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3-1 2人の旅

 

 亜人。エルフやドワーフ、妖精(フェアリー)や獣人等、人と似た姿をしているが人ではない種族を一纏めにしてそう呼称する。

 亜人戦争。

 約600年前に起こったコッチの世界で言う世界大戦。事の始まりは謎が多く、突然亜人達が人間に牙を剥いたと言う。当初は数や能力で圧倒する亜人達が優勢であったが、ある日亜人達を神の怒りとも言うべき天災が襲った。地震、津波、竜巻、あらゆる天災は人間を護ろうとするかのように亜人達だけを襲い、あれよあれよと言う間に亜人達の戦力は削れていった。しかし、それでも戦争は終わらず、硬直状態が続いたある日、人と亜人が互いへのコレ以上の被害を恐れて停戦協定を結んで、突然始まった戦争は終わりもまた突然だった。


「ってのが、チョロッと調べてみて分かった事だけど、どうよ?」


 月岡さんとの話で“亜人戦争”というキーワードがどうも引っかかっていた俺は、ダロスや、ソグラスでそれとなく情報収集をしてみたのだが、その結果がコレである。

 後ろを歩く、メイド姿の7割ロボのサイボーグ娘に反応を窺う。


「はい。情報の断片(フラグメント)が足りないように思われます」


 いつも通りに無表情に答えを返して来るパンドラ。

 今日は髪型を編んでいて、ちょっと凝ってるな…。このまま行ったらそのうちドリルみたいな巻き髪とかやりだすんじゃなかろうか…? 巻く時に使うコテとかないから、無理か。


「だよなあ…亜人がなんで戦争吹っ掛けて来たのか? とか、亜人だけを襲う天災とか、あやふやな部分が多いもんなぁ」


 まあ、前者はともかく、後者については想像が付いているけど。


「亜人を襲った天災って、もしかして魔神の力じゃねえかな?」

「マスターの推測を肯定します。600年前の魔法技術では、天災クラスの事が出来たとは思えませんので、必然的にそのような事が出来たのはマスターのような魔神の継承者の力しかありえません」

「そうだな。まあ、もしかしてしたらトンデモない力を持った例外とか居たかもしれないけど、魔神の力が振るわれたって方がシックリくる」


 でも、そうなると1つ疑問がある。

 皇帝は≪赤≫の事を亜人戦争で人を裏切ったって言ってた。亜人を襲った天災が魔神の力なら、当時の継承者は人の味方だった事になるんだが……。皇帝が嘘ぶっこいたって事も有り得るけど……うーん…どうだろうな? やっぱり、情報不足感が否めねえな。


「ダメだな。やっぱり一般人から聞けるような情報だけだと、虫食いが多過ぎる…」


 亜人戦争は、パンドラの眠っていた遺跡―――あの研究施設っぽい建物が見つかった時代とも重なる。だとすれば、パンドラの製作者の目的もそこに何かしら関係している可能性が高い。パンドラをこうして連れ歩いている以上、その“目的”の手助けが出来れば…とも思うが、全然情報が足りないや。

 まあ、地道にピース集めしてこのパズルは完成させるしかなさそうだ。

 にしても―――…。


「森広いなぁ……」


 ソグラスを発って4日目。

 2日目に森に突入したのだが、未だに抜けられない。ユグリ村を囲む森も相当な大きさだったが、こっちの森は半端じゃねえな!? もう、ウンザリしてますよ正直!!


「マスター、魔物が」

「…知ってる」


 進行方向斜め右から、黒いモヤを纏った熊っぽいのが走って来ているのは、【熱感知】でずっと前から気付いていた。

 ポーン級…じゃねえな? 多分ビショップ級の上位。パンドラに任せても問題ないとは思うが、森の中は射線が取り辛いからな、一応俺がやるか!


