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3-9 姉弟

 弟?

 今、俺…と言うか、ロイド君の事をたった一人の弟って言ったよね? そう言えば、ロイド君の家庭は両親が居ないけど姉が1人居て、どっかの町に出稼ぎに出てるって言ってたっけ。

 この巨乳の使用人風の女性が、ロイド君のお姉さん…。ああ、確かに髪の色が同じだ。それにずっと顔のパーツが所々誰かに似てると思ってたけど、ロイド君(俺)じゃん…気付けよ俺……。


「ロイド、お姉ちゃんよ? 分かるでしょ?」

「あーえーと…ロイドはロイドなんだけど…中身は別人で……」

「何言ってるの!?」


 あー…そりゃ、信じて貰えませんよね…。俺だって知り合いがこんな事言いだしたら、頭の心配するもん…。


「……リアナ?」


 裏通りの奥の方で小さくなって居た身なりの良い女の子がオズオズと出て来た。


「あっ! ルリ様、ご無事ですか!?」

「………言うの遅いよ……」


 俺から離れて女の子の所に駆けて行くロイド君姉。オロオロとしながらも、怪我や服の汚れがないかチェックしている。


「大丈夫のようですね?」

「……うん。リアナが護ってくれたから…」


 若干泣きそうになりながら、ロイド君姉にギューっとしがみ付く。使用人とお嬢様…の関係っぽいけど、傍目には仲の良い姉妹に見えるな。ロイド君の姉って言われるより、あの子の姉って言われた方が納得できるかも。いや、まあ、ロイド君とも似てるけどもさ…。

 女の子の方が落ち着くまで俺も待ちの姿勢で居たのだが、唐突に白雪から抗議の思考が飛ばされて来た。「お腹。少ない。花。近く」と相変わらず分かり辛いが、多分「とってもお腹が空いたから、花をさっさと寄越せ」と言いたいんだろう。外で食べさせる訳にもいかないし、さっさと宿に戻るか。


「すいませーん。俺等宿に戻りたいんで、その続きは家に戻ってからやって貰うって感じで良いでしょうか?」


 女の子の視線が俺に向く。ジーッと睨まれてるけど……何、この子? 一応、俺アンタの事助けた人間なんですけど? なんでそんな憎たらしい目で見られなきゃならんの?


「そうね。ルリ様、早く戻りませんと旦那様が心配なさいます」

「…………うん…」


 ロイド君姉に声をかけられると、途端に細くなっていた眼が元通りの気弱な少女の目になる。

 ………なんなんだこの子…? とりあえず、お近づきになりたくないタイプの人間なのは確定だな。ロイド君姉の件で変に関わらないように気を付けよう。


「夜道は危ないから送ってくよ。家どこさ?」

「ロイド、そんなにお姉ちゃんが心配なの? フフフ、嬉しいわ」


 いや、別に姉だから心配してる訳じゃねえけどな。女子が陽が落ちて2人で外歩いてるから心配してるってだけで。それにさっき絡まれたばっかりだし。

 で、裏通りから出て歩き始めたところで聞かされた衝撃の真実。


「えっ!? その子、領主様の娘さんなの!?」


 はい。変なところで人間関係が出来ました。これで、領主に会う為のコネの件が片付くんじゃね? 何このラッキーが転がり込んでくる感じ? 俺の日頃の行いかしら?


「そうよ。ほらロイド、私がお世話になっている所のお嬢様ですから、ちゃんとご挨拶」


 そー言われてもなぁ…。


「えーっと……冒険者で渡り鳥をしてるアークです…」

「違うでしょ!? 何でちゃんと名前も名乗れないの!!」


 そんなに怒られても困るんだが…事情説明しようにも、歩きながらするような話じゃねえしなあ…。


「そもそも冒険者ってどういう事? お姉ちゃん何も聞いてないわよ!?」


 そら、知らせる方法も無いですし。電話もメールもLIN●もねえし、手紙だって出せる事は出せるけど、一通出すのに金がアホ程かかるし。………そもそも、ロイド君の姉の存在を完全に失念してたし……。


「………姉を困らせるなんて、碌でもない弟ね……」


 領主の娘がボソリと俺の胸にクリティカルヒットなセリフを投げて来やがる。この女、俺になんか恨みでもあんのか?


