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3-20 2人の進撃

 飛びかかる狼型の魔物をスピードを緩めず斬り払い、その後ろから迫っている蛇型の頭を炎で焼いて怯ませて、その隙に頭を斬り飛ばす。

 これで何匹目だっけか?

 ヒートブラストと炎の壁で道を作って、出来るだけ敵との戦闘を避けて進んでいるが、それでも炎熱耐性を持つ敵は炎を突っ切って来るし、炎の壁の途切れた場所からワラワラと道に雪崩れ込んで来るし。

 倒しても倒しても切りがない…。

 それに、


「町出てから何分経った!?」

「72分25秒です」


 ヤバい…! 予想じゃ30分で行けるかと思ったけど、見積もりが甘過ぎた。領主様にも30分で終わらせるとか息巻いちゃったよ……俺、ダサ過ぎる…。っつか、町の方も変に絶望して自棄になってないと良いけど……。

 しかも、予想の倍以上時間かけてるのにまだ距離的には3分の2だ。

 魔物の波を搔き分けてズンズン進んでは居るが、それでも真っ直ぐ全力疾走出来る訳じゃない。パンドラが一緒なのもあるし、取り囲んでいる魔物への注意をしない訳にはいかないし、必然俺達の足は遅くなる。

 くっそ! 急がないとなんねーのに…!!

 こう言う時にパッと移動できる転移魔法………は封じられてるんだっけ…。


「チッ…」

「マスター、焦りは失敗の元です」


 俺の舌打ちに、こんな状況でもいつも通りの丁寧な返しをしてくる。

 コッチがこんなに焦ってんのに、なんでそんな冷静なんだよ…!? と八つ当たりのような感情が湧いてくるが、どう考えてもパンドラの言葉が正しいので、その感情は心の奥に押し込んで置く。


「分かってる!」


 投げやりに返事をする。

 パンドラの言葉を呑み込んでも、俺の焦燥はまったく解消されていない。

 時間、そして敵の数、そしてもう1つ―――…。

 自分の手の中で力を振るい続けている深紅の刀身のオーバーエンド…ヴァーミリオン。別にコイツの調子や機嫌が悪い訳ではない。むしろ、全開の力を振り回して機嫌が良いくらいだ。

 問題なのは“溜め”の話。

 今まではヒートブラストを使う時には周囲を気にして、10有るうちの7か8までしか出してなかった。けど、今回は出し惜しんでる場合じゃないから10全部を注ぎ込んで撃っている…と言うか、その威力じゃないと道が作れない。

 と、ここまでは良い。問題なのは撃った後だ。【レッドエレメント】を使って全速力で熱量を溜めても次を撃つのにそれなりに時間がかかってしまう。そして、そのチャージの時間はヴァーミリオンの能力は攻撃に使えない。そして、それが俺の焦りの正体でもある。

 いつの間にやら、ヴァーミリオンの能力に頼っちまってたな……。【熱感知】に続き、また頼り過ぎで弱体化かよ!?

 大森林入った辺りから、俺弱点がポロポロ出て来てんな…。まあ、元々素人が≪赤≫なんてチートを手にしただけなんだから、どこ(つつ)かれても弱点だらけなのは当たり前か。

 その時、上から何かが降って来る。

 って、この状況で降って来る物なんて―――、


「マスター!」


 パンドラの声に反応して飛び退いた途端、俺の居た場所に巨大な亀のような魔物が派手な爆発音を立てて、体を半分地面にめり込ませながら着地した。


「魔物しかいねえ!!」


 更に続け様に上から巨人型、鰐のような奴、両腕が触手の人型、他にも形容しがたい異形系の魔物が雨のように天から降って来る。

 今日の天気は晴れのち魔物…ってアホかっ!? こんなクソみたいな天気にしてんのはどこのクソッ垂れ野郎だ!!

 空を見上げると、欠けた月に大きな鳥のような影が横切る。それも何匹も何匹も。

 陸上戦は炎が邪魔だと判断して、空から魔物を落とし出しやがった!?


「チッ、ただでさえ進みが遅くて難儀してるっつーのに!」

「マスター、お任せ下さい」

「え?」


 言うや否や右手の銃をホルスターに戻し、空いた手を未だ降って来ている魔物達に向ける。

 その右手の前方に浮かび上がる白い魔法陣。

 通常詠唱? パンドラが普通に魔法を詠唱するの見るの初めてだな。3秒かけて描き終えると、パシュッと空気の抜けるような音と共にその魔法陣が消え、代わりに空に直径30m以上ある巨大な魔法陣が現れた。

――― 広範囲魔法!?


