレ? 今、変な避け方したのが居たな。っつか、さっきからチラチラ視界には入ってたけど……。

 そこでピンと来た。

 見つからないボスって、もしかしてアレか? 「木を隠すなら森の中」って奴。


「魔物を隠すなら魔物の中ってか!!」


 さっきの変な避け方をした魔物を追って走る。それを遮ろうと魔物が群がって来た。3秒前まで俺の攻撃から逃げてた連中が、俺がアイツを追っかけ出した途端に元気になったじゃねえかっ!! まあ、そんなもん時間稼ぎにもならねえけどなっ!!

 俺が対応しなくても、【火炎装衣】の炎が勝手に近付く魔物を焼き殺す。

 そして―――居たっ!!


「待てやッ!!」


 前を逃げる人型の魔物の足元に火を撒いて足止めする。

 ようやく足が止まり、その姿を正面から捕らえる事が出来た。

 その魔物は何と言うか………凄い、何だ……没個性だった。

 シルクハットを被った様な四角い頭にヒョロッとした棒人間のような体。正直、見た目で言えばポーン級の魔物と判断されても仕方ない。でも、こうして目の前に立つと分かる。インフェルノデーモンや巨大なミミズと同じ、クイーン級が放つ強者の威圧感。


「お前が影の指揮者(シャドウ・コンダクター)か?」


 答えは無い。相手に顔は無いが、悔しげに顔を歪めたのが雰囲気で分かった。

 ビンゴ。コイツが魔物の統率者だ!

 よし、コイツを倒せばこの騒ぎも終わりだ。


「ちゃっちゃと倒させて貰う―――ッ!?」


 異変。

 周りに居た魔物が―――影の指揮者に襲いかかった。


「は?」


 棒人間のような細い腕と足が、襲いかかって来た魔物を殴り、蹴り、吹き飛ばす。

 見た目はともかく、単純なパワーとスピードは流石クイーン級…。

 とか、関心してる場合じゃねえ!?

 吹っ飛ばされた魔物が魔素を散らして死体だけを残す。

 “死体入り”!? そう言えば、ここまでの道中でも、大森林に着いてからも“死体入り”とはエンカウントした覚えがない!!

 でも、なんでこのタイミングで出て来た? それも自分達の統率者である影の指揮者を襲う為に。



 俺は…いや、この事件を考察した全員がそもそも勘違いしていたのだ。



 木の上に突然現れた熱源。

 何だ!? と思った時にはすでに手遅れで、木の上から魔物が1体降って来た。

――― そう、影の指揮者の上に。

 俺が事態を理解するより早く、木の上から落ちて来たチンパンジーのような魔物は、力任せに上から圧し掛かり、その棒人間のような体を食らい始めたーーー。



 俺達は勘違いしていた。

 魔物を指揮していた統率者は、始めから2匹居たんだ―――…。


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