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世界は変わる

 世界は救われた。

 長い長い年月の間、歴史の裏側で運命の糸を操っていたジェネシスは消え、1週目の世界と同じ“終わり”を迎える危険は無くなった。

 しかし、それを喜ぶ者は少ない。

 そもそもの話、魔神との戦いを知る者が少ない。実際に最終決戦に参加した者達と亜人達、それとかつて≪黒≫の継承者であったルナ。それ以外の一般人にとっては、何事も無い、いつも通りの一夜であった。

 夜が明け、新しい1日が始まる。

 いつもと変わらない1日。

 いつもと同じように過ぎる1日。

 農家達が畑を耕し、パン屋は粉を引き、漁師は船に乗り、冒険者達は依頼を求めて歩き、男を待つ女達は家事をする。

 世界中に“日常”が溢れていた。

 その日常を守る為に、知らぬ所で、誰が、どれ程の血を流して消えて行ったのかも知らずに…。



 戦いが終わって夜が明けた―――。

 その後、ユグリ村に戻った一同は、眠らずに待って居た亜人達に戦いが終わった事を告げ、軽めの朝食を食べた後に全員泥の様に眠った。

 ほぼ雑魚寝の状態であったが、不平を言う間もなく皆眠りに落ち、陽が天辺を越えるまでまったく起きる気配はなかった。そのあまりの眠りっぷりに、どれ程壮絶な戦いであったのかと心配して時々様子を見に来ていた亜人達は戦々恐々していた。

 昼過ぎ―――最初にパンドラが目を覚まし、その後順々に女性陣が起き出し、午後2時頃に待ちきれなくなった女性達に起こされてアスラとガゼルが起床。

 遅めの昼食を食べた彼女等に、その体から離れた精霊達は語る。

 最初に、命を賭してジェネシスと戦ってくれた戦士達への謝辞とお礼から始まり、そして語る…これから先の、世界の変化を―――。

 世界を滅ぼす事が確定しているジェネシスが消えた事は間違いなく世界にとってはプラスの事であった。

 しかし、それとは別の部分でジェネシスが居なくなった事で世界も変化を余儀なくされる。

 “2つ目の創世の種(ジェネシス)”が消えると言う事は、そこより生まれた物も力を失うと言う事だ。

 つまり―――魔素と神器は、いずれ世界から消える。

 とは言え、どちらも今すぐに…と言う話ではない。

 神器は徐々に力を失い、いずれコクーンに戻る事もなく形を失って砂に還るだろうが、それも恐らく何十年も先の話だろうと言うのが精霊達の見解だ。

 そして、世界にとって大きな問題となるのは魔素の方。

 魔素が消えると言う事は、同時に人から魔力が失われる事を意味する。それは、魔法で文明を築いて来たこの世界にとっては一大事どころの話ではない。異世界で言えば、電力が無くなった事に等しい程の大騒ぎだ。

 ただ、悪い点だけでもない。魔素が無くなる事で、そこから生み出されていた魔物が居なくなるので、格段に世界は平和になる。

 しかし、それも良い事、と一概には言えないが…。

 魔物が居なくなれば、その核である魔石も取れなくなり、魔石を動力とする世界中に有る魔導器がただのガラクタになってしまうからだ。

 長期的に見れば、魔物退治の仕事を(おも)とする冒険者もいずれは廃業する事になるのも放置できない話だ。

 精霊達曰く、今有る魔素が消費されるまでおおよそ50年ほどらしい。

 世界はその50年の間に、魔法の文化を捨て、新しい別の世界の基盤となる物を見つけなければならない。

 ただ、真希によれば西の大国では蒸気機関の雛型がすでに形になりつつあるようで、いずれはこの世界も、真希やかぐやの世界同様に機械文明の発達した世界になるのではないか―――と言うのは彼女等の予想である。

 それと亜人達の事だ。

 亜人はユグドラシルの結界を維持する為に存在し、無条件にその命を吸い上げられていた。しかし、その結界もユグドラシルもジェネシスによって破壊された事で、その使命は終わりを告げた。

 これから亜人は、今まで以上に長命になる―――かと思われたが、精霊王が言うには、使命が終わった事で亜人の特徴や特異性は失われて、世代を重ねるごとに人間に近付いて行くだろう、との事だ。



 人も、亜人も、世界も、これから先は変化していく。

 その変化が良いのか悪いのか、それは未来にならなければ分からない。歴史を創る神は、もう存在せず、世界の未来を指示す(しるべ)は無いのだから。

 ここより先は、世界に生きる者達が道を選び、手を取り合って歩んで行く。

 少しでも未来が良くなるように願いながら…。


「ねえ?」


 かぐやは、精霊達の話の途中であるにも関わらず、横に居た銀色の髪の少年に声をかけた。

 何か重大な話でもするのかと精霊達も黙り、話を聞いていた皆の視線がかぐやと少年に注がれる。

 当の少年は、無言のまま「何?」と聞き返す視線をかぐやに向ける。

 

「なんで―――」


 聞かずには居られなかった。

 横に座る銀色の髪の、少し気弱そうな少年に、どうしても聞かずには居られなかった。

 今ここで聞く事ではないのかもしれない。

 聞いたところで何かが変わる事も無い。

 きっと、今から口にする質問は何の意味もない、ただの時間の無駄だ。

 それを分かっていても、かぐやは聞かずにはいられない。

 だから、訊いた。


「なんで、またその姿になってんの?」

「ほっとけバーロー」


 少年(アーク)は、面倒臭そうに溜息を吐いて不機嫌に答えた。




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