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2-23 邂逅 ~ 炎使いとピンク頭 ~

 挨拶代わりに死ねとは、また意味不明な事を言いやがる。

 挨拶代わりって事は、「これからもヨロシクね」って意味であって、それに続く言葉が死ねっておかしいだろ? うん、おかしいね、俺の常識は間違ってないよね?

 なんて現実逃避してみたところで俺の現在の絶望的な状況は変わっていない。

 俺自身はもうまともに動けない。取り囲むのは、俺が必死こいて戦った2匹と同レベルかそれ以上の凶悪で醜悪で凄まじい力を持った魔物達。

 ヤバいぞコレ…。逃げようにも、足がマジで動かねえ。疲労とダメージのせいもある…けど、怖くて足が動かない…。この魔物達が全員がかりで俺を殺しに来たら、例え万全の状態であったとしても勝利は絶望的だ。


「あらぁん? ボク、怖くて泣いちゃいそうなのかなぁ?」


 ピンク色の髪の女が愉悦に満ちた見下した目で俺を見る。この女、純正100%、生粋のサドか。とりあえずムカつくから一発ぶん殴りてえな。

 いや、バカな事考えてる暇ねえゾ!? 状況打破の良い方法を考えねえとヤバい!


「……この魔物達、なんでお前は襲わないんだ?」

「フフッ、決まってるじゃなぁい。この子達は、私の(しもべ)だものぉ」


 僕…って事は、魔物を使役してんのか? 魔物を操る事が出来るスキル持ち…って事だろうか?

 そこで、不自然にダロスに現れたインフェルノデーモンと、同じタイミングでソグラスを襲った巨大なミミズ…この2匹に対して初めて疑問を感じた。そして、その疑問の答えが、この女なんじゃねえのか…?


「おいっ、まさか、ダロスとソグラスを魔物に襲わせたのはお前かっ!?」

「えぇ!? 今頃言ぅのぉ? もっと先に気付いて欲しかったわぁん」


 楽しそうにクスクス笑う。


「…何、笑ってんだ……」

「なぁに?」

「テメエのせいでっ、どれだけの人が死んだと思ってんだっ!? ソグラスの町をこんなにして、何考えてんだっ!?」

「あははははははっ、やぁーだぁー、そんなに大声ださないでぇん」


 女が更に高らかに笑うと、俺を嘲笑うように周りの魔物達もそれぞれに肩を揺らしたり口を開いたり笑いだした。

 ふざけんなよっ!! 何がおかしいんだっ!?


「大体ダロスとソグラスだけじゃないわよぉ」


 ………は?


「私が魔物を置いて来たのはぁ4ヶ所よぉ。ルディエとぉ、ソグラスとぉ、ジェレストとぉ、それとダロスねぇ。ルディエで生まれた≪赤≫の継承者がぁ立ち寄りそうなぁ、目ぼしい町を狙ったぁって訳ぇ」


 ……コイツの狙いは、俺……? じゃあ、コイツに魔物を仕向けられた町は、全部そのとばっちりを受けたって事か?

 ソグラスの町。活気で満ちていた、元気で賑やかなお祭り騒ぎのような町だったのに、今は瓦礫が広がる廃虚だ。これも、全部…俺のせい…?

 皇帝の最後の呪いの言葉が頭の中でリフレインする「お前は…戦いの……中心に…立つ……近しい者も…大切な…者も……何もがも…巻ぎ込んで」。皇帝の言葉通りに、俺の戦いに関係ない人達が巻き込まれてしまった。俺が望んだ事じゃない、それは断言できる。けど、巻き込まれた人にはそんな事関係無い。無関係な俺の事情で危険な目に遭い、死を与えられた人だっている…。

