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14-52 最後の……

「で?」


 良太とロイドの感動の再会…ならぬ出会いの余韻を味わう間もなく、かぐやがそう訊いた。……とは言っても「で?」と一文字で訊かれても内容を理解出来る訳もなく、素直に良太は訊き返した。


「で? って、何が?」

「リョータとロイド君はなんで2人になってんのって話よ」


 言われて良太とロイドは顔を見合わせる。


「元々2人ですけども?」

「そうですね」

「いやっ、違くて!!? なんで唐突にリョータが元の体に戻って、ロイド君が蘇ってんのって話でしょ!?」

「「あ、はい」」


 かぐやの剣幕に押され、揃って一歩後ずさる。

 気弱なロイドも、強気な幼馴染には強い耐性があるようで、ビビって良太の後ろに隠れるような事はなかった。

 パンドラやフィリス達もかぐや同様に気になっているらしく、無言のまま視線だけで急かしている。

 皆からしてみればロイドは見慣れたアークの姿だが、ロイドからしてみれば全員初対面だ。そんなロイドに説明役をやらせる訳にも行かず、良太は率先して説明をする事にした。


「ジェネシスの奴がユグドラシルを()し折ったすぐ後くらいに、ロイド君が急に目を覚ましてさ」

「え? 急に?」

「急や」

「あっ、ええっと…実は目を覚ましたのはもっと前だったんです。でも、リョウタさんが気付くと気が散ると思ったので静かにして居ました」

「ああ、そうだったん? 全然気付かなかった」

「気付かれないように頑張りました」


 意識の奥で静かにしているのは得意です、と胸を張るロイドに対し、少しだけ良太の心が痛んだ。

 説明が止まった良太に、ガゼルが先を促す。


「それで、その先は?」

「俺は、そこで意識が遠くなって…気付いたら“ひび割れ”の向こう側にあった自分の体に戻ってた。その後は原初の火でひび割れを広げて出て来たって訳」


 良太の方の説明は終わった。ロイドの方の説明までは流石に出来ないので、その先は相棒に任せた。


「えっと、ですね。ユグドラシルが破壊された時、僕の体は『もうダメだ』って思ったんです。精霊様達の力は残っていても、刻印のせいでまともに戦えないですし…。だから、せめて良太さんは自由に動けるように、と思って」


 良太が元の体に戻る為には精霊王の力が必要だった。しかし、今その力の全てはロイドの体へと手渡されている。つまり、現状ならばロイドの力で良太を元の体に戻す事が出来る。

 説明を受けて、良太が少しだけ苦い顔をする。


「いや、でも、それって俺の体が近くに無かったらアウトだったんじゃん? 下手すりゃそのまま行き場を無くして精神だけ成仏してた可能性もあったんじゃね?」

「それは、まあ…。でも、リョウタさんなら多分なんとかしてくれるだろうと、きっと」

「………君ってそんな無茶するタイプの人でしたっけ? むしろもっと堅実なブレーキ役かと思ってたんですけど…」

「誰かさんの影響ですよ」

「誰だその傍迷惑なバカは」

「「「「「「「リョウタ(マスター)(貴方様)(お前)(アンタ)(レッド)以外に居ないでしょ(だろ)」」」」」」」

「あっ…はい、スイマセン…」


 パンドラの時もそうだったが、良太自身も無理無茶をしている自覚はあるが、それを他人に指摘されると妙にダメージが大きい。しかもそれを他人が真似していると言うのがダメージを倍化させる。

 良太が心の中で「もう少し自重しよう…」と誓っていると、頭の中に声が響いて来る。


『父様?』


 聞き間違える筈も無い白雪の声。

 頭の中に響く声はいつもの事で驚く事もない。


『何?』

『声に出して下さいませ』


 なんだそりゃ…と思いつつも、可愛い“娘”のお願いを無下には出来ない良太だった。


「呼んだか?」

「何よ急に。呼んでないわよ」

「オメェじゃねえよゴリラ」


 無言でかぐやが良太の尻を全力で蹴りあげた。


「ぃったぁああッ!!?」

「やっぱりリョータはその姿が1番ね。気がね無く蹴れるわ」

「……まず蹴んなや…」

「リョータがバカな事言わなきゃ私だって蹴らないわよ」


 幼馴染同士のいつも通りのやり取り。

 良太が尻を大袈裟に擦っていると、白雪が少し遠慮したような動きでパタパタと飛んでくる。ホバリングで良太とロイドを見比べて、ロイドが自分の思念に対して反応していない事を確認し、改めて良太の前まで蝶のような羽を羽ばたかせる。


「父様…ですの?」

「ああ。まあ、見かけはアレだけどな?」


 良太が手の平を差し出すと、素直に手の上に降りる。だが、やはり不安があるのか羽を畳んで身を小さくしている。

 白雪の不安が思念となって良太に伝わり、それを少しでも和らげてやろうと指先で軽く頭を撫でてやる。良太にしてみればいつも通りの行動。白雪とのいつも通りのコミュニケーション。だが、それで良かった。

