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3-4 妖精の真価

 翌日の朝。

 昨日の夜は大変でした…。寝たと思ったら魔物の襲撃、寝たと思ったら魔物の襲撃。ええ加減にせえよ、お前等!? と全力で文句を言ってから、もう寝るのが面倒臭くなって代わりにパンドラを休ませる事にした。どうせ俺は明け方に少し睡眠取れば【回帰】のお陰で肉体の疲労は回復するし………まあ、精神的な疲労は溜まるけど…。

 パンドラの奴は、主人に働かせて眠る訳にはいかない、と頑として寝ようとしなかったが、襲撃の度に起きているので身が持たないだろうと無理やり寝かせた。

 そう言う訳で、昨日ちゃんと睡眠を取ったのは、俺のフードの中で引き籠っていた白雪1人だけだ。まあ、起きられててもしょうがないけど…。


「マスター、お疲れではないですか?」

「心配しなくても大丈夫だよ」


 今朝の目覚めも、いつも通りにパンドラが上に乗って健康診断(?)していた事によって起きた。特に健康に異常は無かったようなので、肉体的な事は何も心配ないだろう。

 いつも通りに朝飯は薄味で量が足りなかったが美味かったし、食欲は十分にある。


「さて、そろそろ行くか? なんとか遭難地獄から脱出しねえと、冗談なしに命がヤバい」


 食料的な意味でもヤバいが、同時に魔物のエンカウント率がやたらめったら高いのもヤバい。

 例の魔石を持たない魔物は、夜が深くなるにつれて行動が活発化して襲って来る頻度が高くなるっぽい。それと、それに比例して心なしか戦闘力も上がってる気がする。昨日の夕飯の時に出た魔物達のように、連携して襲って来られると俺でもヒヤッとする場面がある。もし、パンドラ1人の状態であの連携攻撃をされたら、ちょっとヤバい。

 もう1つ気になるのは、あの魔物を倒した後に残った腐った犬の死体。あれ以来、死体の入った魔物にはエンカウントしていないが…あの一匹だけが特別だったのかな…。

 まあ、それならそれで良いか。

 荷物を背負おうと荷物に手を伸ばすと、白雪がヒラヒラと飛んで来て荷物にとまる。何してんだと思ったら、思考が伝わって来た「私。持つ」? 何のこっちゃ?

 気にせずに持とうと思ったら、白雪の体が一瞬黒っぽい光を放ち、次の瞬間俺の荷物がパッと消えた……ああ、うん、本当に消えたわ……。


「手品かよ!? 俺の荷物どこいったの!?」


 俺が驚きの声を挙げる間に、今度は羽をパタパタと動かしてパンドラの荷物に体を持って行く。そして黒い光を放って、はい、そして荷物が消える! だから、どんなマジックショーだバーロー。


「マスター、妖精には物質を自分の中に保管する能力があるのです」

「え? 何、その超便利能力…。自分の体以上の荷物も腹の中に入れたっぽいんですけど…」

「お腹の中ではありません。詳しい解析データは記憶(データベース)にも残っていませんが、妖精は体内に亜空間を持っていると推測されます。また、記憶(データベース)の中に『ジャパニメーションの青い狸のアレ』という謎の関連キーワードを発見」

「そのキーワードは無視しろ」

「はい」


 自慢げにパタパタと飛んで来て、俺の肩で体を休める光る球。肩に重さは感じない。白雪自身の重さは無いようなものだが、体の中に入れた荷物の重さもまったく感じない。


「白雪、お前凄いな?」


 尊敬と称賛の意味を込めて指先でつつくと、それを受けて白雪の体が黄色になる。

 白雪が…と言うより妖精って種族が凄いな。物流に妖精が関わったら、間違いなく革命が起こるぞ。


「しかし、この能力も万能という訳ではありません。保管できる物量には限界があり、生命体は保管する事ができないようです」

「ほうほう」


 試しに魔石の入った袋を渡してみると、全然余裕ですとも! とでも言うように得意げにしまって見せた。パンドラも俺にならって魔石袋を渡す。白雪が腹の中にしまう。

 容量限界があるって言っても、まだまだ余裕そうだな。

 身軽な状態で歩き出す。


「いやー、手ぶらで歩けるってのは有り難いねえ」

「はい。魔物の襲撃に即時対応できます」

「……うん、まあ、そうね…」


 1番最初にその物騒な話を出すあたり、本当にパンドラはブレないな。まあ、コイツの口から「森の緑を楽しみながら優雅な散歩気分を味わえます」とか言われたら、それはそれで困るけど。


「これで、調子が上向いて森から上手い事抜けられたら言う事無いんだけどな?」


 すると、白雪が俺の肩から飛び立って前の方に飛んで行く。


「白雪、あんまり離れると危ないぞ!」


 返事の代わりに白雪の思考が流れてくる。「木。教える。案内」って、これ…もしかして?


