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14-40 世界の命運を賭けて9

 ジェネシスがどれだけ反応が速かろうと、どれだけ防御が硬かろうと、掴んだ状態からの直接発火は逃げ道がない。転移で逃げるって手はあるが、俺なら転移先を先読みして光より早く炎をばら撒けるので、むしろそうしてくれた方が確実に叩き込む事が出来る。

 コッチは可愛いゴールドを囮にしてんだ。このチャンスを絶対に逃がすな…!!

 引き剥がされないように命一杯の力でジェネシスの腕を握り、俺の持ち得る全ての発火能力を総動員して様々なエネルギーを手の平から発する黒い炎の燃焼力に変換する。

 燃える―――。

 燃える―――。

 燃える―――。


 黒い炎が視界を覆う。


 燃える。

 どこまでも燃える。

 激しく、全てを呑み込む穴の如く原初の火が燃える。


「ぐっ…ぅがッ!?」


 始めて聞くジェネシスの苦悶の声。

 分かる。

 今、俺が掴んで居るジェネシスの腕は燃えているのが分かる。

 俺の手から放たれた黒い火が、蛇のようにジェネシスの手に巻き付き、飢えた獣の如く食い殺そうと燃え上がる。

 原初の火が効かない? バカか俺は?


 効かない訳ねーじゃん!!


 確かにジェネシスは何度か防御して見せたが、おそらくあれは瞬間的な防御…と言うか抵抗や耐性に過ぎないと思われる。

 魔神ですら焼き尽くす事が出来る究極最強のこの炎を、魔神の親玉とも言うべきジェネシスだとしても完全無効化なんて出来る訳ねーだろうが! そんな芸当が出来るのは、原初の火を制御する力を持った俺1人だけだ。

 腕の焼ける音も臭いも無い。

 ただ、溶けるように掴んでいるジェネシスの腕が細くなり、次の瞬間には骨すらも焼き消え―――手首から先が黒い炎に呑まれながら宙を舞う。


「ぢィッ!!」


 掴んで居た部位が完全に消滅した事で俺の手が宙を掻き、拘束を解かれたジェネシスが慌てて距離を取る。

 だが、離れたところで意味は無い。


「炎が残ってるぜ?」

「…くっ…」


 そう、まだジェネシスの右腕―――肘から先は焼滅(しょうめつ)して完全にこの世から消えて無くなったが、黒い炎はまだその腕で燃えている。現在進行形でジェネシスの体を燃やしている真っ最中だ。

 1度発火させれば、相手が灰になるまで―――いや…相手を灰も残さず燃やすまで燃え続けるのが原初の火だ。

 普通の相手ならこの時点で決着。あと数秒放置すれば勝手に死ぬ。

 しかし、相手は真なる魔神(ジェネシス)だ。

 逃がすなっ、攻めろ!

 

「ぶち殺す!」


 ジェネシスの右腕を燃やす黒い炎に【炎熱特性付与】で“過重”を付与する。途端に何百トンの重量がジェネシスを襲う。


「…チッ…鬱陶しい真似を…!」


 重さを抱えきれずに右腕から地面に崩れ落ちる。

 ヴァーミリオンを強く握り、追い打ちをかける為に最速の踏み込みで突っ込む。

 ……にしても、原初の火の燃焼が遅い…! 俺の手が離れた途端に燃焼力がガクッと落ちた。やっぱり、ジェネシスには何か耐性か何かが備わってるのか?

 俺の動きを見てジェネシスも反応する。

 右腕を包む炎にかけられた“過重”を【事象改変】で無効にし、自由を取り戻すや否や残った左手に氷の剣を構える。

 剣戟の打ち合いをしてくれるなら好都合! 原初の火の効きが悪いのはそうなのだろうが、効果が無い訳じゃない。キンキン斬り合ってる間に原初の火が全身に燃え移ってくれればそれで片が付く!