 いつも通りの優しい手付きで頭を撫でられ、白雪の体が無意識に警戒を解いてしまう。理性がどれだけ視覚で見た姿を警戒しても、心の奥底まで刻まれている暖かな名付け親の少年との思い出がその全てを無視して無条件に受け入れてしまう。


「父様?」

「ん」


 頭を撫でていた指先で、チョイチョイっと頬を突いてやると、感極まったようにわんわん泣きだして良太の指に抱きつく。「もう2度と放さない!」くらいの必死で愛情が溢れるハグだった。


「父様!!」

「その甘え癖はいつになったら直るんだか…」


 そう言う割に、白雪が現代の思春期の女の子のように良太を避け始めたら、それはそれで途轍もないダメージを食らうのは誰の目から見ても明らかだった。

 良太と白雪がじゃれあう姿を見て、他の面々も納得する。

 かぐや以外の面々にとって“阿久津良太”の姿は敵の姿だ。ジェネシスが使っていただけで肉体的には悪もへったくれもない…と言う事は理解しているが、それでも色々思うところはある。

 だが、今、目の前で白雪に優しい目を向ける少年は、紛れも無いアークだと全員が確信していた。


「あの…」


 フィリスがおずおずと声をかける。一瞬声をかけるのを躊躇(ためら)ったのは、良太と白雪があまりに幸せそうだったからだ。


「どしたフィリス?」


 アークではない声で名前を呼ばれたのに、アークに呼ばれた時と同じ幸福感がフィリスの体を満たす。心の奥底から愛おしさが込み上げてくる。

 フィリスは静かに想う。自分は容姿ではなく、その心と魂の在り方にこれ程に熱く恋しているのだと。


「ぇ…と、あの…ですね…えっと、ああ、えーと…その呼び方なのですが」

「呼び方?」

「は、はい。今まで通り、アーク様とお呼びして宜しいでしょうか?」


 少し困った顔で良太とロイドが顔を見合わせる。

 2人にとって“アーク”は、2人の存在が偶発的に重なった時に現れた幻のような物であり、別々の個に戻った今その名前で呼ばれるのは違和感があった。

 ……ただ、それを正直に口にして申し出を断ると、フィリスがどれだけ落胆するか…それどころか泣きだすかもしれない…と揃って考え、断る事が出来ずに首を縦に振る事になった。


「…まあ……好きにしてくれ」

「本当ですか!」

「ああ、でも俺とロイド君両方その呼び方だと困るから、ロイド君はちゃんと名前で呼んであげて」


 “アーク”の名前で呼び慣れている方が呼ばれる方が良いだろう、と言う良太なりの気使いだった。そしてその気使いは大正解で、横でロイドが安堵の息を漏らした。


「はい、勿論です!」


 フィリスがブンブンと肯定の首振りをすると、その話にガゼル達も乗っかって来た。


「なんだ、アーク呼びで良いのかよ? だったら俺もアーク呼びするからな」

「では私も、暫定的に貴方の方をマスターと呼びます」

「ショタじゃなくなった君に興味はないからどうでもいいや」

「え? って言うか、今更だけど本当にレッドなの!? 冗談じゃなくて? 皆でドッキリしてるのかと思って乗っかってたのに、本当だったの!? じゃあ、コッチのいつもの方のレッドは誰さ!?」


 1人事情を理解していないアスラを、氷のような冷めた目の真希が少し離れた場所に引っ張って行って説明をしだした。

 そんな2人を眺めながらガゼルが言う。


「……にしても、その見かけでお前(アーク)の喋りだと違和感が半端じゃないな?」

「違和感とかいわれても、これが本来あるべき状態だけどな」


 横でかぐやとロイドが「うんうん」と頷く。


「そりゃそうか、まあともかく、無事に元の体に戻れて良かったな」

「どうも。……でも、なんかなぁ…さっきのガゼルの言葉じゃないけど妙に違和感があんだよなぁ」

「え? どう言う事? リョータ、体変なの?」


 幼馴染に心配そうな顔をされて、良太は慌てて取り繕った笑顔で返す。


「はは、そこまでのアレじゃねえよ? 多分、ロイド君の体に慣れ過ぎて、視線の高さとか腕と足の長さとか、そんなところで変な感じがしてるってだけだよ………多分」


 周りから「本当に大丈夫?」な視線を向けられて居心地が悪い。特にかぐや、パンドラ、フィリス、白雪からの視線の中に混じる心配度は相当高くて、良太も思わず視線を逸らしてしまう程だ。

 視線を逸らしたその先に良太は見た。


――― 空間がひび割れるのを


 それが何を意味するのか考えるよりも早く体が危険を感じて反応した。

 明らかに良太に向けられている敵意―――いや、殺意。

 狙われているのが自分だと理解し、手の上に居た白雪をパンドラに向かって投げ、両隣に居たロイドとかぐやを突き飛ばす。

 次の瞬間―――ひび割れの隙間から伸びて来た黒い触手に―――良太は捕まった。

 その触手から声が響く。



『さあ、最後の勝負と行こうじゃないか!』



 触手に引っ張られる。

 周りの誰もが呆気にとられて何も出来ない。良太自身も踏ん張ろうとしたが、あまりの力の差に抗えず……ひび割れの向こう側へと引っ張りこまれた―――…。


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