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2-22 炎を統べる者

 全長100mの巨大ミミズが俺の目の前に居る。

 アッチの世界でこんな事を言ったら、間違いなく頭の病院に直行だろう。だが、残念ながらコッチの世界にはその怪物が実在してしまう。

 こんなビルみたいな魔物なら、体を揺さぶるだけでも町は壊滅だろう。

 耐久性もヤバそうだ。この大きさなら、普通の人間の攻撃や魔法なんて爪楊枝で刺されたようなダメージにしかならないだろうし。

 正直このサイズと戦うのは、戦隊ヒーローのロボか、ウルト●マンの仕事だと思うんだが、都合良くそんな物がこの場に居てくれる訳もなく、比べると豆粒以下の俺が1人で相手をするしかないのですよ。

 ……まあ、ソグラスをこんな滅茶苦茶にしてくれた、このド腐れミミズ野郎を他の奴に譲る気なんてねえけどな。

 体の半分程を地面に突っ込んだまま、巨体を折り曲げるようにして口を開くミミズ。口の中は真っ暗で、宇宙番組で観たブラックホールを思い出させる。

 でっけえ口だなあ…。あの大きさなら家でも丸呑みできそうだ。で、何で口開けてんだ? 俺を食べようってか? お前が食ったって俺のサイズじゃ腹の足しにもなんねえぞ?

 そもそも―――


「鬱陶しいんだよっ!!!!」


 口の中に、さっき崖を飛び降りながら編み出した、お手製ボムを投げ込む。

 緩い軌道で炎の塊が口の中に吸い込まれていき、体の中を転がって行くのが【熱感知】で見える。

 さーて、後3秒、2、1、0。


――― 爆発


 圧倒的な熱量が体の中で破裂し、ミミズの体内を焼く。いや、それだけでは済まない。外へ広がろうとする爆発の衝撃が魔物の体を内側から食い破る。爆発した部分に小さな穴が空き、ミミズの口からゲップのように爆発の余波が漏れる。

 このお手製ボム、強力だけど扱いが難しいな。ヴァーミリオンでも爆風は回収出来ないし、町中でバカスカ爆発させたら危な過ぎる。

 今のダメージで怒り爆発したようで、体をクネらせながら(気持ち悪い)俺を押し潰そうと突っ込んでくる。

 デカイ…マジで山が迫って来てるような圧迫感。

 まあ、それがどうしたって話だが。

 【レッドエレメント】で放出した熱量を、全部ヴァーミリオンに食わせてストックしつつ、迫って来るミミズに向かって走り出す。

 瓦礫を踏み台にして跳躍。それでもせいぜいミミズの大きさの半分くらいまでの高さ、丁度いい所に飛んで来た餌を食べようとミミズが大口を開ける。

 その瞬間を狙ってヴァーミリオンを振り下ろし、内に溜め込んでいた熱量を全部ミミズの口の中に捻じ込む。


――― ミミズの体の3分の1が焼滅した。


 地上に出ていた部分のほとんどが一瞬で消えさった。

 【レッドエレメント】は単体でも強力なスキルだが射程の短さと持続力の無さが弱点だ。だから、その瞬間火力をヴァーミリオンで溜めて撃ちだす事で更に凶悪な威力にした一撃。耐性がない奴が食らえば、ほぼ即死級のダメージを約束するまさに必殺の攻撃。……と思ったけど、このミミズまだ生きてるな? これじゃ必殺は名乗れそうにねえや。

 それどころか、ジワリジワリと体が元に戻ろうと再生を始めている。皇帝の【自己再生】を見た事があるせいか、特に驚く事もなく、それどころか。


「再生…おっそ……」


 思わず誰にともなく呟いてしまうような、お粗末な再生能力だった。…いや、もしかして本来の自己修復系の能力の性能ってこんなもんなのか? 皇帝の即時再生が異常過ぎるってだけで…。

 とりあえず、元通りになられても困るので、地面から生えてる丸太のような状態になっているミミズの胴体に【魔炎】で火を撒いて置く。

 地面の下で、焼かれて暴れているのか大きな振動が続く。さっさと仕留めないとこりゃ被害が大きくなりそうだな。

 このデカイミミズは凶悪だ。普通の人間が束になっても大き過ぎてまともな戦いにならない。町に現れれば壊滅は免れず、かと言って防壁を用意しても簡単に突破される。土の中を移動するので目視での警戒も出来ない。

 そう、このミミズは災害と同レベルの存在だと言って良い。……と言うのが、普通の人間の視点で見た場合の評価だ。

 では、俺にとってこのミミズはどんな魔物か?


