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14-45 世界の命運を賭けて14

 吹っ飛ばされたJ.R.がビル壁に叩きつけられる。

 砲弾を受けたような衝撃でビル壁が崩壊し、意識を失って動かなくなったJ.R.の上に瓦礫が降り注ぐ。けどまだ【生命感知】に反応がある、死んでない!

 すぐに助けに行きたいが、コッチも人の心配をしていられる余裕はない。

 なんたって、野郎の【事象改変】を食らって誰1人身動き出来ねえんだから…!


「まず1人」


 ジェネシスが呟く。そして、トンっと飛び上がり最後方に居たフィリス達に向かって手を振り下ろす。

 重力の渦がフィリスと真希さんの2人に襲いかかる。


「…!」「ッ…!?」


 アスファルトが砕ける程の衝撃で地面に引き倒され、抵抗する事も出来ずに2人が地面に這いつくばる。

 

「君達の頑張りは我の胸に刻んだよ。だから、もう、散りたまえ」


 地形操作で横のビルを2人の上に来るように傾け、角度がついたところでビルの根っ子を氷の刃で割る。

 フィリス達を押さえつけている重力の波に引かれて、割られたビルが隕石のような速度で落ちて来る。


――― 逃げろ!!


 叫びたいのに口を動かす事すら出来ない。

 震動と轟音。

 ビルが逃げる事の出来ないフィリスと真希さんを押し潰す―――…。


「これで3人」


 【事象改変】の効果を受けている間は何のスキルも魔法も使えない。高速で落下して来るビルを耐える手段は存在しない。

 つまり、フィリスと真希さんは―――死んだ。

 死。

 もうこの世には存在しない。

 人間を蘇らせるような力は存在しない。

 2人の死は確定した。

 食事の時のフィリスの幸せそうな顔が―――真希さんが楽しそうに笑いかける顔―――灰色になって頭を過ぎる。

 頭が2人の死を受け入れない。

 受け入れたくない。


――― 否定しろ!


 受け入れられない現実なら、その全てを否定しろ!

 頭の奥でガチンっと理性で抑えていた何かが外れる感覚。

 視界が一瞬赤く染まる。


 【事象改変】


 全てを(おれ)の世界に塗り替えろ!!

 ジェネシスの書き換えた世界を、更に強く書き変えろ!!


