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3-7 カスラナ

 カスラナ。

 特に何があると言う訳ではないが、そこそこ大きな町。強いて何か特徴を言えと言われれば、石造りの立派な防壁がグルッと町を囲んでいる事だろうか。何やら、大昔に魔物に襲われて壊滅的な打撃を受けたとかで築かれたらしいのだが……襲って来たのが、あの大ミミズとかだったら、コレ絶対無意味だよな……。まあ、あのサイズが出る事なんて稀中の稀だろうから良いか。

 町に着いたらとりあえず、陽が落ちる前に宿をとって、ついでに町をグルッと回って店の場所を確認しつつ、この町に出回っている道具の質も見ておく。やっぱり、商人の町って言われてるだけあって、ソグラスの方が品揃えがずっと良かったな。鍛冶屋……は別に寄らなくて良いか。俺のヴァーミリオンは神器…オーバーエンドだから砥がなくても切れ味落ちねえし、パンドラの銃は自分でバラして整備してるから関係ないしな。邪魔な木の伐採とか、野草採取に使う多目的ナイフと、パンドラに料理用に持たせている果物ナイフはそのうち研磨して欲しいけど、今のところは大丈夫か。

 さて、後はギルドか。大量に魔石抱えてるし、さっさと換金しねえとな。それと、森に近いこの町なら、あの魔石を持たない魔物と、魔物化した死体の事も何か情報が入ってるかもだし。……それと魔物の大群が居た事も報告しておかねえと。


「マスター、冒険者ギルドを発見しました」

「ん? どこよ?」

「あちらの角の向かいに」


 好奇心に駆られたのか、フードから顔を出そうとする白雪をパンドラがさり気無く押し戻す。白雪から抗議の思考が流れて来たが町中なので心の中で謝罪だけして表面的には無視する。流石に妖精の姿は町中では目立ち過ぎる。下手に目を付けられて、白雪が人に狙われたなんて事になったら笑えないしな。


「ああ、あそこか。グッジョブパンドラ」


 ギルドの大きさは、ソグラスと同じくらいか。……ただ、ちょっと建物がボロ…いや、年季が入ってるな。

 パンドラを引き連れてギルドに入る。白雪には念の為顔を出さないように思念を送る。一般人に見られるのも避けたいのに、冒険者に妖精を見られるなんて危な過ぎる。

 それはそれとして、どこの町の冒険者ギルドにも言える事が1つある。

 空気がむっさいわぁ~…。

 冒険者の女性人口がどの程度なのか知らないが、男臭さが半端じゃない。もう、何て言うの? 筋肉こそが正義的な? 汗臭さは男の勲章的な? そんな臭いがギルドには漂っている。入る時にそれが鼻に襲いかかって来るのが分かっていても、ダメージを受けてしまう。パンドラも臭いは感じている筈だが、いつもの無表情が崩れる事は無い。


「魔石の換金お願いします」


 と受付の若干歳くったおば…お姉さんに言った後に思い出す。


――― やべぇ、魔石袋は白雪のポケットの中だ…!?


 白雪を外に出す訳にはいかないから、さり気無~くフードの中に魔石袋を出して貰おう。

 おーい白雪、魔石の入った袋出してくれー。

 ………あれ? フードの中に出してるっぽい重さが感じられないんですけど…。おーい白雪? ……シカトっすか? もしかしてさっき外に出さなかったの怒ってます?

 答えるように怒っている…と言うか、プンプンしている思念が飛んでくる。どうやら、本格的にご立腹らしい。

 仕方ねえだろうよ? お前だって変な目で見られたくねえだろ?

 俺の言っている事を理解しているからか白雪が黙る。しかしポケットから物を出す気配はない。

 あー、もー、どうすりゃ良いのよー…。


「あの、それで魔石は?」


 ほら、俺が中々魔石出さないから、受付のおば…姉さんが若干困った顔してる!?

 すると、パンドラがコッソリ俺の後ろに近付いて来て、フードの上からトントンっと白雪をノックする。そして、周りには聞こえない小さな声で。


「マスターを困らせてはいけませんよ」


 パンドラには珍しい小さい子供を諭すような口調。そして白雪から飛んでくるションボリした思念。今頃フードの中で青い光を放ってるんだろうなぁ…多分。

 突然フードがズシッと重くなる。

 はぁ…良かった。でも、機嫌が直った訳じゃなさそうだから、後でちゃんと口で言って謝っておこう。

 フードに手を突っ込んで俺とパンドラの魔石袋を取りだしつつ、狭そうに体を縮めている白雪を指先で撫でる。


「じゃあこれ2人分、お願いします」


 俺の黒いナイトの駒と、パンドラの黒いポーンの駒を机の上に並べる。


「はい。アーク様とパンドラ様ですね」


 2人合わせれば相当な量があったが、それでも魔晶石1つ分にも満たない換金額だった。まあ、魔物のランク考えればそんなもんか。


「おめでとうございます。パンドラ様のクラスがポーンの黒から、ビショップの白に昇級しました」

「はい」


 お、やったなパンドラ。森の中で大量にエンカウントして狩ったかいが少しはあったな。

 パンドラが新しいビショップの駒を貰うと、コッチにとっての本題を切りだす。


「それで聞きたいんだが、町の西側に広がってる森があるだろ? あの森の中で近頃何か変わった事とか、変わった魔物との交戦とかの情報って入ってないか?」

「いえ、そのような話は……あ、いえ、そう言えば近頃魔物の群れを見たと言う情報がありました。ですが、調査隊を編成して向かいましたが、そのような群れは発見できませんでしたので、誤報として処理されています」

