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3-11 お嬢様の依頼

 明けて翌日。

 サイドテールのパンドラと、一晩寝たらスッカリ機嫌の直っていた白雪を連れて冒険者ギルドに向かう。

 絶対に面倒な展開になる事が分かって居ながら、その穴の中に飛び込まなきゃならないって、もうこれ、単なる罰ゲームじゃね?


「はぁ…………」

「マスター、御気を確かに」

「メランコリック過ぎて、今日はもう帰って寝たい……」


 ギルドの扉が重い。と言うか、俺の気分が鉛の如く重い。

 いや、でも気合いを入れなければ。あのお嬢様の依頼(接待)にこの町の未来が掛かっていると言っても過言ではないんだ!

 ……でも、ちょっと待て? 別に領主本人に話せなくても、あのお嬢様から伝えて貰うだけで良かったんじゃね? 昨日の帰り道で「森で魔物が大群になってる」って言うだけで終わったんじゃねえか?

 ……まあ、でも全部今さらか。

 扉を開けて中に入る。

 あちこちから聞こえる嘲笑は無視する。受付のおばさんも若干噴き出しそうになっていたがそれもスルーする。


「俺用の依頼来てない?」

「ぷっ……失礼しました。はい、アーク様へを指名の依頼が1件来ております。依頼主は…え? 領主様のお嬢様…?」

「じゃ、それ受注で」


 クラスシンボルを渡して、依頼の詳細を聞く。

 依頼内容は「護衛」と一言だけ。護衛……何から護らす気だ? 世間の荒波からか?

 詳しい事は直接聞けって事かね。

 待ち合わせ場所は―――噴水広場? 領主の屋敷で待っときゃ良いだろうに。そうすりゃ、コッチも領主と会える可能性もあるし。


「じゃあ、後の処理はヨロシク。パンドラ、行こう」

「はい」


 俺を指さして笑っている髭男の横を通り過ぎてギルドを後にする。


「にしても、あのお嬢様意外と律儀だな? ちゃんとギルド通して依頼するなんて」

「冒険者への依頼や雇用は、ギルドを間に挟まなければ仲介料が取れませんので、ギルドの方が良い顔をしないからではないでしょうか? 依頼主にも領主の娘という立場がありますし」


 あーなるほどね。勝手に自分の事情で冒険者を動かした事が分かったら、領主の娘相手だって冒険者ギルドとの間に変な軋轢を生みかねない。だったら、始めっから金払って依頼出した方が面倒がないか。


「領主の娘として、まともな依頼だと有り難いんだが……」

「それは肯定しかねます」


 ですよね。


「場合によっては、力借りるかもしれないけどヨロシク頼むよ」

「はい」


 無表情に頷くメイドの姿は、本当に頼りがいのある頼もしさだ。パンドラを作ってくれた製作者の人、マジでありがとうございます!!

 道すがら、道端に生えていた小さな黄色い花を摘んで、フードの中で暇そうにしている白雪に渡す。すると、嬉しそうに受け取ってオヤツ気分で花の生命力を頂戴し始めた。これで、暫くは大人しくしてるだろ。

 そんな感じで話している間に噴水のある広場に到着。


「さて、どこに―――」

「ロイド!」


 横から大きくて柔らかい物に体当たりされた。

 倒れないように踏ん張ると、その柔らかい何かが俺を抱きしめて来た。


「…リアナ!」「マスター…」


 横からルリとパンドラの声が聞こえるが、視界が暗い。と言うか、何かが顔に押し付けられていて前が見えん。まあ、視界は【熱感知】あるから別に良いんだが……。

 …息が出来ない!?

 タップして離してくれるように伝えようと手を伸ばしたら、何かフワッってか、ポヨッとした何かが手に触れる。直感で、これは多分触ったらダメな物だ! と判断し手を引く。


「ぁん、ロイドったらどこ触ってるの」


 そう言われても…っつか、この抱き付いて来てるのリアナさんか…。弟相手とは言え、町中で抱き付いて来るってどうなの?

 あ、昨日リアナさん見たら体が勝手に身構えそうになったのって、このせいか。とすると、この人いつもこんな感じなの……? ロイド君も苦労するなあ…。

 っつうか、さっさと離れてくれ。色々ヤバい! 主に呼吸の意味で!!


「マスターの危機を感知しました。ただちに離れて下さい」


 出来るメイドが、俺が苦しがっているのに気付き即座に体を引き剥がして助け出してくれた。

 ああ、空気がウマい!