 図体がでかいだけの雑魚。


 インフェルノデーモンのような特殊な防御能力が有る訳でもなく、皇帝のような魔法や近接を使い分ける訳でもなく、コイツだけの特別な攻撃方法を持っている訳でもない。ただただ大きいと言うだけの魔物。

 俺が雑魚と判断した1番の理由は、コイツが炎熱に対して何の防御も耐性も持っていない事だ。正直、これならインフェルノデーモンの方が格段に強かった。


「さて、そんじゃあ、さっさとトドメを―――」


 その時、苦し紛れに…いや、地中で焼かれる事に耐えきれなくなったのか、炎に巻かれたミミズの残り3分の2が這い出して来た。

 ウザいな…。今も瓦礫の下で助けを待ってる人が居るかもしれんのに、その無駄にデカイ体でのた打ち回られたら、それこそだ。

 だから、コイツの体が地面から全部這い出る前に殺す!

 ヴァーミリオンを握る手に【レッドエレメント】を発動して直接熱を流し込む。さっきの一撃は町の中だからって溜めを少なくしてたからな。今度は、確実に全身塵も残さず焼き殺す。オーバーキルになっても、放射する熱量はヴァーミリオンの【炎熱吸収】で回収すれば良いから問題ない。

 さっき持ったばかりの愛剣を1度クルリと回し、改めて強く握る。本当に手に馴染むなこの剣は…。握っていると安心感さえ覚えてしまうくらいだ。もしかして、俺じゃなくて、俺の中の≪赤≫が安心してるのかもな。


「行くぜっ!」


 走る。

 ダロスからここまで随分無理をしたせいか、体中が痛い。特に足は痛すぎて、ちゃんと動いているのか自信が持てなくなる。でも、もうちょい持ってくれよ!? せめて、コイツを討つまでは!!

 燃えるミミズの胴体にヴァーミリオンを振る。


――― 次は、さっきのように安い熱量じゃねえぞっ!!


 剣先から放たれる目には見えない、とてつもない熱量の塊。存在が削り落とされるように熱量に触れたミミズの胴体が徐々に消えて行く。

 熱波が周囲に散らないようにヴァーミリオンで吸収し、それをもう一度ミミズに向かって叩き付ける。

 熱の塊は、一直線にミミズだけを焼滅させていく。無駄な破壊は一切ない。その姿は、まるで1本の研ぎ澄まされた槍のようで、我ながら惚れ惚れする性能と破壊力だ。…まあ、全部ヴァーミリオンあればこそなんですけどね…。

 10秒と掛からずにミミズの巨体は、文字通り焼滅した。残った物はたった1つ、瓦礫となったレンガの通りに転がった野球ボール大の魔晶石だけ。


「終わったー……」


 ああ、シンドかったぁ…。

 魔晶石を回収した途端に、足から力が抜けて地面に倒れ込む。足の痛みが酷過ぎてガクガクと軽く痙攣を起こしている。こりゃ、一回寝るなり気絶するなりして【回帰】発動しないと立てねえな。

 1日に2度クイーン級との戦闘はやっぱ辛いな…。いや、2回戦目は楽だったけど、この町に辿り着くまでの過程で疲れたから、やっぱシンドイわ。

 ここで倒れてる場合じゃねえ、早く瓦礫の中から皆を助け出さなきゃ…とは思うのだが、やっぱり体が動かねえな。

 いっそ、素直に一回ここで寝ちまうか? と俺が思い切った策を実行しようかと迷っていると、誰かが俺の方に歩いて来た。

 誰だ? 月岡さ―――じゃねえな。あの人、足に木材刺さってたから、あんなにシッカリした足音立てて歩くのは無理だ。じゃあ、生き残りの人か。と思って上体を起こして足音の方に目をやると―――


「あらん。ボクが≪赤≫の継承者なのねぇ」


 濁ったピンク色の髪の女が、背筋が寒くなるような嫌な笑顔を浮かべて俺を見ていた。

 ちょっと待て、今コイツ≪赤≫って言った? って事は、少なくても原色の魔神の事を知ってる!? 誰だ、この女? 最初に思いつくのは―――皇帝の言っていた……。


「テメエ、魔神の力を狙ってる連中の仲間か!?」

「あらあら? 私達の事を知ってるなんてえ、話が早いわぁん」


 クスリと笑いながら、舌舐めづり。

 嫌な予感がした。いや、違うっ、ヤバい予感だ!?


「本当わぁ、様子見だけのつもりだったんだけどぉ、こうして会っちゃったんだもの。挨拶代わりにぃ」


 女がパチンっと指を鳴らすと、女の影の中から何かが飛び出す。

 真っ黒なフルプレートを纏い、骨の馬に跨った騎士風の魔物。

 頭に王冠を乗せた筋骨隆々な8本の腕を持つ巨人型の魔物。

 空中で楽しそうに踊る、顔だけの幽霊タイプの魔物。

 他にも、魔法使いっぽい魔物、巨大な虫っぽい魔物、大きな羽を広げて威嚇して来る鳥型の魔物。

 数え切れない魔物が俺を囲むように現れた。

 ヤバい…まともに俺が動けないってのもヤバいが、この周りの魔物…多分全部クイーン級以上の、化物クラスの奴ばかりだ…。全員、威圧感がマジで洒落にならないレベルでヤバい…!!


「死んでぇ、頭首へのお土産になってねぇん」




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