 コレが、チートな力を持った事への代償なのか? なんで、その支払いが俺じゃなくて関係無い人達に振りかかったんだ。


「やぁーだぁー、ボク泣いてるのぉ? そんな顔見せられたらぁ、もっと苛めたくなっちゃうじゃなぁい」


 女の意思を受けて、魔物達が動く。

 戦う力は残っていない。逃げようにも足が動かない。抗う術はもう何も無い。

 魔物達が攻撃を始めれば、俺の命は30秒も持たないだろう。でも、もうそれで良いんじゃないのか? 今回の件でどれだけの人を巻き込んだんだ? この先旅を続ければ、同じような事が起きないとも限らない。その時は、もっと大きな被害を出す事になるかもしれない。その死んだ人達に俺はなんて詫びるんだ? そんな可能性を受け入れて旅するのをロイド君も望むのか? だったら、いっそここで―――…。


「随分な様だな? ≪赤≫いの?」


 低く重い口調の、透き通るような女の声。

 誰、だ?

 瓦礫の陰から、真っ黒な革製のローブ…じゃないな、袖がない。ポンチョ…か? を着た女がコチラに歩いて来た。

 身長はパンドラより少し低いくらい、多分165~170cm。顔の上半分を隠す陶器のような質感の真っ白な仮面…オペラマスクって言うんだっけああ言うの。マスクに隠し切れない下半分は浅黒い肌に、艶のある厚い唇。

 ポンチョの隙間から出た赤茶の混じった銀色の髪を鬱陶しそうに仕舞いながら、少し離れた所で立ち止まる。


「あらぁ? 誰かしらぁ? パーティーに参加するなら招待状を持ってないとねぇん」


 魔物達のうち数体が、俺から向き直り仮面の女に向かう。

 ヤバい、1体だって普通の人間にどうこう出来るレベルじゃないんだぞコイツ等!?


「逃げろっ!!」


 俺が大声で叫ぶと、仮面の女は言葉を制するように手の平を俺の方に向け。


「無用な心配だ。貴様は自分の体でも心配していろ」


 なんなのこの女!? すげえ、偉そうっ!?


「スマンがパーティーの招待状は持っていないんだが?」

「じゃぁあ、残念だけどぉ、参加は認められないわぁ。強制排除させて貰うけどぉ、文句はないかしらぁ?」


 魔物が一斉に仮面の女に飛びかかる。

 炎を浴びせて時間稼ぎだけでも出来ないかと、ヴァーミリオンを振ろうとした瞬間。


「バカバカしい……」


 溜息交じりに言葉を吐くと、仮面の女はフラリと動き出し、目の前に迫っていた王冠を頭に載せた多腕の巨人型の魔物の―――


――― 心臓部を手刀で貫いた。


 はい? え? 今…え? 早過ぎて腕の動き見えなかった…ってか、あんな簡単に体ぶち抜けるもんなの…?

 しかし、動きはそれで止まらず、魔素が散り始めた巨人の体を掴み、空中に居た大きな鳥のような魔物に投げる。グシャリッと鳥の方の体が変な折れ方をして地面に落下した。


「門番と衛兵を蹴倒して参加する事になるが、問題ないか?」


 仮面の女に凄まれて、ピンク髪の女の顔が初めて引きつる。慌てて笑顔を作り直すと。


「さあ、子供達ぃ! そのぉ仮面女を八つ裂きにぃしちゃいなさぁい!」


 俺を囲んでいた魔物達が動く。今度はさっきのような脅しを掛けるユックリな動きではない、完全に敵を殺す為の戦闘の動き。刻印展開してる俺でもうち何体かの動きが速過ぎて追えなかった。

 だが、仮面の女は焦った様子も無く、チラリと俺に視線を向ける。

 なんだ、今の視線?

 俺に見せるように、褐色の肌の右手を前に差し出す。


「赤いの、良く見て置け」


 …?


「“我に力を”」


 え!? 今の、刻印を出す時の―――


 そして、仮面の女の褐色の肌に黒い光が走る。描き出されのは、俺の体に出ているものと全く同じ、魔神の力の証たる刻印。

 いや、でも、刻印の色が俺のは赤だけど、あの女の刻印は黒い……【黒ノ刻印】…。

 そうか、あの仮面の女が強いのなんて当然じゃねえか。アイツは、俺と同じ原色の魔神の力を持ったーーー継承者だ!?



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