 俺が顔突っ込んでたの……あの胸ですよね……。なんだろう、友達の姉を変な目で見てしまってゴメンなさい。

 胸に埋もれて死ぬって、それはそれで男としてのロマンがあるんだろうけど、それを姉の胸でやると単なるド変態の馬鹿だよな…。危ない危ない、ロイド君をド変態の馬鹿として死なせてしまうところだった…。


「ロイド、おはよう。昨日はよく眠れた?」


 ごく普通に会話を開始されても、コッチは恥ずかしくて直視できねえんだよ。


「…お、おはようございます……。ええっと、睡眠はいっぱい取りました」

「ロイド、どうしてお姉ちゃんの方を見て話さないの? ちゃんと人を見て話しなさい!」

「勘弁して下さい…」


 この人を相手にすると話が進まなそうなので、俺の事を親の敵の如き目で睨むルリの方に話を向ける。


「で、今日は何すれば良いんですか? 依頼は護衛って聞いてますけど?」

「………」

「無言で睨まれても分からないんですけど」


 出来るだけコッチのイラつきを表に出さないように努めつつ、俺の後ろでやっぱり銃を抜こうとしていたパンドラの手を掴む。


「ルリ様?」

「………分かったわ。私が大人になってあげなきゃね? 相手は子供だもの…」


 何言ってるか分からねえけど凄まじくイラッとする。やっぱりコイツは1回引っ叩きたいな。


「……外に出たいの」

「外? 町の外?」

「そう」

「それは良いけど、外に出て何すん―――のですか?」


 やべ…気を抜くと敬語が出なくなる。やっぱ無意識にコイツに対して下手に出たくないと思ってるからかな?


「……魔物退治…」

「は?」

「ルリ様! やはりこの話は止めた方が…」

「良いの! もう決めた事なんだから、リアナは黙ってて」


 何言ってんだコイツ? 魔物退治したいから護衛しろってか? 金持ちの道楽にしたって趣味が悪い。そもそも危険があり過ぎる。俺等が魔物を倒すのを見てるだけってんならともかく、自分で倒そうなんて、そりゃ自殺志願者なんじゃないかと疑ってしまう。

 パンドラの方を見ると、いつも通りの無表情の中に微かにバカを見る目が混じっている気がする。


「確認しておきたいんですけど、魔物を自分で倒したいって事ですよね?」

「…………そう。凡人な貴方に出来るなら、私にだって出来る」


 コイツは俺を何だと思ってんだ?

 自分で言うのもなんだが、多分そこらの人間が束になっても敵わないくらいには強いぞ俺。


「……リアナから聞いてるもの。貴方は臆病で優しいだけが取り柄だって」


 そりゃ俺じゃなくてロイド君だわ。いや、体は確かにロイド君だけども。

 昨日の夜のゴロツキ倒す所見てたんじゃ―――ああ、コイツは壁の方向いて小さくなってたから俺が戦ってるの見てないか…。


「ルリ様、危な過ぎます。何かあれば旦那様になんてお伝えすれば…」

「……リアナは関係ない。私が自分で勝手にやる事だもの…」


 周りが止めてるのに自分勝手を通すって、見た目も思考もガキそのものだな。


「………やるの、やらないの……? お父様に…会わせてほしいんでしょ…?」


 う…痛いところを突きやがる。別にコイツに用件伝えれば良いかとも思ったけど、コイツの話を大人がちゃんと聞いてくれるか? と考えると、相当無理があるよなあ。

 やっぱ、自分で伝えに行くしかねえか…。もう…この町の為に、何で部外者の俺がこんなに骨折ってんだよ…。


「分かった。でも倒す魔物はコッチで選ぶ。それと、俺達の指示には絶対に従ってくれ。この2つの条件は絶対に飲んで貰う」


 これがコッチのギリギリの譲歩だ。これを飲まないようなら、この依頼は降りよう。いくらコイツがムカつくって言っても、目に見える危険に突っ込んで行くのを認める訳にはいかない。


「ロイド、貴方も何言ってるの!? こんなの危ないわ、止めなさい!」

「…………分かった…」

「ルリ様!?」

「パンドラ、今回はお前に全面的に頼る事になりそうだけど頼むわ」

「はい。問題ありません」


 リアナさんだけを置き去りにして話が進む。

 まあ、俺とパンドラ2人がかりでフォローすれば、極力危険を排除して魔物と相対できると思う。実際にやってみないと分からないけど。


「もう!! 私も行きますからね!」


 リアナさんの宣言を聞きながら、ここいらに素人が倒せそうな魔物なんか居たかなぁ…と思考を巡らす。


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