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14-36 世界の命運を賭けて5

 空中に浮かぶ俺達3人を外界から切り離すように竜巻が起こり、即席の闘技場(リング)になった。

 目測約8m。並みの相手とならそこそこの広さに感じるが、相手が怪物だとこの広さは酷く狭く感じる。

 周囲で渦巻く風もただの風ではない。

 巻き上がった土埃や、ジェネシスが仕込んだらしい水流が風の壁の内側で雷の橋を繋げている。

 竜巻に呑まれたら、洗濯機の如く回され、雷に撃たれる。水流もどう動いて来るのか分かった物じゃない。


「電流デスマッチでもやりてえのかテメェは…」

「それがどんな物かは知らないが、言葉の響きはとても惹かれる物が有るな」


 自分で言っといてアレだが、そんな物に興味を持たれても困る。なんたって、現状がそんな物目じゃないくらいヤバいですし。


「ガゼル、お前雷撃耐えられるか?」

「“普通”のなら竜の波動(ドルオーラ)で無効に出来る」


 どう考えたってジェネシスが使う雷が普通な訳は無い。それ以前に【事象改変】で竜の波動消されたらその時点でジ・エンドですし。


「そう言うお前の方は大丈夫なのか?」

「俺も普通のなら防御できる」


 一応【全属性究極耐性】を原初(オリジン)から引っ張り出してあるので、雷だろうが冷気だろうがかなりのレベルまで耐えられる。もっとも、それが普通の雷であるのなら…だが。

 2人で顔を見合わせる。


「お互い気をつけるって事で…」

「だな」


 溜息の1つでも吐いてやりたかったが、それを遮るようにジェネシスが飛び込んで来る。

 ハッとした時には既に懐まで踏み込まれている―――!?


「さあ、絶望に堕ちるまで抗い続けろ!」


 氷の剣がキラキラと輝く冷気を纏って振られる。


「チッ―――!!」


 限界ギリギリまで強化された反射速度で受けに回る。

 【オーバーブースト】で限界を越えて加速。

 【火炎装衣】を発動し、深紅の炎が全身から噴き出して鎧代わりとなる。

 俺の危機意識をトリガーとして【アクティブバリア】が勝手に発動して盾を作る。

 氷の刃が最初に真希さんがかけてくれた【ウォールオブプロテクション】とか言う不可視の盾に当たる。が、一瞬で叩き割られてほぼ素通り。

 次に【火炎装衣】に当たる。微かに速度が落ちたように見えたが、それでも冷気が炎を割って刃が滑り込んで来る。

 【アクティブバリア】に当たってようやく一瞬止まる。しかし、次の瞬間には精神の盾がバキンッと音を立てて割られ、俺の体に剣が迫る。

 だが、コッチだってバカじゃない。壁3枚あったお陰で体の反応が追い付いた。

 ヴァーミリオンが辛うじて俺と氷の刃の間に滑り込み、威力が半分以下まで殺された斬撃を受け止める。

 多少攻撃が重いが、ここまで軽減されていれば押し返せる!

 「よし…!」なんて安堵の息を吐く間もない。

 氷の剣を押し返そうと力を込めた瞬間―――氷の刀身が溶けて消える。途端にヴァーミリオンが空を切る。


「ぁ!?」


 剣先がジェネシスの髪を切ったがそれだけ。

 体勢が崩れる。

 横のガゼルが瞬時に反応して槍を振り被るが、ジェネシスの2撃目の方が圧倒的に早い。


「ふんっ」


 細い腕から繰り出された拳。

 胸の下を鉄のハンマーでぶん殴られたような衝撃―――!!


「ごぅふッ!!?」


 防御も回避も間に合わなかった。

 辛うじて【アクティブバリア】だけが微かに発動したが、その程度では威力を殺す事も出来ず直撃を受ける。

 肋骨が何本が折れた事を、脳を焼く様な痛みが教えてくれる。

 真希さんがくれた最上級の防御魔法【アースガルズ】が無かったらヤバかったかもしれん…。

 【リジェネレート】の魔法と、原初(オリジン)から引っ張り出した【治癒力超強化】のお陰ですぐさまダメージを消してくれるが、それでもジンジンと響く様な痛みが這い上がって来ているような気がする。

