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14-43 世界の命運を賭けて12

 ジェネシスが片手だろうと両手だろうと、俺のやるべき事は変わらない。

 剣と炎で奴を討つ―――!

 意識を集中して間合いを詰める。

 変に距離を開けていると、どんな攻撃が飛んでくるか判ったもんじゃない。例のあの謎の腕を回す攻撃を食らう危険がある事を差し引いても張り付いて戦う方が危険が少ない。それに、ジェネシスに確実にダメージを与えられる原初の火を当てようと思ったら、やはり近接の方が良い……と言うか遠距離から火を投げても当たる気がしない。


「―――ふッ!」


 原初の火を撒いて、ジェネシスの動きをある程度制限する。

 都庁に突っ込んで居た岩石の腕が壁を突き破って復帰して来る。更に後方で重力の拘束を受けていた氷の腕が、一旦自壊して10m程離れた場所で復活。どちらも俺を狙って動いて来る。

 雷の腕を原初の火で消したお陰で腕1本分楽になったが、コッチはJ.R.が下がっているので総合戦力的にはトントンだ。……いや、ガゼルも居なくなってるからむしろマイナスか。

 足りない分はウチの連中で補わせて貰おう。


「エメラルド!」


 岩石の腕の進行を阻むように炎を張り、そこから赤髪の仮面執事を呼び出す。

 いつもの礼儀正しい挨拶をエメラルドがしようとするが、そんな場合ではないのでその前に要件を伝える。


「その岩の腕を近付けるな!」

(かしこ)まりました、お任せ下さい!」


 応じれば早いウチのエメラルドだ。

 即座に反応し、目の前の巨大な岩石の腕に向き直る。


「主様の命により、貴様を排除する!」


 エメラルドの右腕が消失し、空間を割ってビルのような巨大な右腕が岩石の腕を殴り飛ばす。

 アスファルトを削って中央公園の中に突っ込んで行く岩石の腕を追って、エメラルドもトンットンっとバッタのようなジャンプでそれを追う。

 よし、これでアッチは大丈夫。

 氷の腕の方はサファイアに―――と思ったら、それより早くパンドラが突っ込んでいた。止める間もない速度。

 炎熱系の魔弾を撃ちながら、スカーレットの【タイムキーパー】で自身を加速させて一気に距離を詰めて近接に持ち込む。

 ダメだアレ…「やめろ」つっても止まる気ねえな…。こう言う展開にさせない為にJ.R.のお守を頼んだっつうのに…。もう良いやだったら…


「パンドラ、無茶すんなよ!」

「はい」


 それにしても、パンドラってあんな無茶な突っ込みするタイプでしたっけ? 誰かの影響かよ? 誰だそんな迷惑な奴は。


「リョータ、コッチの心配要らないから!」


 風に乗って空を飛んでいたカグが、氷の腕に向かって落雷をお見舞いする。


「アーク様!」「ショタ君!」


 自分達がフォローするから、コッチの事は気にするなって事か…信じましょう!

 周りに向けていた意識を目の前で俺を迎え撃とうとしているジェネシスに改めて固定する。


「行くぞッ!!」

「一々宣言する必要はなかろう?」


 ごもっとも! だが、今のはジェネシスにではなく、自分を鼓舞する為の気合いだ。

 心の中で返しながら剣を振る。

 受け止められる。即座に反撃―――避ける、即座に反撃。

 光の瞬きの中で剣と剣が交差し、炎と冷気と雷が飛び交う。

 音も色も存在しない光速の世界で、俺とジェネシスだけが動いている。いや、正確に言えば皆も停止している訳じゃなく、視認出来ない程ユックリと動いているんだけどな。

 ともかく、この速度の領域で動けるのは俺達だけ……それは良いんだが、剣がぶつかる度に俺の方が一方的に吹き飛ばされるか、体勢を崩される…!

 それに、光速で動くと空気の流れが付いて来なくて呼吸が出来ねえんだよ…!


――― 苦しい……


 けど、今、速度を緩めたらその瞬間にボコり殺される…!

 ≪赤≫から無理矢理力を引っ張り出し、体に無理を強いる。だが、これは…ヤバい…! 左肩の方からジリジリと焼けるような不快感が這い上がって来る。

 魔神の限界を越えた力の行使により、浸食の刻印が一気に広がっているのが自分でも分かる。

 このまま行けば、ただでさえ短いタイムリミットを使い切っちまう!