「【ライトニング・フォール】」


 音に驚いて白雪が顔を出そうとするのを、フードに手を突っ込んで制する。

 空の魔法陣から迸る雷光。

 神の怒りとばかりに轟音と光が魔物を焼き撃ちながら舞い踊り、その姿はまるで……殺戮のお祭り騒ぎ。

 ピカッと光れば1人死に。ゴロゴロ鳴ったら2人死ぬ。光と音が止んだなら、生きてる者は何も無し―――ってか。

 俺が心の中で呑気に歌っている間に、降って来た魔物も、降らせていた鳥型の魔物も全滅していた。


「お見事!」

「ありがとうございます」


 再び走り出すと、ピッタリと後ろに追従しながら右手に銃を構え直す。

 パンドラの超魔法を見たお陰で少しだけ気持ちに余裕が戻った。気を紛らわせる意味でもちょっと話振ってみるか。


「広範囲魔法使えたんだな? 魔弾で使えば良いのに」

「いえ。広範囲魔法は魔弾で発動すると、魔弾自体が破損する恐れがあります」

「そうなん?」

「はい。それに、9工程以上の詠唱を必要とする魔法は、魔弾で発動するときに遅延(ラグ)が発生しますので」

「って事は、さっきの広範囲魔法は9工程以上なのか?」

「はい。【ライトニング・フォール】は13工程です」


 おお…工程多いな…。

 関心しつつ、炎を越えて突進してきた牛っぽい魔物を斬り倒す。


「あんな魔法有るならバンバン使えば良いのに…」


 ちょっと文句を言ってしまった。


「通常詠唱ですのでディレイは逃れられません。よって、連続の使用は出来ません」

「ああ、そりゃそうか…。でも、ディレイ食らってる間って、魔弾の扱いはどうなるんだ? やっぱ使えないのか?」


 この答えがYESだった場合、今この瞬間俺等2人大ピンチなんですけど……。


「いえ。ディレイとは詠唱を出来なくなる状態を指します。魔弾はそもそも詠唱をしていませんので問題ありません」


 あー、良かったー…ホッとした。こんな魔物に囲まれてる状態で、パンドラのフォローが消えるとマジでヤバいからな。


「使いどころが有ったら、さっきみたいに広範囲魔法でのフォローも頼む」

「かしこまりました」


 さて、コレで少しはスピードが上がってくれれば良いんだが……。



――― 20分後。


 大森林の近くまで歩を進めたが、正直俺等は万全とは言えない状態になっていた。

 森が近くなった10分くらい前から、魔物の抵抗が目に見えて激しくなった。それに、時刻的にもいい感じに夜が深くなって魔物の能力が強化されて来ている。

 これ以上時間をかけるのはそれこそ命取りになるかも…と、魔物の攻撃が腕にかすった時に心の底から思った。

 魔物の攻撃を捌き切れなくなって来た―――…。

 幸いまだ致命傷になるような大きな傷はないが、小さい傷は30くらい貰っている。パンドラは出来る限り傷を負わせないようにさせているから、精々メイド服の端々が少し破ける程度で済んでいるけど、アイツも何時ダメージを受けたっておかしくない。

 まだ刻印を使ってないから一応俺は余裕を残しているが、それはあくまで大ボス用に温存してある、と言うだけで気持ち的には今すぐにでも使ってしまいたい。

 いや、もういっそ使って良くない? パンドラの予想演算じゃ大森林近くに居るって事だし、ここから大森林までの距離を考えればラストスパートかけても良いんじゃないか?

 このままジリジリ削られて致命打貰ったら、それこそ戦えなくなるし、だったら出し惜しまずに使っておくか!


「“我に力を”!!」


 ≪赤≫の力が全身を満たす。

 体が軽くなり、五感が拡張されて意識がどこまでも広がって行く。

 刻印出した状態で辺りを見ると、本当に敵が多いな……。


「パンドラ、一気に大森林の前まで行くぞ!!」

「はい」

「遅れず着いて来いよ!」

「はい」


 俺達を囲む敵を炎を蒔いて1度散らし、その隙を突いて前方にヒートブラストを撃って道を作る。

 さあ、ボスまでラストスパートだ!!



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