 ダメージは消えたが、拳打の威力を受けて体が後ろに吹っ飛ぶ。

 俺と入れ替わるようにガゼルが飛び込んでジェネシスと打ち合う。一方吹っ飛ばされた俺は、背後に吹き荒れる風の壁の気配を感じてギリギリの所で踏み(とど)まる。

 セーフ……じゃなかった。

 突然背後から何かが伸びて来て俺の体を絡め取ろうとする。


「は…?」


 伸びて来た物は、風の壁の中を渦巻いて居た水流―――。

 気付くや否や即座に回避に徹したお陰で触手のようにうねる水流の大半からは逃れられたが、1本だけ避け切れずに左手が水に捕らわれる。

 水がパチンと音を立てて雷光を放つ。

 次の瞬間―――左腕に鋭い痛みが走り、腕を呑み込んで居た水が噴き出した血で真っ赤になる。


「……ぐ…!」


 やっぱり普通の雷撃じゃねぇ…! 耐性や防御魔法が貫通された…!?

 けど、元々そういう気構えで居たから驚きも動揺も無い。

 【事象改変】で、受けたダメージ、攻撃された事実、水流に捕まった事実、全てを“無かった事”にする。

 左手の痛みが消え、左手を捕まえていた水流が竜巻の中に引っ込む。

 攻撃にも防御にも気が抜けねぇ…。


「―――ガッ!?」


 ガゼルの呻き声に反応して視線を戻す。

 ジェネシスの蹴りが深々とガゼルの腹に食い込んで居た。


「ガゼル!?」

 

 竜の波動が消えている!? 【事象改変】で防御を引っ()がされたのか!?

 【事象改変】の前には、どんな能力も魔法も無効にされる。その状態で攻撃を受ければ、体の持っている素の防御力だけが頼りだ。

 最強の生物ドラゴンの極致たる竜王だと言っても、魔神の蹴りを直撃されるのはヤバ過ぎる…!

 口から真っ赤な血を口から吐きながら吹き飛ぶ。


「チッ…あのアホ!!?」


 フォローに回ろうとするが、それを目の前に現れたジェネシスが封じる。


「とどめを刺すのを見ていろ」

「ざっけんなや!!」


 最短、最速、最大の踏み込みでジェネシスに斬りかかる。が、軽々と止められる…!

 けど、一瞬でも気を逸らせれば―――!

 吹っ飛んでいるガゼルを【事象改変】でダメージを無効にしようとするが…


「させんよ」


 体が縛られたように動かなくなる。

 先手を打って【事象改変】で俺の方を封じに来やがった!?


「くっ…!」

「見ていろと言ったろ?」


 モタモタしている間に、吹っ飛んだガゼルが竜巻に呑まれる。

 風に巻かれて居た水と雷がガゼルに殺到し、枯葉の様に風に弄ばれるガゼルを殺しにかかる。


「ははは!」


 ジェネシスの笑い声と共に空気の流れがガゼルに向かって収縮する。

 全てを薙ぎ払う暴風が。

 全てを呑み込む濁流が。

 全てを貫く雷光が。

 ガゼルを捕らえる球体となる。


「地の底で果てろ」


 ジェネシスが軽く手を下に向かって振る。

 天から黒い光が降り注ぐ。いや、それは光ではない―――空から降りる、重力の柱。


「やめろ!」


 俺の動きを封じて居た“事実”を【事象改変】で上書きして自由を取り戻す。

 だが、もう遅い―――。

 ガゼルを捕らえる球体は黒い光の柱に呑まれ、地面に向かって凄まじい速度で落下する。

 助けに入る間もなく、地面が割れる。

 元々新宿は蜘蛛の巣の如く地下通路で繋がっている街だ。そのどこかに穴が開いたのだろう。

 吸い込まれるように穴に向かって球体は落下し、そして地面を揺るがす程の爆発が巻き起こる。


「―――ッ!!!」


 叫んだ声が爆風に呑まれて消える。

 下で戦っていた皆がガゼルを助けに動こうとするが、3つの巨腕が道を塞ぐ。


「人を気にしている余裕があるのかな?」


 爆音で耳の奥が痛い。周囲の音は拾えないのに、ジェネシスの声だけが耳に響いて来る。

 確かに、人を気にしている場合じゃねえ…! ガゼルがそう簡単にくたばる訳ねえし、ここは信じるしかねえ…!!


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