「もしかして、妖精って植物と会話が出来るとかか? そんで、森の出口を聞いてくれるって事か?」


 肯定する思考が流れて来た。


「凄いな妖精…!? 森の中なら無敵じゃね!?」

「ですが昨日は魔物に追われていました」


 あ、はい、そうですよね。

 特殊な能力は持ってるけど、戦闘は不得意って事か? それとも、まだ子供だから戦えないだけかな。

 白雪が俺達の1m先を着いてこいと言いたげに飛ぶ。どうやら、森から出る方向が分かったので案内してくれるらしい。

 ありがたやありがたや、妖精が居てくれるだけでこんなに旅が楽になるとは…でも、亜人と滅多に会えない事を考えると旅の仲間に居てくれるって、宝くじみたいな可能性の低さだよな。

 そこでふと、今までの自分のして来た事が頭の中で再生される。

 ルディエの地下で≪赤≫に出会った事。

 遺跡の地下でパンドラに出会った事。

 ダロスでヴァーミリオンを抜いた事。

 そして、偶然出会った妖精の白雪。


――― 本当に、全部偶然か…?


 偶然にしては話が出来過ぎじゃねえか? ≪赤≫の継承者になった経緯も、その俺が偶然パンドラの眠っている遺跡に行ったのも、偶然≪赤≫の継承者じゃなければ抜けないヴァーミリオンのあるダロスに辿り着いたのも……偶然の一言で片付けるには、余りにも不自然じゃないか?

 まるで、見えない何かが偶然を装って俺に力を与えようとしているような、そんな想像さえしてしまう。

 いや、でも仮に…万が一に…いや、億が一にこれが偶然じゃなかったとしたら……どこからが偶然だ(・・・・・・・・)

 最初の不自然さは、俺が≪赤≫に出会った事。あの時は、イリスが俺…ってか、ロイド君の記憶喪失を治す為にルディエに行った。って事は、俺が居なければこの体が≪赤≫の継承者になる事はなかった…だから、もしかして……。


――― 俺が死んだのも偶然じゃない?


 いやいやいや…待て待て…あくまでそういう可能性があるってだけだ…。

 そもそも偶然装ってそんな事するって、そんなバカがこの世に居るか!? 神様かよ!?

 あり得んあり得ん。この話終わりだ終わり!


「マスター、どうかなさいましたか?」

「ん…いや、なんでもない。唐突にバカバカしい事が頭に浮かんだだけだ」

「お体の調子が優れないのでしたら、私が背負ってお運びします」

「ありがとさん、大丈夫だから気持ちだけ貰っとく。本当になんでもねえから心配すんな」


 それでも心配そうにチラチラと俺に異変がないか観察しているパンドラ。白雪も思考の中で俺の事を心配してるっぽいし、あんまり考え過ぎないようにしよう。元々あんまり頭使うタイプの人間じゃないから、無駄に頭回転させてると心配させちまう。


「それよりパンドラ、昨日の犬の死体の入った魔物の事、どう思う?」

「情報が少なくて正確な回答はできません」

「推測でも的外れでも良いから、何か感じた事があったら言ってくれ」


 魔石のない魔物もそうだが、あの魔物化した死体(?)の方が俺は気になっている。あれが自然発生的に生まれた物なら、死んだ者は全部魔物になる危険性があるって事になる。でも、そんな話聞いた事ねえんだよなあ…。この森特有の何か…かな? 死んだら魔物化する呪いが森にかかってるとか…倒した相手を魔物にする魔物が居るとか?


「そうですか。では、あの魔物は魔石の代わりに死体を利用していると思われます」

「うん。それに関しては俺も同感だ、死体焼いた後にも魔石はドロップしなかったし」

「この場合、肉体を魔素のタンクにしているのだと推測されます」

「ん? どう言う事だ?」

「魔素を魔力に変換出来るのは人と亜人だけですが、魚類や鳥類や獣等も魔素を体内には取り込んでいます。肉体が死亡した時点でその機能も失われますが、体内に魔素は残留しますので、それを魔石の代わりに使用する事で魔物化したのではないか、と推測します」

「なるほど」


 納得出来る説明ありがとうございます。こう言う時に頭脳労働が出来る仲間が居るとその有難味が分かる。


「ですが、この推測ですと人と亜人以外の全ての死体は魔物化する危険性を持っている事になりますし、魔物化した後に肉体維持に魔素を消費し続ければ死体の魔素が尽きて、いずれただの死体に戻ります。ですので、死体に何かしらのプラスαが加わった結果があの魔物であると結論します」

「うーん、プラスαね……何か思い当たる物あるか?」

記憶(データベース)に該当するデータはありません」


 うーん、結局正体は分からず終いか。

 モヤモヤするけど、分からんもんは考えててもしょうがない。一先ずは森を抜ける事を考えよう。


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