3-8 予期せぬ再会
冒険者ギルドから情報を通す事が出来ないとなると、今度はどうするか? で、パンドラが提案して来たのが、この町の偉い人…町長だか領主だかに会って報告する。
なるほど、この町の危機なんだから、そら偉い人に報告するのが1番適切な対応してくれるわな、と納得して早速屋敷を探す。まあ、屋敷は1番大きかったので簡単に見つかった。んで、面会を門番にお願いしたところ。
「冒険者? 領主様にそのような者を会わせる訳にはいかん! 帰れ!」
全力で門前払いでした。
まあ、冒険者なんて力を魔物に向けてるから受け入れられてるだけで、犯罪者に片足突っ込んでるような存在だからなぁ…。しかも、身元不確かな連中がワンサカしてるし…って言うか、俺もその1人だし…。
うーん、何かコネみたいな物が有れば会ってくれるかもしれんけど、初めて来る町でそんなもんある訳ねーべや。
飯でも食いつつ考えればいい案浮かぶかと思ったけど、まったく何も浮かばなかった。まあ、同じ机で食ってた酔っ払いから聞いた話では、この町を管理しているのはヴィルードとか言う貴族の家で、町長ではなく領主らしい。……今更だがどう違うんだ、それ…? あとでパンドラに聞いておこう…。
まあ、ともかくそのヴィルードの家は、大昔に王家の血筋に嫁いだ事もある随分名の知れた家柄らしい。とは言え、今では随分小さくなり、国内での発言力もほとんどあっても無いような物なんだとさ。
オッサンが酒を良い気分で飲み始めたようなので、俺達は絡まれないようにさっさと飯を腹に入れて店を出る。
外に出ると、すでに陽が落ちかけて町がオレンジ色に染まっていた。
何するにしても明日に持ち越しだな、こりゃ。
仕方なく宿に向かって歩き出す。道すがら、花売り(隠語ではない)からカゴごと花を買う。別に部屋に飾る訳ではない、白雪の晩飯だ。機嫌がまだ直っていないようなので、ちょっと豪勢な夕食にしてご機嫌取りしとかないとな。
人通りの少なくなった通りは、どこの町でも寂しいもんだなぁ…。やっぱり賑やかな方が好きなのは、日本人の祭り好きな気質が残ってるからかね。
「―――と…さいっ」
「ん?」
裏通りの方から女の声が聞こえたような?
もう陽が落ちてしまっている。こんな時間に女子供が出歩くのは、治安の良さ云々を別にしても危ないだろう。あ、別に女子供って俺とパンドラを皮肉ってる訳じゃねえよ? 確かに俺等は例外中の例外だが。
って、んな事より、気付いちまった以上放っておけねえだろ。単に痴話げんかしてるだけならだけで良いけど、一応確認くらいはしておかないとな。
「さっきの裏通りの声、聞こえたか?」
「聴覚センサーは正常に作動しています」
「んじゃ、ちょっくら行くか」
「はい」
少し早歩きで歩く。大量に花の入ったカゴを持って、腰に剣を差し、服の中に妖精を隠し、メイドを連れて暗くなった通りを早足で歩くって……これ、完全に不審者だな俺…。
「貴方達、早く道を開けなさい!」
「わー、こわーい、ひっひっひ、良いねえ良いねえ」
「おい、そっちの胸のデカイのは俺が1番だからな!」
「あぁ? 知らねえよ早いもん勝ちだろうが!」
裏路地を突き進み、防壁近くまで来た所で件の人達を発見。
使用人風の服装の銀髪の女性が……胸が凄いです……じゃねえ!? 使用人風の女性が自分の後ろに一回り小さい身なりの良い女の子を庇っている。そして、それを取り囲む6人の男達。服装に統一感はないが、全員武器を持っている。冒険者か、町に紛れ込んだ野盗崩れってところか?
「はーいお兄さん達、女の子をナンパする時はもうちょっと雰囲気と言葉選びを学んでからにしましょうね~」
「それ以前にその身嗜みの時点で相手にされないと忠告します」
俺達に背中を向けていた男達が一斉に驚いた顔で俺達を見る。が、俺の姿を見た途端に「なんだ、ガキか」と安堵する。
あれ? 巨乳の使用人の人が、俺の顔見て凄い驚いた顔してる……って、あの人どっかで見たような……いや、あれだけ特徴的な部位を持つ人を見忘れる訳ないから会った事はないだろうけど…。顔のパーツ1つ1つ切り取って見ると、誰かに似てるような……しかも、凄い身近な…誰だっけなあ…?
