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3-12 姉弟 ~ 真実を語って ~

 とりあえず町の外へ出た。

 出たは良いけど……さて、どうしよう…。適当なポーン級を見つけて倒させるってのは決定事項だが。それを具体的にどうするか?

 まず根本的な話として、あのお嬢様は戦えるのか? 訊いてみたら、まともに刃物も持った事がないらしい。流石お嬢様、そしてコイツが命知らずの馬鹿野郎なのが確定した。

 刃物を持った事が無いって事は……近接戦闘は絶対無理だよなあ…。腕細いし、体小さいし。まあ、ロイド君も似たり寄ったりだが、コッチは色々特殊な体ですし。まあ、最初っから危険度高いから近接やらせるつもりなんてなかったけど。

 やっぱり、この子に魔物倒させるなら魔法で倒して貰うのが1番安全かつ確実だけど。


「ルリ様、魔法の腕前は?」

「……貴方は魔法が使えないんでしょ?」

「ええ」

「………プっ、出来そこないね」


 多分馬鹿にされたんだろうけど、別にこれに関しては怒りは湧いてこない。魔法が使えないのは事実だが、異世界人の俺からすれば魔法を使える方が異常なのだ。

 それに、魔法無くても炎熱スキルがあるから別に困ってないしね。

 調子に乗っているお嬢様を見るリアナさんの目が悲しそうに細くなる。弟を馬鹿にされたからなのか、自分の主人があまりにも馬鹿だからなのか…うーん、両方か。


「はいはい。で、お嬢様は魔法どのくらい使えるんですか?」

「………3工程の魔法までなら完璧」


 ドヤッと膨らみの小さい胸を張る。

 いや、そんな勝ち誇られても意味が分からんから困る。


「作戦タイム」


 と2人に告げてパンドラの腕を引いて、少し離れた所でしゃがんでヒソヒソ話す。


「3工程の魔法って何?」


 コッチの世界に来たばかりの頃に、魔法に関する説明はイリスと村長からされたが、そもそも俺が…と言うかロイド君が魔法を使えない事を知っていたからか、本当に基礎の基礎しか教えて貰ってない。


「恐らく、詠唱の段階の事を言っていると思われます」

「え!? 詠唱ってアレだろ? 空間に魔法陣を描く作業の詠唱だよな? あれって、そんな段階とかあんの?」

「はい。強い魔法であれば必然その工程も増えて行きます」


 そんな話、今初めて聞いたわ。


「ちなみに、パンドラの使ってる魔法って工程いくつよ?」

「魔弾に込めてある魔法は、下が【バインド】の6工程、上が【シャイニング】の8工程です」


 って事は、単純に考えて、普段パンドラがパンパン撃ってる魔法の半分くらいの威力の魔法が使えると思えば良いのか。

 ………パンドラっていつもヘッドショット一発で敵仕留めるから、その半分の威力って上手く想像出来ねえな…。


「率直に訊くが、魔物倒せると思うか?」

「あの女に魔物と戦う力があるか、と言う意味でしたらNOです。単純にあの女の使えるランクの魔法が魔物にダメージを与えられるか、と言う意味でしたらYESです」


 ダメージさえ通ってくれるなら、あとはコッチで魔物が攻撃と移動が出来ないように封じてしまえば良いだけだから、まあ、何とかなるか。


「よし、作戦だ。手頃な魔物を、パンドラの地面から鎖出す捕縛魔法……」

「はい。【バインド】です」

「うん。そのバインドで敵を縛って動けなくして、それを魔法で倒させるって事でどうよ?」

「はい、宜しいかと」

「じゃあ、そんな感じで頼むわ。出来る限り一対一になるように敵は俺が散らすから、お嬢様のフォローと俺の討ち漏らしがあったら、そっちの対処も頼む」

「かしこまりました」


 よし、作戦会議終了。

 2人の所へ戻る。


「…………話は決まった?」

「俺等で魔物の動き封じるので、その間にルリ様が魔法で仕留めるって感じでどうでしょう?」

「……それで良い」


 文句が出なくて良かった。このお嬢様は、ようは自分が格好良く魔物を倒せれば文句はないのだろう。

 さて、それじゃ早速魔物をとっ捕まえに行きますか。

 出来ればポーンの白、かつ仕留めやすい小型が望ましい。ビショップ以上はお嬢様の魔法が効くか若干怪しいので、見つけ次第俺かパンドラが潰す。

 出来るだけ動かずに(下手に疲れられると面倒なので)俺の【熱感知】で手頃な魔物を探す。

 お、通りを外れた木の陰に居るのが丁度良いかな。大きさは多分小型犬くらい。形は鼠っぽいな。

 サクッと倒して貰って、さっさと帰ろう。

 隠れている魔物の尻尾の先に発火させる。ほーれ、焼け死にたくないなら出て来い。

 狙い通りに鼠…? いや、モグラ? まあ、ともかくそんな感じの小さな魔物が、尻尾に火を着けたまま慌てて木陰から飛び出して来た。

 俺等の後ろで当の本人が引き攣った声を上げた。


「ヒッ!?」


 いや、ビビんなよ…。魔物って言っても小型な上に、姿形も大して強そうじゃねえだろ。こんなのどこの村の周りにだって居る最低辺の魔物だぞ? なんなら、冒険者じゃなくたって普通の人間が武器と魔法で頑張れば倒せるレベルだぜ。