「他には? 例えば、魔石を持たない魔物と交戦したとか、魔物化した死体を見た、とか」

「そのような魔物が存在するのですか? 今初めて聞きましたが?」


 ギルドの受付に話が来てないって事は、初交戦が俺達だったのか? いや、でも大群が集まるのはそれなりに時間が必要だっただろ…。って事は、たまたま俺達より先に森を歩いていた連中がエンカウントしなかっただけか?

 まあ良いか。情報無いってんなら、それこそ俺達の交戦情報を渡して置かないとな。


「ああ。森の中で、魔石を持たない魔物と、魔物化した動物の死体を見た。他の魔物との外見的な区別はつかないけど、戦闘力はコイツ等の方が上っぽい」

「まあまあ、それは不思議な魔物ですね」


 ちゃんと聞いてくれては居るんだろうけど、いまいち緊張感がねえなあこの人…大丈夫だろうか…いや、まあ、大丈夫だから受付なんてやってんのか…。


「それと、昨日の夜に森を抜けた辺りで、その魔石を持たない魔物の大群がいました」

「それは大変ですね! 大群とは、どのくらいの規模の群れでしたか?」

「うーん…多分1000匹くらいかな?」

「1000!?」


 受付のおばさんが立ち上がって唾を飛ばしながら大声で俺の言った数字を反芻して叫ぶ。

 そして、俺達の話に聞き耳を立てていたらしい連中も、驚きと焦りの混じったなんとも言えない表情で俺達を見ている。


「そ、そ、そ、それで、その魔物の群れはどうしたのですか!?」

「どうしたって、倒したけど?」

「……倒…した? え? え? 全部ですか?」

「そりゃ勿論」


 途端に―――


「あははははははっ、なーんだ冗談だったんですか! ビックリさせないで下さい」


 は?


「お、俺は気付いてたぜ? あのガキの単なるハッタリだってな!」「ばーか、完全にビビってたじゃねえか」「にしても1000って数字盛り過ぎだろうが、もうちょっと人が信じられる範囲の数字を言えよ」「あのメイド…マジで可愛くない?」「そもそもあのチビ、ここいらの冒険者じゃねえな? 誰だ?」「あひゃひゃひゃひゃ! あー、久々に笑える話をありがとうねボクちゃん?」


 周りから俺達に向けられた嘲笑、侮蔑、投げかけられる見下した言葉。

 内心イラッとして、全員この場で火達磨にしたろかぃ!? と思ったがそこは理性で抑える。

 そもそも、普通の人間にしてみれば、1000の魔物なんてクイーン級の魔物が現れるのに匹敵する大事だ。それを、見かけが完全にチビッ子の俺と、メイド姿のパンドラが殲滅して来たなんて、冗談にしか聞こえないだろう。つまり、この連中の反応は、普通の人間の普通の反応…と言う事だ。異常なのは俺の方なので、怒るのはお門違いだ…。と無理やりに自分を納得させる。

 そして、俺が自制してんのに、そんなもの知った事かと言わんばかりに銃のグリップに手をかけているパンドラの手を掴んで行動を停止させる。

 はぁ…このまま話聞いて貰うのは無理だな…。


「……スマン、騒がせた」


 パンドラの腕を引いて、嘲笑の中を歩いて外に出る。


「マスター、宜しいのですか?」

「宜しくねえよ。ねえけど、あの場に留まったって俺等の話の信憑性を証明する方法がねえ」


 話自体が信じられないのなら、物証を持って証明するしかない。だが、1000体の死体がある訳でも、1000個の魔石がある訳でもない。俺等の話は、証拠となる物が一切ないのだ。

 うーん、参ったな。この展開は予想外。


「マスターがギルドを燃やして力を証明すれば良かったのではないでしょうか?」

「………俺が賞金首になるって点を除けば満点な行動だな…」


 パンドラのどうしようもない提案はともかくとして…、本当にどうしたもんかねー?

 皆が俺等の話を信じようが信じまいが、魔物の大群がこの町を襲おうとしていたのは事実なのだ。襲撃未遂があの1回で終わりだと言うならそれで良いが、もし2波、3波と続いて来るのなら、すぐにでも防衛の準備をしなければならない。



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