 だが―――ジェネシスはそんな安い相手ではなかった。


「見事だ。片腕は進呈しよう」


 俺が何を言ったのか理解する前に動く。

 氷の刃を自分の右肩に当てて―――振り下ろす。


「…ぐぅッ!?」

「な!?」


 胴体から切り離された右腕が宙を舞い、地面に落ちる前に黒い炎に喰い尽され、灰も残さずこの世界から完全に消滅した。

 普通の炎を受けたのであればこんな回避法は馬鹿げている。だが、原初の火への対処法としては100点満点の花丸をやりたくなる程の完璧な対応だ。原初の火は1度発火したら全身食い尽すまで止まらない。被害を最小限に抑えるなら燃え広がる前に火の付いた部位を速攻で切り捨てるのが最も賢い。

 ……でも、それが最良だと理解していても、いざ実行出来るかどうかと言えば話は別。

 俺が同じ状況に立ったら、きっと迷いまくって被害を大きくしてた。これから先の戦闘の展開とか、ロイド君の体を傷付けていいのか…とか。

 俺もジェネシスも借り物の体と言う点に関しては同じ。だが、アイツと俺は体に対するスタンスが真逆だ。俺は「借り物の体だから」と遠慮しているのに対し、ジェネシスは「借り物の体だから」と傷付ける事への躊躇が無い。

 この差は小さいようで大きい。


「流石は原初の火…と称賛するところかな?」

「称賛なんぞ要らんからさっさとくたばんな!!」


 突っ込んで行く速度を緩めずに剣を振る。

 出来れば原初の火1撃でトドメまで持って行きたかったが、仕留め損ねたのは仕方無い。ぶっちゃけ、そんな簡単に終わる相手とも思ってなかったしな…。とは言え片腕は潰した。どんな回復能力を持ってしても右腕は蘇らせる事は出来ない。

 単純に考えれば対応力2分の1。

 好機!!


「ふッ―――!!」


 閃光のように深紅の刃が走る。


「悪いが、首をやるつもりはない」


 ヴァーミリオンが空中に浮かぶ氷の盾で受け止められる。けど―――これは想定内…


「だっつーのっ!!」


 俺の狙いは、剣での攻撃ではなく右肩。より正確に言えば右腕を切り落とした切り口。すでに修復が始まって断面を皮膚が覆いかけている。だが、完全に塞がってはおらず、赤い肉から生温かい血液が滴っている。

 狙いは―――それだ!


 【バーニングブラッド】


 滴っていた血液がスキルの力によって熱量に変換されて黒い炎となって燃え出す。


「チッ…」


 煩わしそうに舌打ちして、圧縮された空気の弾丸を俺に放つ。

 攻撃にだけ気を向けていた為、防御にも避けにも回る余裕はない。

 鳩尾に衝撃―――!


「ぅ…ぐッ…!!?」


 どてっ腹に食い込んだ痛みが―――空気の弾丸が爆発する。

 上半身と下半身をバラバラにされたような衝撃。だが、痛みがない。痛みを感じる部分が数秒だが完全に死んだ。

 体が爆発のエネルギーに負けて吹っ飛ぶ。


「ぁが…ッ!!」


 俺が離れた途端に、ジェネシスは原初の火が灯った右腕の先をハムを切るように薄くスライスして捨てる。

 それと同時のタイミングで、吹っ飛んだ俺の体をゴールドが受け止めてくれた。

 心配そうに「ガゥ…」と小さく鳴く姿が、こんな状況なのに可愛らしい。お前だって俺に劣らずボロボロじゃねえかよ…。

 赤毛の代わりに炎を纏う首元を軽く撫でてやると、いつも通りに「クゥン」と手に甘えて来る。

 腹の痛みが酷いけど、少なくても即死ダメージじゃない。これなら放っておけば治る。

 ジェネシスの右腕から落ちたスライスハムが黒い炎に燃え消されるのを目の端で捉えながら向き合う。


「厄介な物だ。まさか、こんなルール無視の能力を振り回せる人間が居ようとは…」


 ルールを守ってる気配すらない奴が言うな。と言うツッコミは仕舞っておく。


「羨ましいか?」

「羨ましいかはさて置き、面倒な事は認めよう」


 コッチの最強の手札を「面倒」程度で片付けられるとイラッとするわ。


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