 って、それは俺が魔物に慣れちまってるから言えるのか。そういや、俺もユグリ村に居た頃はこのサイズの魔物相手に逃げ回ってたっけ…。


「パンドラ、頼む」

「はい」


 迷い無い動作で魔弾を放つ。途端に地面から幾重の鎖が飛びだし、魔物の体を絡め取って地面に縛り付ける。

 おっと、尻尾の炎放置しとくと全身に燃え広がって殺しちまうか。ヴァーミリオンを食わせて消しておこう。

 で、トドメ担当のお嬢様は―――…


「……だ、だ、だ、大丈夫…怖くない、怖くない……い、いつも通り…いつも通りに…習った通りに魔法を唱えるだけ…………」

「大丈夫か?」

「………うるさい! 黙ってて…!!」


 心配して声をかけたのだが、余計なお世話だったらしい。

 こりゃ、実際に魔法を放つまで……と言うか、このドヘタレが覚悟決めるまで長そうだな。

 パンドラに、【バインド】の維持を頼んで俺は後ろに下がる。


「ロイド、やっぱり危ないわ。貴方からも止めて」


 え!? ここまで来て!? 後はもうヘタレが魔法唱えれば終わりだぜ?


「良いんじゃない? 本人も1匹倒したら満足して帰るだろうし」


 そうすればコッチもようやく本来の目的に辿り着けるし。はぁ、長い道のりだったな本当。


「だって相手を殺すのよ! 魔物相手だって殺すなんて……」


 ………博愛主義者なのか?

 まあ、そうだな。この人の言ってる事は正しい。正直、コッチの世界に来たばかりの俺だったら、何の迷いも無く一緒になってルリの奇行を止めていただろう。

 でも、俺は見て来てしまったから。

 人が死ぬところを。町が無残に蹂躙される様を。魔物がどれ程、人にとっての脅威であるかを目にしてしまったから、俺は躊躇い無く魔物は殺す。

 正直、魔物相手だと殺しているという感覚は薄い。相手は生き物全ての敵だって免罪符があり、殺した後には死体が残らない幻のような存在だからだ。

 ……けど、それだって殺しているのは間違いない…か。

 俺、いつの間にかそう言うのを自然と受け入れてるな。悩んだところで、結局俺が出来る事もすべき事も変わらないんだけど………コッチの世界に染まって来たかな?


「ロイド? ロイド、どうしたの?」

「…え? 何?」

「今、凄く遠い目をしていたわ。大丈夫なの?」

「ああ、うん。大丈夫」

「…………」「…………」


 沈黙。

 動けない魔物の前で、1人で唸っているルリの背中を見ながら、【熱感知】で辺りの魔物の気配を探る。


「ねえ? 貴方はロイドじゃないの?」

「うん」


 突然の問い掛けだった。

 でも、必然でもあった。昨日、俺はハッキリとロイド君じゃないと彼女に言ったのだ。あの時は冗談として流されたけど、その後にロイド君らしからぬ言動と行動をしているのを見ているのだから、この問いかけは当然だ。


「ロイドは、どこに居るの?」


 俺は自分の胸の辺りを手を当てて、


「ここに居る」

「本当に?」

「うん。今は、この体をロイドに返す為に旅してる途中」

「ロイドは帰って来るの?」

「……正直、まだ何とも。まだ手掛かりも見つかってないから…。けど、絶対に方法は探し出す」

「そう……。うん、分かったわ」


 また沈黙。


「俺の事は聞かないんですか? 弟の体勝手に使ってる、どこの馬の骨かも知れない奴なのに」

「貴方が聞いて欲しくなさそうだもの」


 鋭い。弟の体使ってる相手にとは言え、その洞察力は大したもんです。いや、洞察力っつうか、空気の読む力が優れてんのか。


「スイマセン、俺………」

「良いの。貴方はロイドと同じ優しい感じがするもの…なんとなくだけど。だから、私は姉として心配しない事にしたの」


 何て言ったら良いのか分からない。けど、自然と口からその一言が零れ落ちた。


「ありがとうございます」


 俺の顔を見て、リアナさんがクスッと笑う。


「それじゃあ、改めて貴方の名前を教えて?」

「アーク。渡り鳥のアークです」



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