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3-2 予兆

 夜が更ければ暗くなり、暗くなったら腹が減る。

 なけなしの食料を使って食事を作るパンドラ。こうやって飯の準備してる所をみると、本当に普通のメイド…普通の人間に見えるよなあ。いや、見た目的には完全に人と言っても過言じゃないけどさ、喋ったり奇行を見るとやっぱり心のどっかにロボなんだなあ、という思いが生まれてしまうのだ。


「マスター、食料の配分を再考した方が宜しいでしょうか?」


 パンドラ的にはそんなつもりは毛頭ないだろうが、暗に「俺が道に迷ったせいだ」と責められている気分…いや、実際俺が悪いんだけどさ。


「そうだな…この森からいつ出られるか分からないし、少し節約しておくか」

「了解しました」


 果物ナイフで器用に干し肉を切り分けるパンドラを見ながら、焚き火の火力を【魔炎】を使って調節する。

 うーん、本当に俺炎を使う事が当然になってきたな。どうやって火を点けているのかは、正直自分でも良く分かってない。例えば、「手ってどうやって動かすの?」と問われたら、説明に困るだろ? 俺にとっては火を使うのはそれと同じだ。意識しなくても出来る事だから、どうやって制御してるのかは分からない。

 次にヴァーミリオンを鞘から抜く。炎を思わせる美しい装飾と、透き通るような深紅の刃。正直、俺には不釣り合い過ぎる綺麗な剣だ。


「どうかなさいましたか?」

「ん~、ヴァーミリオンなんだけどさ……」


 材質不明の並みの剣では太刀打ちできない切れ味。それだけでも武器として優秀なのに、その上【炎熱吸収】のスキル持ち。熱量を剣の中に入れたり出したり自由自在。炎使いなら一家に一本くらい欲しい便利さ。でも……。


「コイツ、多分全然本気出してないっぽいんだよなあ…」


 振るっていると分かる。ヴァーミリオンが、まるで「お前の力はそんなものか!」と言うように俺の事を値踏みしている。

 ヴァーミリオンは俺に振るわれる事を喜んでいるが、それはあくまで剣として、武器として戦いの中に居られる事が嬉しいのであって、万が一俺以外にコイツを握れる人間が居たら、コイツはソイツにだって喜んで振り回されるだろう。

 まあ、平たく言えば持ち主として全然認められていないって事なんだろう。だからと言って、自分が未熟な事は身に染みて理解しているので、特にダメージを受ける事もないが…。


「オーバーエンドの不調でしょうか?」

「いや、問題があるのは俺の方。弱過ぎて、ヴァーミリオンが力貸す気にならないとか、やる気が出ないとか、まあ、そんな感じだろ」

「マスターが侮辱されたと言う事でしょうか?」

「ん? いや、そこまで大層な話じゃ―――って、何で銃を抜く…?」

「仕える者として、マスターへの侮辱を許すわけにはいきません」

「……正気か? 相手剣だぞ…」


 いつもと変わらない無表情だが、ちょっとご立腹……らしい。変化ねえから全然分かんねえ…。

 銃を戻そうとしないパンドラを何とかなだめて夕飯の支度を再開して貰う。

 ……表に出ないだけで、パンドラも怒ったりするのか。驚きと同時に、そういう人間的な部分が有る事に喜びを覚える。ただ、まあ、贅沢を言うならそれをもうちょっと表情に出して欲しいが。

 香辛料になると言う、赤っぽい果物を乾燥させて砕いた物を鍋に入れながら、少量の水で煮込む。

 お、ちょっと良い匂い。ロールキャベツっぽい匂いかも。鍋に入ってる食材は全然関係ねえけど…。

 と、そこへ―――…。


「ん?」


 【熱感知】に何か引っかかる。熱源がまっすぐコッチに向かって来る。

 …でも、反応が小さいな。虫? にしては大きい。雀くらいの大きさか。空飛んでるっぽいし、鳥かな? 夜目の効く梟みたいな鳥だっているし…でも、鳥にしては飛び方が変だな。

 まあ、問題があるとすれば、その小さい熱源が後ろに魔物を引き連れている事かな。


「ったく、飯時に埃立てんなよ…」


 やれやれと溜息を吐きながら立ち上がる。


「マスター、魔物ですか?」

「ああ。俺が相手するからそのまま飯の準備頼むわ」

「かしこまりました」

「パンドラの所まで届かせるつもりはないけど、一応討ち漏らす可能性あるから迎撃の準備はしといてくれな」

「はい」


 鍋の様子を見ながら、片手に銃を取る。

 さてっと、戦闘で暴れて鍋倒したら笑えないから、少し離れて迎え撃つか。にしても、魔物の先頭切って飛んで来ているのは結局なんなんだろうな? まあ、直接見てみれば分かるか。