「パンドラ、荷物頼む」

「はい」


 背中の荷物をパンドラに渡し、腰に差したヴァーミリオンを抜き、一応他にも魔物が居ないが辺りを警戒しつつ歩く。

 距離が5mを切ったところで熊の体を【魔炎】で発火させる。同時に跳躍、三角飛びの要領で間にあった木を避けて、全身に火が回った魔物の脳天に深紅の刃を捻じ込む。


「じゃあな」


 ヴァーミリオンの中に溜めた熱量を3分の1くらい解放。体の内と外を同時に焼かれ、熊の体が爆発したように黒い魔素を撒き散らす。

 魔物に着いていた火は消えたが、火の粉が飛んでいて森が火事にならないように辺りの熱量を常温になるように回収する。コレでヨシっと。

 ヴァーミリオンを鞘に戻して、魔石は腰の袋に入れる。


「マスター、お疲れさまでした」

「疲れる程の運動じゃねえけどな」


 言いながらパンドラから荷物を受け取って背負い直す。

 歩行を再開しながら、魔石を入れた袋に触れて大きさを確認する。まだ、パンパンと言う程じゃないけど、それでもかなりドッサリ入っている。

 パンドラの魔石袋も俺と似たり寄ったりな状態だ。


「この森、エンカウント率高くね…?」

「ソグラス周辺に比べて、若干ですが魔素が濃いようです」


 ああ、確かにそうかも。【魔炎】で火を点ける時に、いつもより火が大きいし、発火させやすい。

 俺としては火が使いやすいし、パンドラとしては魔力の補充がしやすい。でも、その分魔物が生まれやすくて、強い魔物も出やすい。一長一短…。まあ、この程度の魔物の強さなら俺達にとっては誤差でしかないけど、森を通る商人やらにとっては堪らんだろうなあ。


「そういや、森の中でたまに出る魔石を持ってない魔物はなんなんだろうな? この森特有の奴か?」


 陽が落ち始めた頃にフラッと現れる魔物の中に、魔石をドロップしない魔物が数匹居た。見た目は様々で、人型、獣型、虫型。全てに共通して言える事は、他の森の中の魔物よりも若干だが強い、って事くらい。俺の見立てではアーマージャイアントよりは下だから、多分ナイト級の白くらい。それでも、一般人では秒殺されるレベルの魔物だ。


「わかりません。ですが、核を持っていないという異常性については警戒すべきかと」

「わかってる。それに…」


 なんか、エンカウントした時に妙にビリビリしたって言うか…なんだ、上手く言葉に出来ないけど、あの程度の魔物に俺の中の警戒心が反応したって言うか…嫌な感じがしたって言うか…。


「なんでしょうか?」

「いや、パンドラの言う通り、戦う時は注意しよう」

「はい」


 まあ、パンドラなら俺が言うまでもなく戦う時には最大限の警戒をしているだろうから、それほど心配してないけどな。


「で…この森いつになったら終わるんだろうな」


 突然だがコッチの世界の舗装技術は、現代人の俺が見たら、そりゃもう目も当てられないレベルだ。とは言っても道が舗装されているだけでも有り難いってのは当たり前の話で、その道を歩くだけで次の町に辿り着けるだけでも旅人には代えがたい価値がある。


「パンドラ、凄く重大な話があるんだが聞いてくれるか?」


 出来るだけ相手に事の重大さが伝わるように顔を引き締めて声のトーンを落とす。


「はい」


 俺の真剣さが伝わったかどうかは分からないが、いつも通りの無表情で答えるパンドラ。うん、イマイチ伝わってる感じがしないけど、パンドラはいつもこうだから、まあ良いか。


「うん。緊急かつ今後に大きく関わる話だ」

「はい」


 溜めを作るように一回深呼吸。


「道に迷った」


 舗装された道は偉大だ。その道を歩くだけで次の町に辿り着けるのだから。

 森の途中でその道が途切れた途端にこの様だよ!!


「はい。だと思ってました」

「そうだろう予想外…えっ!? 気付いてたの!?」

「はい。半日程この辺りをグルグルしていたので」

「しかもグルグルしてたのかよっ!? どーりでさっき見た景色だと思ったっ!! マズイな…冗談なしに遭難してるぞ俺等…」

「そうなんですか」

「こんな時に初めてイカしたジョーク言うな、絶望感が増すわ」

「ジョークではないのですが」


 こうして今日も森の中での夜が近くなる―――…。



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