「オルァ!! ガキ、さっさと消えねえと殺すぞっ!!」「待て待て、後ろのメイドは結構な上玉じゃねえか?」「お? おお、ツイてるぜぇ!」
パンドラに目をつけてヤンヤヤンヤ騒ぎ出す。
ふむ、なるほど。
花の入ったカゴを地面に置いてっと。
よし、準備完了。
「死ねボケッ!!!」
全力で手前の男を蹴り飛ばした。
あ、全力って言っても【フィジカルブースト】は半分くらいしか使ってないので悪しからず。全開状態の全力キックしたら、骨粉々にしちゃうからね。
「うぉ!? な、なんだこのガキ!?」「も、もしかして強いのか!?」「バカ共、慌てるな! 強いってもガキ1人だろうが!!」
ナイフや剣を抜いて、臨戦態勢に入る。
武器向けられても、全然危ない感じがしねえなあ…。
「パンドラ、半分任せる」
「かしこまりました」
「銃は抜くなよ? 素手オンリーだ。あと出来るだけ優しく寝かしつけてやれ」
「はい」
パンドラは普段俺の支援に回る為に近接戦はしないが、実は無手格闘でも無茶苦茶強い。色んな戦闘データを持ってるとかで、空手とかカポエラとか色々な事が出来る。まあ、流石にプロレス技まで使えた時には何の冗談かと思ったが…あれはあくまでショーの意味合いの強い物で、実戦で使うようなもんじゃないだろうに…。
「舐めんなクソガキっ!」
ナイフを構えて突っ込んでくる。しかし、遅過ぎて話にならない…。ポーン級の白の狼型の突進の方がよっぽど早い。
ナイフを持つ手を横に払い、反対の手を男の胸倉に引っ掛けて、グッと下に引っ張って下を向いた瞬間に顔面を膝で蹴り上げる。
「はい2人目ー」
仲間がやられてビビったのか、腰が引けて動こうとしない剣を持った男にトコトコと無警戒に近付く。
「は、ははははバカがっ!! 【フレイムストライク】!!!」
男の手の平から発動する魔法。裏通りが一瞬炎の色に染め上げられ―――俺が少しだけ鞘から抜いたヴァーミリオンの刀身に全て吸いこまれた。
「は…あぇ?」
男が何が起こったのか理解するよりも早く、俺の拳が男の顔面を捉えて後ろに吹き飛ばす。
「3人目っと」
さて、これで半分終わったけどパンドラの方はどうなったかな。
「おーい、パンドラそっちどう―――」
振り向いた時、丁度メイドが最後の男をジャーマンスープレックスで沈めるところだった。
「路上でプロレス技かけんなーーーーっ!!!?」
「はい?」
「はい? じゃねえよ!? 優しく寝かしつけろっつったでしょうがっ!?」
「はい、ですから、痛みを感じないように一撃で寝かしつけましたが?」
ああ、うん…そっちの意味での優しくなのね…。
「路上でのプロレス技禁止な! っつうか、そもそもプロレス技自体が禁止な!」
「何故でしょうか?」
「お前は人殺しになりてえのかアホ…! そいつ等ちゃんと生きてんのか?」
一応全員体温が下がって行く様子はないので、まあ多分大丈夫だろう。後遺症とか残ったら……うん、まあ、諦めてくれ…責任取れないから…。
さて花は―――無事だな。よしよし、コレがダメになったら、白雪が更にムクれて不貞腐れそうだからな。
「片付いたし、宿戻るか」
「はい」
男達はこの場で放置で良いだろ。俺がやった方は2,3時間で目を覚ますだろうし。パンドラがやった方は………そのうち起きるよ……多分。
「そこの御2人さん。こんな時間に出歩いてると危ないぜ? 家まで送ろうか?」
路地の奥の方で小さくなっていたナンパされていた被害者2人に声をかけると、使用人風の巨乳の人がタタッと軽快な足取りで近付いて来て俺の顔を覗き込む。
「何か?」
近くで見るとオッパイが……じゃない! やっぱりどっかで見たような顔のパーツしてるよなあこの人…。
あと、何だろう? この人が近付いて来たら、俺の意識とは無関係に体が勝手に反応して身構えそうになったんだが…?
「ロイド?」
「はぃ?」
え? なんでここでロイド君の名前? って、もしかして、この巨乳の人ロイド君の知り合いか!?
「ロイドよね?」
「え? ええっと…」
どう説明したものか? そもそも、この人との関係も分からねえしな。
「人違いではないでしょうか? マスターの名前はアーク様です」
横から口を挟まれて、そう言えばパンドラに俺自身の事情については全然話してない事に気付いた。やっべえ、パンドラの方から訊いて来る事もねえから忘れてた…。
「あら? 人違い……じゃないわ! 私がロイドの顔を見間違える筈ないもの!」
「いや、あのー、俺は……」
「ロイドどうしたの? 私よ、分からないの?」
「ですから、マスターの名前はロイドではありません」
「いいえ、絶対間違いない! だって―――」
ああ、誰でも良いからこの場の収集をつけてくれ…と全部誰かに丸投げしたい気分になった俺に、目の前の女性の正体が明らかになる。
「―――たった1人の弟の顔を見間違える筈ないもの!!」