 ヴァーミリオンを軽く振って調子を確かめる。戦闘を喜んでは居るが、やっぱり力を抑えてる感じがするな。

 程なくして、視界の先に光が見えた。

 なんで光? 魔物が懐中電灯でも持ってんの? とかバカバカしい事を考えていたら、光が木の間を縫うようにフラフラと舞う。

 なんだアレ…? 警戒しつつ光を目で追っていて気付く、小さい熱源の正体はこの光か。近付くにつれて、その光が球状で背中(?)に蝶のような羽を生やしているのが見えた。

 あの光の球に羽が生えてて、自分の力で飛んでるって事は、もしかしてあの光るボールはそう言う生物なのか?

 そして、それを追いかけるように人型の魔物と、昼間にもあった熊っぽい魔物と、犬っぽい魔物が木の陰から走って来る。多分、あの中じゃ人型のが1番強い。次に熊、1番弱いのが犬だな。

 光るピンポン玉みたいなのが、まっすぐ俺のところに飛んでくる。黒いモヤを纏ってないって事は、少なくても魔物じゃなさそうだな。とすると、魔物に追いかけられてた原生生物ってところか。

 クルクルと2度3度俺の周りを回る。

 助けを求めてる…? っぽいな、多分。焦った様子で飛んでるし。まあ、こうして出会っちまった以上助けてやるか。


「魔物は倒してやるから、どっか隠れてな」


 言ってから、言葉通じるのか? と疑問を浮かべる。光る球が俺の言葉を理解したかどうかは不明だが、俺のパーカーのフードの中にスポッと入って身を隠した。正体不明の生物が服の中に居るのは正直あんまり気分が良くないが、せっかく必死に隠れてるっぽいのを引っ張り出すのも可哀想かと思い、そのまま魔物を迎え撃つ事にする。

 

「さて、どう相手しましょうかねっと」


 定石なら、足の速い奴か1番攻撃力が高そうなのを潰すもんだけど…。

 と思っていたら犬型が突っ込んでくる。頭が迎撃方法に迷うより早くその体を【魔炎】で燃やす―――が、足が止まらない!? チッ、炎熱の耐性持ちか。ダメージは通ってるから別に火力上げれば燃やせそうだけど、ヴァーミリオンが有るとは言え、森の中で無茶な炎の使い方はしたくない。と言う訳で、犬は直接攻撃で潰す。残りの2体は―――…


――― 人型がすぐそこに迫っていた


 視線は向けていなかったが、【熱感知】ならある程度の距離まで近付いたら視界の外でも認識出来る。にも関わらずこの距離まで近付かれたって事は、この人型はコッチの探知スキルを擦り抜ける能力を持ってるって事か!?

 けど、【フィジカルブースト】にまだ余力残してるから、知覚速度と肉体速度を上げれば十分対応出来る。

 しかし、そこにもう一手。熊が細い木を裂いて槍のように投げつけて来た。即座にそれを燃やすが、人型への対応が遅れ、組み付かれる。


――― ヤベェっ、動きを封じられた!?


 背後に俺の放った炎を纏いながら、犬型が突っ込んでくる。更に熊の方も次の木を投げる。

 魔物の癖に、連携するってアリかよっ!?

 仕方なく刻印を展開しようとすると、それより早く背後で発砲音。

 俺の背後2mまで迫っていた犬型の体を、雷光が貫いて吹き飛ばす。


「ナイス、パンドラっ!!」


 【レッドエレメント】を発動。俺の全身から熱の波が起こり、組み付いていた人型を一瞬で炭にする。後は―――…


「熊、テメエだっ!」


 ちょっとヤバいと思って冷や汗かいちまっただろうが!!

 熊が投げた木を燃やし、その炎をヴァーミリオンで回収しながら、恨みを込めて熊の首を一気に跳ね飛ばす。

 魔素となって飛び散った熊と人型、後には魔石が……残って無かった。


「チッ、妙に強いと思ったらやっぱり魔石無しだったか…」


 ふと変な臭いを鼻に感じて、その臭いの出所を探る。パンドラが雷撃魔法で吹っ飛ばした犬型の魔物。そこには魔物はすでに居なかった……魔物は居なかったが……。


「犬の死体…?」


 パンドラの魔弾で死んだ訳じゃなさそうだ。何て言ったって腐臭がヤバい。死んで何日経ってんだこの死体。

 いや、そもそも何で死体? さっき戦ったのは間違いなく魔物だった。魔物の証であるあの黒いモヤを纏ってたから絶対と断言して良い。

 では、この死体はなんだ? 魔物の中に死体が入っていたって事か?


 なんだろう……凄い嫌な予感がする……。



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