 焦る程に動きが濁る。

 元々能力差でガンガン押されて居たのに、攻撃にも防御にも隙が生まれて更にダメージが増える。即座に回復出来るとは言え、回復するそばから攻撃を食らうのは宜しくない。

 ダメージが増えて、息も苦しくて、いっぱいいっぱいだ…!

 対してジェネシスはケロッとしているのが腹立たしい。俺に向けて来る視線の中に「大丈夫か? もう終わりか?」と挑発するようなニュアンスが混じっているのが更に神経を逆撫でしてきやがる!

 けど…この状況をどう崩す!?

 このまま行ったら、俺の方が体力やら酸素切れで止まり、その瞬間にぶち殺される。その前に、なんとかジェネシスを崩さねえと!

 だが、この能力差と状況でどうやって―――?

 俺は忘れていた。恐らく、俺と斬り合う事に集中しているジェネシスも忘れている。


――― もう1人、この光速の領域で動ける人間がいる事を


 道路の一角が爆発し、人影が飛び出す。

 ガゼル!?

 6枚の羽を大きく広げた姿は、獣が毛を逆立て威嚇する様その物。

 いつもの理性的な目は地下に置き忘れて来たのか、血走った憤怒の目はエグゼルドと同じだった。

 現れるや否や5本の角に溜められたエネルギーを解放。


――― 終の息吹(デッドエンドブレス)


 色も音も無い世界を、放たれた巨大な光の奔流が突き進んで来る。

 グッジョブ、と言いたいが、位置的にジェネシスに張り付いてる俺も直撃コースでヤバい!!

 しかし、ジェネシスは予想外に現れたガゼルに気を取られて俺から意識が外れる。

 やられながら待って居た、最高の―――好機!!


「死に晒せ!!」


 心の中で全力で叫びながら、ヴァーミリオンを最速で振り抜く。狙いはジェネシスの首!

 深紅の刃が1cm食い込んだところで、ジェネシスが反応して、オリハルコンより硬くなった腕が割り込んでヴァーミリオンを止める。

 けど、これだけ食い込めば十分だ!

 食い込んだままの刃を横に滑らせて抜く。途端に、塞ぐ物がなくなった首の傷から噴水のように血が飛び散る。


――― 王手(チェックメイト)


 【バーニングブラッド】で噴き出した血を【終炎】で発火させる。

 即時再生で塞がりかけていたジェネシスの首の傷が、真っ黒な炎に噛みつかれて燃え出す。

 燃えてる部位を切り捨てる事でさっきは回避されたが、首を捨てる訳には行かねえよなぁ!!?

 悲鳴をあげる間もなく―――あげたとしても光速で動いている状態では聞こえないが―――黒い炎が首から上を呑み込んで燃やす。

 すかさずその背を蹴り飛ばして、すぐそこまで迫っていたガゼルのブレスへと叩き込み、俺自身は転移で攻撃範囲の外側まで逃げる。

 ジェネシスが光の奔流に呑まれるのを確認すると同時に光速の世界から減速して元の速度に戻る。


「ぷっはぁ…はぁはぁ、あっぶな…マジで窒息するかと思った…」


 ブレスの直撃を受けているジェネシスは―――光が止まる。ブレスの放射が終わったのではない、【事象改変】で無効にされた! いや、でもだったらブレスの光が引っ込む筈…!? 中途半端に無効になった状態。

 その止まったブレスの中にジェネシスは居た。

 首から上―――原初の火に呑まれて居た部分は皮膚が溶け落ちて肉と骨が露出し、リアル人体模型のようになっている。……それなのに、首から下は無傷。

 このクッソたりゃぁ!! ガゼルのブレスを使って原初の火に焼かれた皮膚と肉を消し飛ばして、胴体に燃え移る前に消火しやがったっ!!?

 コイツを潰し落とすには、もう一手足りねえってかよ!! ふっざけんなよ!


 その足りなかった一手が降って来た。


「ジャスティスパンチ………」


 ジェネシスの頭上でJ.R.が残った左腕を振り被って居た。

 神器の無くなった今、本当にただの人間……なのに、ただの人間が、修復中で意識が散漫になっているとは言え、ジェネシスの知覚を擦り抜ける程の速度で飛び込んだ。

 今ジェネシスに突っ込めばブレスの巻き添えを食うのだが、そんな物はお構いなしに、ただただ全力の拳を振る―――


「エヴォリューション!!」


 雲の隙間から太陽光が差し込むように、大地を貫く光と、それを纏う拳が、世界を滅ぼす魔神の体を粉々に砕いた―――…。


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