「ぁあ……ああああああああッ!!!!!」


 空間に入ったひび割れが大きくなり、漏れだす赤い光が燃えるように強くなる。

 口が動く、腕が動く、足が動く……俺に一瞬遅れて、止まっていた世界が動き出す。

 フィリスと真希さんを押し潰していたビルの瓦礫……“ビルが倒れた”事実を無効にする。途端に逆再生で瓦礫が巻き戻って元通りに天を突く様な高層ビルが完成した。

 ビルが倒れた事実が無くなった事で、逆説的にその被害で死亡する人間も居なくなる訳で…。


「ぁ…れ?」「どうして?」


 狙い通りにフィリスと真希さんを生存させる事に成功。

 そうか、【事象改変】ってこういうやり方なら過去の出来事に干渉出来るのか。だけど、くっそ頭痛ぇ…。

 数秒前の出来事を無かった事にするだけでこの反動か…。1分前の出来事を無効にするなら多分命がけだな。悪いけど、J.R.の方は無理っぽい。

 頭を押さえて「ぜえぜえ」と死にそうな息を吐く俺を、ジェネシスが興味深そうに観察しながら言う。


「ほう…まさか力技で世界を動かすとは。君はどれだけ能力を上方修正しても足りんな」


 呑気な事を言ってるあの野郎に斬りかかってやりたいけど……頭が痛くて全然集中出来ねえし…体に力が入らん。

 動かない―――動けない俺の代わりにジェネシスに突っ込んで行く奴が1人。


「ガゼル!」


 6枚の羽で空気を切り裂いて飛び、空中で俺達を見下ろすジェネシスに槍を振り被る。


「ぜっぁああああっ!!」

偽物(・・)に用はない」


 虫を捕まえるように槍を掴んで止める。

 クルンッと掴んだ槍ごとガゼルを回転させ、地面に向かって空間を割るような蹴りで叩き落とし、即座に腕を回して空間を巻き取る。

 ジェネシスの周囲3mの空間が捻じれ、歪み、手の中に圧縮される。


「御退場願おうか?」


 衝撃が奔り抜ける。

 目に見えない力。目に見えない速度。

 有り得ない力。有り得ない威力。

 竜の波動(ドルオーラ)が風に吹かれる枯葉のように吹き散らされる。

 攻撃の直撃を受けたガゼルは、錐揉みしながら落ちる―――。羽が千切れる、角が千切れる、腕が千切れる、足が千切れる。


「「「「ガゼル!!」」」」


 噴き出した生温かい血が雨のように降り注ぐ。

 【事象改変】で助けようとしたが、ビキッと頭が痛んで発動出来なかった。


「っつ…くっそ!?」


 自分の使えなさを呪う。

 だが、俺が何かをする必要はなかった。

 地面に落ちたガゼルの体が消える―――と同時に地面が崩れて怪物の口のように穴を開ける。

 その穴から、銀色の竜が飛び出し、光より早くジェネシスを殴り飛ばす。

 巨大な竜の腕でぶん殴られたジェネシスは、流石に耐え切れずに吹っ飛ぶ。


「ぐっ!」


 銀竜!? いや、ガゼルか!?

 完全な竜化はいきなり見せられるとビビる。ってか、あの姿が飛び出して来たって事は、さっきまで戦ってたのはガゼルの分身だったのかよ!?

 体デカイ、その上無茶苦茶早い。

 竜の力って、ぶっちゃけ「余裕じゃん?」とか思ってたけど、極めるとこんなにも早く、強いのかと驚かされる。

 特別な力ではなく、ただただ単純な身体能力の強化もここまで来ると恐ろしい。

 そんな事を1人で思っていると、ガゼルが出て来た巨大な穴から白雪が出て来た。


「父様ー!」


 いつものように顔に張り付いて来た白雪を左手で撫でようとして…気付く。


 左手が動かない―――!


 【魔装】が解けた訳じゃない、黒い籠手は今も左手を包んで居る。それなのに左手に力が入らない。それが意味する物は……左手の身体機能が魔神に喰われて完全に無くなったって事だ。

 【魔装】であっても元々0の物を強化する事は出来ないから。

 ヤバい…! 思った以上にタイムリミットが迫ってるじゃねえか!!?


「父様、どうしたんですの…?」

「なんでもない」


 休んでる場合じゃねえ! 1秒でも早く決着付けねえとマジで詰む!!


「パンドラ!」

「はい」

「白雪の事頼む」

「はい」


 左手はもう使えない。だから、左手は捨てる。

 【魔装】を解除して右手に籠手を張り直す。今まで左手を使えるようにしていた強化値(ブースト)を全部右手につぎ込む。

 そんな俺の行動を見てパンドラとカグが、左手が使い物にならなくなった事に気付いたらしい。そして、それが浸食の刻印が広がったせいである事も…。


「父様…」

「大丈夫だ」


 心配そうに青く光る白雪をパンドラに任せ、日本刀を強く握って飛び立つ。

 俺を追ってカグが空を飛ぶ。


「アホ、お前は下がってろ!」

「誰がアホよ! 私だって戦える!」


 本当にアホかコイツは…! 俺の様子がおかしいと思って心配しての行動だろうけど、お前が着いて来た方がよっぽど危ねぇっつうの!