「……ルーリエント=ヴィルードよ。碌でなしの弟君……」


 イラッ。


「………」

「パンドラ、無言で銃を抜こうとするの止めろ」

「はい」


 片手に花の入ったカゴを持ち、もう片方の手でメイドの手を押さえてる俺の姿は、周りからどんな風に映っているだろうか? 多分脳みそにお花畑が咲いてるんじゃないかと思われてるな………。


「俺が止めなかったどうするつもりだったんだよ…」

「マスターに無礼な口を利く女の頭がトマトケチャップになります」

「グロッ…!?」


 絶対やめてくれ! 折角コネ作れそうなのに…身入りのトマトジュースのせいで台無しどころかお尋ね者だよ…。


「ロイド? そう言えば、そちらの方は?」

「え? ああ、そっか。パンドラ挨拶」

「はい。マスターに仕えていますパンドラです。重ねて言いますが、マスターの名前はロイドではありません」


 いや、それはもう良い。その件については、宿に帰ってからちゃんと説明するから…。と言う意思を込めてパンドラの掴んでいる腕に力を籠める。


「これはこれは、うちのロイドがお世話に―――じゃないわ!? うちの弟はロイドですからっ!!」


 使用人とメイドがバチバチし出しだので、口論に発展しないうちにさっさと領主宅に足を動かす。


「……ねえ、そこのボンクラな弟……?」


 誰がボンクラな弟じゃゴルァ!?

 と言う本音は心の中だけに留めて、表面上は至って平静を装う。このイラッとするお嬢様が領主に繋がる唯一のコネだからな。ロイド君姉に頼むって手も考えたが、使用人っぽそうだし、その弟に面会してくれるってのは……ねえ?


「なんですか? えーと…ルーなんちゃらさん?」

「ルーリエント!! ……あなた、本当に耳付いてるの?」


 付いてるよ? テメエの腐った目に見えてるかは疑問だがな。


「……ルリで良いわ。リアナにもそう呼ばせてるし……」

「そうか、分かった。で、リアナって誰?」

「自分のお姉さんの名前も知らないの!? アナタ本当にリアナの弟!?」


 ああ、ロイド君姉の名前はリアナなのね、忘れないように覚えておこう。


「ロイド! ルリ様をからかうのは止めなさい!」


 怒られた。別にからってる訳じゃねえんだけどね? コッチは至って真面目に対応しているつもりだし。

 そして俺にだけ見える様に「やーい怒られたー」と言いたげに舌を出してる、ルリお嬢様を1回全力で引っ叩きたい。


「申し訳ありませんルリ様! ほら、ロイドも頭下げるの!」

「………すいませんでした」


 コンニャロウに頭を下げるのは死ぬほど嫌だけど、ここで大人になって頭下げないと、この後の展開で領主に合わせて貰えないかもしれないし、同時にリアナさんの仕事に何かしら支障をきたすかもしれんからな。


「………別に良いけど……」


 おっと、そろそろ屋敷が近付いてきたな。領主への顔繋ぎして貰うなら、そろそろ頼んでおかないと。


「あの、ルリ…様。領主様にお会いしたいんですけど、なんとかなりませんか?」

「……お父様に? ……どうして……?」

「重要な話があるんです。それも出来るだけ急ぎで」

「ロイド! 何言ってるの、そんな事―――」

「………普通なら、ダメだけど……リアナの弟だって言うんなら特別…」

「え!? じゃあ」

「…でも条件がある」


 俺の首から下げられた黒いナイトの駒を指さす。


「冒険者なんでしょ? ……だったら、明日1日私に雇われて……」


 何だろう…すっげぇ嫌な予感がする。この女の口元だけがニヤッと笑っているせいだな。絶対コイツ碌でもない事させる気満々だろ……。

 ………つっても、コッチもなりふり構ってらんねえか。いつまた魔物の大群が来るかもしれないし。


「分かりました。じゃあ、それで」

「………契約成立。冒険者ギルドにはちゃんと依頼として出しておくから……」


 逃げるなよ? と視線だけで言いながら、小走りで無駄にデカイ屋敷の門を潜って行った。

 あー…また降って湧いたような不幸が……面倒クセ…。


「ロイド……」

「……早く追った方が良いんじゃない? 俺等も、もう宿に戻るから」

「え、ええ…」


 何かを言いたそうなリアナさんの視線を背中に感じながら宿に向かって歩き出す。あの人にも早いとこ俺の状態説明しないとなぁ…。

 そして、今現在直面している問題がもう1つある。

――― さっきから白雪が腹の減り過ぎでブチギレている。


「パンドラ、ちょっと早足で宿に戻るぞ!」

「かしこまりました」



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