 なんとか説得を試みようか、それともリスク覚悟でその時間を惜しんで連れて行くか、判断に迷う。

 その迷い、ウチのできるメイドが解決してくれた。

 予備動作もなく重力を操作してカグを地面に引き摺り降ろす。


「ひゃっ! ちょっ、ちょっとパンドラさん!」

「マスターお急ぎ下さい」

「サンキュー!」


 3人を残して空中戦をしているガゼルとジェネシスに近付く。

 光速の殴り合い。

 単純なパワーと速度は竜化したガゼルが微かに上だが、小回りが利き、多彩な異能(スキル)を振り回している分で総合的にはジェネシスが上か。つっても、ジェネシスが【辞書改変】使ってないって事はまだ遊んでるだけだ………いや、俺が来るのを待ってるのか!

 上等!

 巨大な竜の拳を受けてジェネシスが距離を取ったタイミングで突っ込む。

 【オーバーブースト】で最速まで加速―――!

 景色の色が消えて、音が聞こえなくなる。

 ジェネシスの視線が俺を捉える。その目が言う。


――― さあ、決着をつけようか?


 望むところだ!!

 右手に全神経を集中し、ヴァーミリオンを振る。

 刃が交差し、手の中に振動が残る。音と衝撃波が空間に伝わるより速く2撃、3撃と打ち合う。

 剣での攻撃じゃ、どれだけ大きなダメージを与えても殺せない。

 確実な死を叩きつけるには、原初の火で燃やすしかない。だが、ジェネシスには何かの耐性のような物で原初の火を防ぎやがる。真正面から放っても正直に食らってくれない、叩き込むタイミングを待ち…その一瞬を狙え!!

 …つっても、どんだけ速く打ちこんでも、どれだけ強く打ちこんでも全然崩れやしねえ! それどころか斬り合う程崩れるのは俺の方…。

 思った以上に左手を使えないってしんどい…! J.R.の奴、なんであんなに平気な顔でいつも通りの動きが出来たんだ!? (本人的には戦力減らしいが…)

 でも、今は俺1人じゃねえ。1人で足りない分はガゼルが補ってくれる!

 俺が攻撃を弾かれたり、避けられたりして出来た隙を、巨大な竜の体で無理矢理割りこんで防いでくれる。

 時にはガゼルの体に押される形で守られ、時には大きな体を飛び越えてジェネシスに反撃、俺とガゼルでお互いの隙を潰し、絶え間なく攻め続ける。それなのに、切り崩す事が出来ない!!

 ―――けど、押されても居ない。

 【事象改変】を使われても俺が即座に打ち消すし、大抵の攻撃はガゼルが竜の波動を帯びた体で防御出来る。


 1分…2分……


 痺れを切らしたのはガゼルだった。

 大きな尻尾振り―――ガゼルにしては雑な大振り。簡単に避けられて、体を振った反動で体勢が崩れる。

 焦りから出た決定的な隙。

 ジェネシスはそれを逃がさない。

 タイミングが悪い―――俺のフォローが間に合わない!!


 氷の剣が―――竜の波動(ドルオーラ)を紙の様に切り裂いて、その首に刃を捻じ込む。


 ガゼル―――ッ!!!!

 刺さった刃を横に()じって傷口を押し広げる。

 竜の口から悲鳴のような咆哮が漏れたのが、音の無い世界でも分かった。


 赤い血が

 色の無い世界で

 キラキラと

 宝石のように

 零れ落ちる


 死神が―――確実に―――ガゼルの首を―――狙っていた。


 だが、ガゼルは―――其れを狙っていた。


 首に氷の剣を突き刺されたまま、大きな両腕でジェネシスを掴む。それでも止まらず、首を伸ばして腕の中のジェネシスに噛み付く。

 力を込めた事で首の傷から更に血が噴き出すが、構わず腕と牙に力を入れ続ける。

 ジェネシスが予想外の行動に顔を歪める。

 しかし、ガゼルは仕留めにかかったのではない。

 視線が言っている。


――― 俺ごと燃やせ!!


 俺が…原初の火を当てる為の隙を作る事が全て…!!

 ガゼルが自分の命を捨てて作ったチャンス、俺の残り時間を考えても、これがジェネシスを倒す最後のチャンス!!


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